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6話.〝導きの魔導師〟としての力

 エリクがじっとチェルを見ていると、不意に笑いだした。


「あはは、さすがにバレちゃったか」

「そりゃバレるよ。まさか魔導師と挨拶しようとした手に武器を仕込んでいるなんてね」


 チェルが握手しようとした手を開けると、水色の玉があった。

 直径三センチほどで、一件害があるようには見えない。


「別に大きな音を出してびっくりさせただけなんだけどね。手をふっ飛ばすほどの威力は無いから、ご心配なく」

「ああ、分かってるよ。けど、警戒するに越したことは無いと思ってさ。だって君は……この中でおそらく、ベルの次に強いからね」


 そういうと、チェルの表情が一瞬強張った。

 気さくな性格にいたいけな少女らしい服装をしているが、それはおそらく偽りを生み出すための道具にすぎない。いくら殺す気が無かったとはいえ、所作に全くの不自然さを出さずに玉を仕込んだ。

 スパイか、或いは、暗殺者か。

 いずれにせよ、偽りを演じることに特化した環境に身を置いていたのだろう。


「もういい、チェル。下がっていいわよ」


 チェルは深々と頭を下げ、退場した。

 そしてベルは興味津々な目でエリクを見た。


「それが噂に聞く〝万視〟。魔力を見通す〝導きの魔導師〟としての力ね」


 人に魔術を導くためには、まずその人がどういう魔術が得意か見極める必要がある。その為に導きの魔導師が会得した力が〝万視〟である。人体の中に流れる魔力が見え、量と質を知ることが出来るだけの単純な能力である。


「やっぱり知っていたんだね。で、それをテストさせられたっと」

「テストなんて人聞きが悪いわ。長年の眠りのせいで、力を失っていないか見ただけよ」

「結局試したことになるけど……まあいいや。でも眠っていたから力を失ったっていうのは杞憂だよ。万視を含めて、他の能力も問題なく発動できる」


 体内にある魔力を流れる回路は、使用していなくても衰えることはない。体力の低下や体を動かす勘は鈍っているだろうが、こと魔術においては眠る前と比べても遜色なく発動できるだろう。

 ベルは手をぽんと体の前で合わせて微笑んだ。


「それなら良かった。なら早速、魔導師としてお願いしたいことがあるんだけど」

「断る」

「……えーと、私まだ何も言っていないんだけれど」

「聞かなくても分かる。でも、それは受け入れることは出来ない」


 エリクは立ち上がり、力強く言い放った。


「魔導継承の儀だけは、断固として拒否する!」


 魔導継承とは人間を魔術士にする契約のこと。

 つまるところ、平等の魔導師との魔導継承を破棄し、導きの魔導師との魔導継承を結ぶということだった。


「できない? やらない、の間違えでしょう?」

「どっちでも一緒だよ。そもそも、こんな平等の魔導師バンザイの国でやっていいわけ? 一生迫害されるよ」

「別にいいわよ。元より追われてる身だから」


 ベルはバッサリ言い切った。

 導師国で魔導体系を切り替えたと知られたら、迫害か或いは禁固刑になってしまう。例え目的の人物を討てたとしても、そのあとの居場所が無くなってしまう。


「ベルが良くても、他に良くない人もいるだろう。家族を持っている者、店を持っている者などな」

「確かに国に思い入れがある、または離れられない人もいる。だから、魔導継承するのは私だけ。どんなデメリットがあるか分からないのもあるけど」

「それでもダメだ。君と共闘して誰かを倒したりするのは構わない。けれど、魔導継承だけは是が非でも断らせてもらうよ」

「どうして? 魔導師にとって、自分の魔導体系を与える人を増やすことが存在意義じゃなかったの?」


 きょとんと首を傾げるベルに、エリクはため息をつきながらソファに腰を下ろした。


「理由は単純明快だよ。魔導継承は僕にとってマイナスでしかないからだよ。それは……導きの魔導師の最大の弱点でもある」


 エリクは椅子の肘置きに頬杖をつき、苦々しい表情で続けた。


「隠したところで君にはバレているだろうから言うけど、導きの魔導師が継承をした際に発現するある技能が問題なんだ。それは〝導きの魔導師の場所が常に分かる〟ことだよ」


 導きの魔導師はその性質上、魔導体系を授けた人間を最大限にバックアップできるような能力になっている。魔導体系を授けた人間の位置が常に分かるようになりため、誰がどこにいるかはすぐに分かってしまう。逆に魔術士もいつでも魔導師を頼れるように場所が分かるようになっている。

