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最弱を求める魔導師と最強を求める復讐姫  作者: 天ヶ瀬翠
通商都市アパミア強奪戦
7/28

7話.魔具の探索

 ベル率いる反乱軍の拠点から北の方向に、港町〝アパミア〟がある。海岸沿いに十キロほどある横長の町であり、住民の大半が商人か水産業を営んでいる。また、海外出身の商人も多く在住しており、珍しい食材や貴重な武器、高価な宝石なども流通している。


 貿易の重要拠点であり、海外との交流口にもなっているため、警備兵が多く配置されている。賑やかで明るい町の裏側に、冷たい目が絶えず光っている。魔具を奪う際には、出来るだけ隠密に動く必要性がある。


「懐かしいなぁ。何一つ変わってないよ。景色も、雰囲気も、何もかも……」


 アパミアから少し離れたところで馬車から降りたエリクは思わず足を止めた。昔はアパミアという名では無かったが、この港町は百年前以上前から存在していた。その時からも非常に賑やかだったことがエリクにとって一番印象に残っていた。


「ねえルキーノ、大丈夫?」

「ああ……なんとかな……うぇっ」


 長時間馬車に揺られ、気分を害したルキーノは顔を真っ青にしていた。ふらふらと千鳥足で歩きながら、壁を見つける度にもたれ掛かっている。背中をさすっているチェルを見ながら、エリクはベルに尋ねた。


「……もう探し始めていいのかな?」

「構わないわよ。あ、ルキーノのことは心配しなくていいわ。三分後には元に戻っているから」

「そうなんだ。じゃあ問題ないね」

「いや……ちょっとは心配をだな……うっぷ」


 エリクは目を閉じて、魔具を探し始める。

 真っ暗な世界の中に、魔具の位置が二つの点として浮かび上がる。そしてその点を中心に、街を象る無数の白い線が四方八方に伸びた。

 エリクは魔具だけでなく、建物や地面に付いている微弱な魔力を感知していた。脳内で描かれる地図がエリクの足元まで広がった時、目的地への具体的なルートが明確になる。


 エリクは目を開き、アパミアの地図を開いて位置を確認する。


「一つは海沿いにあるこの桟橋にいる人が持っているね。この桟橋の上には一人しかいないから、すぐに分かると思う。あともう一つは、商店街の中にあるここ店の中。店の中には三人いるけど、全員が守っていたら厄介だね」


 どちらとも幸い距離は遠すぎない。奪って戻るだけなら三十分もかからないだろう。


「商人の護衛や警備兵……所謂プロが魔具を持っている可能性は高いわ。長らく寝てた魔導師様は大丈夫なの?」


 挑発するベルだが、いちいち突っかかるエリクではない。


「当然だよ。ところで……三人とも僕を警戒しすぎじゃかな?」


 ベルと話すエリクの背後の三人は、ずっと臨戦態勢でエリクを見ていた。常に手を柄にかけているリナに、魔力が蓄えられた球を手に持っているチェル。顔を真っ青にしているルキーノすら、懐に仕込んだ武器を触っている。


