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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

こんな童話は嫌だ『シンデレラ』

作者: アルラウネ

前にarcadia様に投稿した奴を調子に乗ってこちらにも投稿☆

 むかしむかしのお話です。あるところに、一人の娘がおりました。

 彼女の母は早くに亡くなり、父が再婚をしたので娘には新しい母と二人の姉が出来ました。美しく優しい家族が三人も増えた事に娘は喜びましたが、父が病死すると継母と義姉たちは態度を変えて娘に辛く当たるようになりました。

 本人には自覚がありませんでしたが、娘はとても美しかったのです。継母と二人の義姉よりも。彼女らは自分たちより美しい娘が気に入らなかったのでした。


 継母と義姉たちは家の仕事の全てを娘に押し付け、使用人でも着ないようなみすぼらしい服を着せて馬車馬の如く働かせました。そのせいで常に灰や埃だらけの娘は、いつしか継母や義姉たちから『シンデレラ(灰かぶり)』と呼ばれるようになりました。


 ある日の事、この国の王子が妃候補を探す為の舞踏会を開く事になり、シンデレラの家にも招待状が届きました。大喜びの義姉たちは、さっそく舞踏会の為の身支度をシンデレラに任せました。


「舞踏会、楽しみね」

「ええ、王子様の妃になれるかも」

 義姉たちの会話を不安げに見ていたシンデレラに、上の義姉が声をかけました。


「なぁにシンデレラ、お前も舞踏会に行きたいの?」

シンデレラは慌てて否定します。


「とんでもありませんわ、大義姉さま。私のような者が舞踏会に出るだなんて」

 シンデレラの言葉を聞いて、下の義姉が笑います。


「そうよね! お前みたいな薄汚れた子が舞踏会なんかに行っても恥をさらすだけだもの!」

「……ええ、小義姉さまの言う通りですわ」


 下の義姉の心無い言葉に、シンデレラは俯き、肌を紅潮させて肩を振るわせました。その後、義姉たちはシンデレラをひとしきり笑い者にした後、いつものように家の雑事の全てをシンデレラに押し付けて舞踏会へと出かけて行きました。


「はぁ……私はどうしてこんなに、こんなに……」

 シンデレラは、理不尽な家族と不幸な現実に、その頬を泣き濡らして――


「こんなに幸せなのかしらっ!! 小義姉さまってば、あんなに私を笑い者にして……うふふ、ゾクゾクしちゃう」

 ――いませんでした。むしろ、肩を抱き、頬を紅潮させて幸せに身を振るわせるかのようでした。いえ、事実シンデレラは幸せを感じていました。


「それに大義姉さまの、あの私を見下しきった眼差し……あぁ……素敵だったわ……」

 そう、彼女は真性の被虐趣味の持ち主だったのです。

 まるで悲劇のヒロインにでもなったかのような自分に酔うのが好きで、同時にそんな自分を軽蔑し、しかしそれすらも快感に感じる。


 家族によって行われるありとあらゆる仕打ちが大好きだ。

 汗水流して整頓した棚や物を家族に滅茶苦茶にされるのが好きだ。

 激昂状態の継母が平謝りする自分を何度も何度も鞭打っている時など感動すら覚える。

 貴族主義の義姉たちに理不尽な理論で吊るし上げられた時などはもうたまらない。

 泣き叫んで謝る自分が、降り下ろした手の平とともに金切り声を上げる義姉にばしんばしんと張り倒されるのも最高だ。

 義姉たちに食べてもらおうと健気にも作ってきた菓子を継母の高笑いと共に入れ物ごと木端微塵に粉砕された時など絶頂すら覚える。

 シンデレラはそんな少女でした。


「でも、舞踏会か。踊りを踊って王子様とお話するのってそんなに楽しいのかしら?」


 シンデレラには義姉たちが語る舞踏会で王子に見初められることの素晴らしさは微塵も理解できませんでした。王子の妃になって幸福を掴むとかいう以前に、継母や義姉にぞんざいに扱われる自分の現状が最高に幸せだったからです。