 が、ありがた迷惑な能力だった。


「もし魔導継承した人がエリクを裏切った時、常に狙われるリスクがあるということ? でも、いくらエリクが力を分散させて弱っていたとしても、魔導師である貴方なら倒される事はないでしょう?」

「対処できるかどうかって問題じゃないよ。そもそも僕は自身の平穏な日々を求めて、魔力を自ら手放し、眠りについた。だから、少しでも僕が平穏から離れやすくなるような事はしたくないんだ」


 エリクがベルに協力しているのも、増えている魔力の原因を突き止め解消するためである。魔力増加が解消すれば、再び隠居生活に戻ることができる。

 

「……私はこんな危ない男の配下になることは無いと思いますけど」


 リナがぼそりと呟いた。

 それは紛れもない正論だった。もし力を求めるなら、例えば〝平等の魔導師〟に敵対している魔導師や、火力に特化した魔導体系を持つ魔導師に接触すべきだった。


 しかしベルは、


「大丈夫よ、リナ。彼の弱みは握っている。だからこそ、私たちにとって扱える唯一の魔導師なの」

「そ、そうかもしれませんが」


 リナはまだ納得行かない様子だが、はっきりと否定することは出来なかった。魔導師と協力する最大のリスクは、主導権が常に魔導師にあることだ。エリクのような例を除き、基本的に魔術士の上位互換である魔導師には抗うことができない。

 もし途中で辞められたり、裏切られたり、理不尽な要求をされた時に対処が出来なくなる。


「分かったわ、エリク。魔導継承の件は一旦保留にする。あともう一つ、あなたに〝魔具探し〟をお願いしたいんだけど」

「それなら大歓迎だ」


 魔具を探す理由はもちろん、反乱軍の火力底上げだろう。

 天承術では起こし得ない奇跡を、エリクの作った魔具では起こすことができる。故に常識では計れない行動が可能となる。

 エリクにとっては、自身に起きている魔力異常を調べる一環として魔具の調査もしたかったため、断る理由が無かった。


 エリクの快い回答に、ベルは満足げに微笑んだ。


「それなら、早速調べて欲しいのだけど――」


 ベルは壁に貼り付けていた地図を、エリクの前で広げる。


「一番近くにある魔具がどこか分かるかしら?」


 エリクの魔具を探知する力は、目を閉じて意識を集中することで発揮する。

 魔具とは、いわば魔導体系を与えられた物体。エリクの魔導体系を与えられた人を探せるように、物も探すことができる。

 弱い気配や強い気配、大小様々な気配が色々なところに散らばっている。エリクが眠る前はさほどバラけていなかった筈なのに、ここまで散らばっていると人数分集めることは至難だ。


「多いのは北の方角に二十キロだから……ここか。この街に二つある」


 エリクは拠点から指を上へと動かして、ぴたりと止めた。そこは〝流通交港アパミア〟と地図に描かれた町だった。。

 ベルは顔をリナの方へ向けた。


「リナ、ルキーノとチェルに伝令。明日、アパミアに出発すると」

「しかし、ベル様お一人に」

「問題ないわ。力を失っている魔導師に勝てないわけないじゃない」

「……分かりました。早速伝えてきます」


 リナは名残惜しげに一度振り返ってから、部屋を素早く飛び出した。


「真面目なの、あの子」

「真面目だな、あいつ。それより明日でいいの? 休息は取らなくて大丈夫?」

「あの子達なら大丈夫よ。それに、魔具を持った人が海外に行かれたら困るでしょう?」

「いや、まあそうなんだけど……」


 ベルの言う通りなのだが、あまりに行動に移すまでの時間が早すぎて驚いてしまった。そして、それに躊躇いもなく従うリナにも。


「むしろ、疲れたのはエリクの方でしょう?」

「……まあな。なら、俺も早々に寝るとしようか」


 久しぶりに脳みそを動かしたせいで、エリクも疲労を感じていた。

 特にベルとの会話の最中、一瞬たりとも気を抜けない空気がエリクの体力を奪っていた。

 ソファから立ち上がり、身を翻して廊下に出ようとした時だった。


「おやすみなさい、エリク」


 何気ないその一言に、エリクは硬直した。

 振り返ると、ベルは微笑みながら手を振っていた。一体何がしたくてそう言ったのか分からない。だが、八十年ぶりに聞いた挨拶にエリクは頬を掻きながら応じた。


「ああ。おやすみ、ベル」

読んで頂きありがとうございましたm(_ _)m


次回は〝2月20日〟更新予定です。


ご感想・ご指摘・ご意見等々頂けるととても助かります。批判含め受け付けておりますので、忌憚なく書いて頂ければ幸いです。

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