「別に私が指示出したわけじゃないけど……本能的に感じてるんじゃない? 別の魔導体系を持つ魔導師は危険ってことを」


 魔導師は、自分の魔導体系を持つ人間を増やすことが存在意義である。魔導体系を拒否した人間は存在する価値が無い。

 過激派な魔導師であれば、他の魔導師が強くなることを嫌い、拒否した代償として命を奪う。

 それは魔導師戦争が始まった三百年前から続いている。

 戦争時代には〝継承してくださった魔導師様以外とは決して関わるな〟と誰しもが教育を受けていた。その頃の教えがまだ残っているとベルは言いたいのだろう。


「まあいいんだけどさ……ところで、魔具を持っているのは二人。離れた位置にいるけどどうする?」

「二手に別れましょう。エリクはチェルと店の方へ、私はリナとルキーノで桟橋の方に行くわ」


 エリクはチェルの方へ視線を向けると、意外なことにチェルは手に持っていた球を鞄に入れて頭を垂れた。


「仰せのままに。よろしくお願いします、エリク様」

「あ、ああ。よろしく」


 あまりの急変ぶりに、エリクは思わずたじろいだ。

 チェルは初めてエリクと会った時から、ずっと魔力の篭った球を持ち続けていた。それだけエリクへの警戒心が高く、特にベルといる時は魔力の流れが人一倍活性化していた。


「リナ、先行して爆弾を幾つか海に撒いてきて。その爆発への反応で、一番強いと感じた敵をマークして」

「承知しました」

「ルキーノ、いつまで苦しそうなふりしてるの。さっさと行くわよ」

「え、俺まだ気持ち悪いんですけど……嘘です嘘です、行きますったら!」


 リナが無音で走った後を、ベルはルキーノを引っ張るようにしてついていった。

 三人の姿が見えなくなったと同時に、チェルは右隣へと立った。


「よろしくね、チェル」

「こちらこそよろしくね、エリクさん」


 にっこりと笑顔を向けてくるチェル。

 あまりの急変ぶりに、エリクはぞくりと悪寒を感じた。

 傍から見ると、背の低いふりふりなメイド服を着た人畜無害そうな少女にしか見えない。だが、彼女の表情・目線・手・足……その全ての動きに何か意味があるのではないかと勘ぐってしまう。

 エリクは頭を横に振って、魔具がある方向へと歩き出す。少し遅れて、チェルが後を追う。


「君も、僕のことは警戒してる?」

「そんなこと無いよ。ベル姫が信頼している人を、疑う理由が無いからね」


 ――嘘ばっかり。

 チェルの体内魔力が、エリクがいる体の左側に多く流れている。いつでも術が発動できる状態になっているということである。


「きみの方が私を警戒してるんじゃないの?」

「まさか。魔術士を警戒する魔導師がいるわけないよ、オリヴィア=チェルーティ」

「なっ! なんでその名を……」


 チェルが隠してきた本名を口にすると、可愛さが台無しになるくらい目と口を大きく開いていた。


「いや……ベルに聞いただけど。って、なんで名前で呼ばれるのが嫌なわけ?」

「嫌っていうか……まあその、大した理由じゃないんだけど……」


 驚いた表情から、急にもじもじしだしたチェル。


「……ないから」

「え?」

「可愛くないから! オリヴィアって名前、なんか古風っていうか堅いっていうか……とにかく可愛くないから好きじゃないの!」


 叫ぶように言い放ったチェル。全くもって想定外の答えに、エリクは思わず笑ってしまった。


「あはは! なんだそりゃ、可愛くないって」

「みんな笑うけど、私結構コンプレックスに思ってるんだから。わからなくてもいいけど……」

「ごめんごめん。不意を突かれて思わず堪えられなくなったよ」


 笑い涙を拭うエリクを見て、頬を膨らませるチェル。

 話している間に、チェルの体内魔力が警戒態勢ではなくなっていた。

 魔力を向けられることは、魔力が視えるエリクにとってはナイフを突きつけられると同等の意味である。拠点を出るときからずっと突きつけられていたナイフから解放されたためか、エリクは小さく安堵の息を漏らした。

 ようやく、聞きたかったことを尋ねられる。


「ところで、チェルはこの街について詳しいのかな?」

「詳しいってほどじゃないけど……買い物にはよく来るから、一通りはって感じかな」

「それなら、天具を売ってる店を教えて欲しいんだけど」


 天承術のを武器と化した天具。

 魔術道具の先駆者として、魔具に比べてどの面で優れており、どの面で劣っているか調べずにはいられなかった。


「ここをまっすぐ行ったところにおすすめの店があるよ。……何かに必要なの?」

「そういうわけじゃないけどね。僕は天具をあまり知らないから、見ておきたくって」


 天承術や天具を作った〝平等の魔導師〟は人が嫌がることをすることが好きな捻くれ者だった。エリクも何度も彼の意地の悪い戯れに付き合わされ、苦渋を味わってきた。

 もし魔具が優れていたら優位点を並べて自慢し、もし天具が優れていたら模造品だと罵倒してやる。そんな負けず嫌いな子供のような意気込みで、エリクはチェルの言う天具の販売店へと早足で向かった。

ら、

 アパミアは商業や水産業を中心とした町であるため、武器・防具を扱う店は少ない。こと天具に至っては、商店街から一本道が逸れた薄暗い通りに、三店舗並んでいるだけだった。


