私のお城
下校のチャイムが響き渡る。しかし,白いボールを真っ黒になって追いかけている者もいればチャイムに負けないどころか勝つかのような音量で演奏している者もいる。下校時間になったからこそ,学校という枷が外れ思い思いの青春を各々の形でぶつけていく。それらの喧騒を背景に私は職員室から教室への道を歩く。
「この騒がしさ,嫌いだなぁ」
この独り言は喧騒によってかき消された。
私は部活には何も所属していない。所属しろというお上からの命令だったけど,そんな紙はどこかに消えてからどうでもよくなった,いや,どうでもよかったからどこかにお隠れになったのかな。
と,考えているうちに教室にたどり着く。もちろん教室には誰もいない。このような景色にはほんのちょっとした背徳感を覚える。例えば,先生に注意されないか,クラスメイトに合わないか,とか。もちろん,反して高揚感もある。なぜならこの教室はこの時,この場所,この瞬間は私のお城なのだから。
誰もいない教室だからこその趣が見えてくることがあり,そこから含まらせる妄想というのはたのしい。私は近くにいる名も知れない同級生の机の上に座り足をぶらぶらとさせる。
「この静けさ,好きだなぁ」
この独り言はこの教室に雪のようにひらひらとして教室の中を漂う。
この教室に動くものはいない。しかし,この教室はさっきまで,ロッカーも机もイスも踊り出し文房具に至ってはその支給人であるかのように忙しく動いていた。仕事が終われば机やイスが規律よく並ぶが文房具の処遇は様々だ。あるいは,勉強熱心な子に連れて行かれた高そうなシャーペンは学校が終わった後も塾で残業をするだろう。あるいは,鞄の中に詰められてご主人様と帰李,一緒にショッピングを楽しむのだろうか。あるいは,鞄に詰められたはいいものの明日になるまでその封印は解けないとか。あるいは,この教室の中に未だの残っている文房具も幾つか残っているだろう。
ロッカー,黒板,机,イス,残された文房具たち,この部屋にはたくさんある。ここからが私の特別な時間,お姫様としてのね。
「サァ,出てらっしゃい。私の可愛い下僕たち」
そう私が言うと騒がしいクラスメイトの机の中からボロボロになった筆箱と,本来の使い方をしていないためにヨレヨレになった教科書達が出てきた。また,普段真面目そうな子の机の中から忘れ物であろうシャーペンが出てきた。他にも不良な人の机の中からはスナック菓子やゲーム機まで出てきた。他にも,他にも……
そろそろ全員揃ったかな?
「サァ,作戦会議といきましょ」