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13話.拠点防衛戦-開始-

 こうなってしまった以上、やることはただ一つ。

 敵の手にある、多重継承された魔具を奪うことだけだ。

 ダニロという男の手にある剣は、港町で奪った魔具よりも遥かに多い量の魔力が混ざり合っている。

 意図して多重継承されていると考えて間違いない。

 

「ここにいる事は分かっている。突き出したやつには褒美をやろう。応じない場合は……全戦力をもって掃討させてもらう!」


 ダニロは弱者を揺さぶるような言葉を投げかけてきた。ベルのカリスマ性と統率力は大したものだが、どのようなワードが裏切りのきっかけになるか分からない。

 五百名の殺しのプロと、百名のアマチュア。ダニロ以外の魔術士は、魔力量的には大した使い手ではないが、経験や人を殺す行為に対しての慣れは軽く見るのは危険というもの。

 現状、優劣を語るのも憚られるほどの戦力差である。


「……今の魔力だと、ギリギリか」


 魔力総量が少ないエリクにとって、短期決戦で終わらせるのが最善である。

 ならば、如何に素早く指揮官であり、戦力の要でもあるダニロを潰すかが重要となる。

 作戦を練りながら、建物を出ようとした時だった。


「断固拒否するわ!」


 凛々しく、猛々しいベルの声が一喝した。

 エリクは頭を手で抑えた。

 駆け引きもひったくりもない、真正面からの全否定。


「勇ましいことだが、それが何を意味しているか分かっているのかね?」


 物陰から顔を出すと、ダニロらしき男から火の龍が具現していた。

 それも八頭を同時に、ぐるぐると彼の周りを回っている。

 ベルのような自然を操る魔術だがダニロは完全に制御できている。そして、火という触れただけでもダメージになる属性を操っている。


「お前は防げるかもしれんが、後ろのお仲間を全員守れるかね?」

「守ってみせるわ。命に代えてでも……誰一人殺さずに、貴方達を鏖殺してあげる」


 一体何の根拠があって、その自信に溢れた表情が作れるのだろうか。

 ベルの能力は局所集中型であり、八つに分散している龍全て防ぐことは出来ないはずである。もちろん奥の手があるのであれば別だが、基本的には相性最悪である。


 しかしその姿が、エリクの旧友にそっくりだった。

 特に、考え無しに自らの正義を貫く姿勢が。


「無理はいけないよ、ベル」

「あら、てっきりびびって潜んでるものだと思ってたわ」


 エリクが歩み寄ると、ベルが振り返る。わずかにほっとしたのを、エリクは見逃さなかった。やはり、見栄を張っていたのではないだろうか。いずれにせよ、この場を被害最小限にしてくぐり抜けるには、エリクの力が必要になってくる筈だ。


「おお、これはこれはエリク=アルドロ――」

魔力顕現(アルヌカム)


 言葉を遮るように、エリクは魔力解放する。

 白い光と風が数度放たれ、全身に魔力を纏う。アパミアで解放した時よりもすばやく、かつ、魔力のロスを少なめにして発動できた。やはり何度か発動しないと全盛期ほどの発動速度にはならないらしい。


「そういうのは一切無しだ。やるならやろう。時間が惜しい」


 ダニロは顔を歪ませた。主導権がエリクに移ってしまったのだから、面白くないのだろう。

 徐々に周囲に霧が立ち込める。リナが魔具を起動したのだ。拠点全体を取り囲むように展開し始め、徐々に敵陣へと伸びていく。


「……仰せのままに。皆のもの! 準備は――」


 一人、首が跳ねた。

 エリクの魔力を込め、鋼鉄と化した手刀が骨もろとも断ち切った。

 彼らが認識していたエリクは、途中から幻にすり替わっていた。本物は静かに接近した後に、魔力量の高い兵士を狙った。

 周囲の者が固まる。

 エリクは心の中で嘆息した。


 この軍は、あまりにもぬるま湯に浸かりすぎている。


 なぜ、命をかけたやり取りであるのに、上司の命令が出るまで動かない?

 なぜ、不測の事態に備えて、武器を構えていない?


 綺麗な戦いばかりしていたせいでこの有様だ。

 あまりにも戦争を知らない。

 ルールや手順、礼儀作法なんてあるわけがない。情けや手加減などする余地もない。

 殺すか、殺されるか。

 戦争にあるのは、それだけである。


「貴様ッ……!」


 ダニロの顔が驚愕から憤怒へと変わる瞬間にはもう始まっていた。

 すでに周囲には深い霧が展開しきっており、足が止まる兵士たちをリナが次から次へと首を薙いでいた。

 天承術により音を消し、魔具で幻のリナをいくつも出現させることで、絶対に捉えることのできない暗殺者を作り上げた。彼女は的確に喉笛と胸を貫く。

 拠点の建物の屋上から投擲されたらチェルの作り出した爆弾が降り注ぐ。直撃した敵兵は、断末魔を上げることもなく肉片となり散っていった。魔具により魔力総量が上がったチェルは、以前の数倍威力が高い爆弾を生産できるようになった。例え爆発に耐えたとしても爆風には耐えられず吹き飛ばされる。


 視界を奪われ、仲間が次々と倒れ、挙句の果てには爆音が鳴り響く。戦争に慣れてない兵はたったこれだけで、パニック状態に陥っていた。

 だが、これだけでは終わらない。


「撤退だ! 儂へ続け!」


 恐怖心で戦意を失った兵は、声が聞こえる方へ一斉に走り出した。

 それが本来ダニロの位置から聞こえた声とは考えずに。


「ダニロ様の声だ! やっぱり魔導師を相手にすべきじゃなかった!」

「風で吹き飛ばせない霧なんてありえない! こいつら悪魔に染まってやがる」

「違う! それは儂ではない!」


 本物のダニロが必死に叫ぶが、兵たちの足音で掻き消される。濃霧で龍の炎も見えなくなっているため、兵士たちは余計に気にかけることが出来なかった。

 煙から抜け出した兵は、眼前にダニロの姿を捉える。


「よう逃げおおせた。そんな生きて出てきてしまったお主たちには……」


 ダニロの姿に靄がかかり、別の人物の体が浮かび上がる。


「〝死〟という褒美をやろう!」


 変装魔術を解いたルキーノが高らかに叫ぶと、空からチェルの爆弾が集中砲火された。

読んで頂きありがとうございましたm(_ _)m


次回は〝4月2日〟更新予定です。


ご感想・ご指摘・ご意見等々頂けるととても助かります。批判含め受け付けておりますので、忌憚なく書いて頂ければ幸いです。

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