「私、ここ何か出そうで怖いんだよねえ……」


 チェルの声のトーンが少し下がる。

 スラム街のように浮浪者がいるわけでもなければ、ゴミが散らかっている訳でもなく、日が差し込まないわけでもない。

 ただこの街にしては、極端に静かなだけである。耳を済ませばうっすらと街の声が聞こえる。


「そう? 僕は静かで好きだけどね」


 並び立つ三店舗の中で、エリクは自分自身に一番近い店へ入っていった。

 三店舗中、一番オシャレな外装をしていた店は、築年数が浅いためか店内も綺麗な造りになっていた。

 店の入り口ドアすぐにある豪勢なシャンデリアが客を迎え、弾力ある絨毯がおもてなしをし、白い大理石で作られた机が天具を乗せて待っている。


 店内にいる客も気品のある人ばかりで、価格から考えても富裕層向けの店なのだろう。

 エリクは店内にある天具をぐるりと見回して、すぐに店を出た。


「え? もういいんですか?」

「うん。この店に置いている天具はしょぼい魔術しか込められていないからね。装飾や素材、あとは発動した際の魔術をどう美しく、安全に発動するかってことに力が篭ってる。色んな意味での〝魅せる〟魔術を使うための道具しか置いてなかったってこと。端的に言えば、使えない天具ばかりだったね」

「端的に言い過ぎだよ……」


 苦笑いするチェルをよそに、エリクは隣の店へと入る。

 煤だらけの年季が入ったレンガ造りの店構えで、老夫婦が経営していた。チェルが一番お世話になっている店らしく、店に入った途端に老夫婦から軽い会釈をされていた。


「ここはどう? 使える天具もあると思うんだけど」

「そうだね。玉石混交って感じだけど、さっきの店よりかは遥かに良い。実用的で、尚且つ安い。ただ値のつけ方がお粗末かも。僕なら……例えば、このランプはもう少し値上げするけどね」


 入り口のすぐ右手に置いてあった銅のランプの側で、エリクはしゃがんだ。


「どうして? これって、明かりを灯すだけの天具でしょ? そんな高くする必要は……」

「ここに刻まれている魔術は〝起こした火の熱エネルギーを光エネルギーへの変換〟。例えば火を無力化したい時にこのランプを使うと、火を光に変えてくれるんだよね。火属性の魔術への圧倒的な対抗策にもなるし、火事を抑えるときなんかにも使える。こういう汎用性ある物は、高くして良いと思うんだよ」


 話を聞いていた老夫婦はすぐさまランプを店の奥の方へと持って行った。

 エリクの話が正しい事を確かめてから、値札を更新するのだろう。


「すごい……万視の力って本物だったんだね」

「本物だよ。まあでも、天具ってよく考えられている。魔術の一つの現象を天具として刻み込んでるから、低魔力で瞬時に発動できるんだね。魔力が低い人でも簡単に扱える……平等の魔導師が考えそうなことだよ」

「魔具は違うの?」

「全然違うね。言葉で説明するのは難しいけど……天具よりも魔力と発動時間が必要だけど、複数能力を発動できるんだ。〝魔術〟じゃなくて〝魔導体系〟そのものを刻み込んでいるからね」


 専門用語が並べられた説明に、頭を傾げるチェル。

 エリクは頭を掻きながら分かりやすい説明を頭の中で組み立てる。が、イマイチ良い言葉が出てこない。そもそもエリクの魔導体系は単純に言葉にすることが難しいため、どう足掻いてもややこしい説明となる。


「まあそもそも、自然現象だけが対象の天承術と違って、僕の魔導体系は魔力や精神に直接作用する能力もある。だから魔具の方が能力の幅は広いよね」

「なるほど! ……魔力を視る眼というのも、エリク様の魔導体系が魔力に直接作用するからなんだね」

「その通り」


 エリクは頷きながら店の外へと出る。


「さて、チェル。次の店……そこには魔具が眠っている。中には人が三人いるけれど、敵味方は不明。店内も狭いし、派手な迎撃をして騒ぎになってもいけない。この条件下で、チェルの能力は使える?」


 図星のためか、黙りこくるチェル。


「分かった。もとよりそうするつもりだったけど……今回は僕一人でやる。君はどうか見ていて欲しい」

「え? でも三人も……」

「この条件で戦いにくいのは相手も同じ。大丈夫、なんとかしてみせよう。そして君は戦果をベルに報告してくれればいい」


 そしてエリクは、ゆっくりと三軒目のドアを開けた。

読んで頂きありがとうございましたm(_ _)m


次回は〝3月2日〟更新予定です。


ご感想・ご指摘・ご意見等々頂けるととても助かります。批判含め受け付けておりますので、忌憚なく書いて頂ければ幸いです。

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