 むしろ、万一王族の妻にでもなってしまったらもう虐めてもらえなくなるではないか! 王子に見初められるなんてとんでもない! という思考回路でした。


 なので、王子様が嫁を探してるとか言われても「ふーん」ぐらいの感想でした。しかし、シンデレラはハッとしました。


「大変! 義姉さまたちが見初められてしまったら、私を虐めてくれる人が減るわ! どうしましょう!」

 そうです。義姉たちが見初められる可能性は無いとは言えないのです。


「もし王子が被虐趣味だったら、義姉さまたちにイチコロだわ! 間違いない!」

 しかし、シンデレラの感覚はどこかズレていました。シンデレラのような性癖の持ち主はそうそういるものではありません。

そもそも、王子に好かれたい義姉たちがいつもシンデレラにしているような態度を取るはずもないのですが、シンデレラはそんなことには気付かず、さらに思考を暴走させていきました。


「はっ!? でも、例えばもし大義姉さまが選ばれて小義姉さまだけ家に残ったりしたら……苛立ちで私に対する当たりがもっと強くなって、より一層私を虐めてくれるようになるんじゃ……!?」


 どういうわけかそんな結論に至ったシンデレラは、妄想の世界に思考を飛ばしました。


「ちっ……なんなのよあの王子! 姉を娶ったなら妹の私も側室に迎えるぐらいしなさいよ、甲斐性無しが……シンデレラ! さっさとお茶を持ってきなさい!」


「は、はい! こちらです小義姉さま!」


「……っ、不味い!!」


 下の義姉(妄想)はそう吐き捨てるとカップを中身の紅茶ごとシンデレラの顔めがけて投げつけました。


「きゃあっっ!!」


 投げられたカップはシンデレラに直撃し、紅茶が降り注ぐと同時にシンデレラの美しい顔に切り傷を作りました。


「なぁにシンデレラ、こんなに不味いお茶を私に飲ませて。お前、私を馬鹿にしてるのかしら? 妃に選ばれなかった私を負け犬だと見下して嘲笑っているんでしょう?」


「そ、そんなことありませんっ! 私なんかが小義姉さまを見下すなんてそんな……」


 シンデレラはそう答えましたが、下の義姉(妄想)は不機嫌そうに眉を吊り上げました。


「ふん……いい子ぶっちゃって。内心では私を悪者にしてヒロインぶってるんでしょう? 灰かぶりのくせにっ!」


「ひぃっ……!」


 下の義姉(妄想)は手近にあったフォークをシンデレラに投げつけました。シンデレラは既の所で身をかわし、頬を切り血が流れ落ちました。


「ふん……まぁいいわ。これからも捨てずにこき使ってやるからありがたく思いなさい。なにせ、お前はここから放り出されたら何処にも行く所のない、雑用ぐらいしか取り柄のない底辺層の人間なんだからね?」


「は、はい。ありがとうございます。これからもよろしくお願いします、小義姉さま……」


 シンデレラのその返答に下の義姉(妄想)は満足げに微笑みました。



「ああ……素敵すぎます小義姉さま……もっと、もっと虐めて下さい……」


 妄想の世界にトリップしたシンデレラは下の義姉(妄想)の虐めを懇願しながら両手で身体を抱きくねくねと悶えていました。勝手なイメージを押し付けられて下の義姉(現実)もさぞ迷惑でしょう。


「はっ、私は何を……そうだわ、義姉さまたちが見初められたらどうしようかと考えてて……」


 ようやくシンデレラは正気を取り戻したようですが……。


「大義姉さまが見初められたら……一番私を虐めてくれる人がいなくなってしまうわ……ああ、でも……王妃になった大義姉さまに下民として見下され嘲笑されるのも……素敵かも……」


 いけません、これは先ほどと同じパターンです。さっそくトリップしかけています。


「はっ!? 大義姉さまが王妃になったら一番こき使い慣れている私が大義姉さま付きの侍女として召し上げられるかも……!?」


 常識的に考えてまず無いと思われますが、暴走妄想少女シンデレラに常識の壁は通用しません。妄想の世界では脳内設定こそが真理なのです。


「シンデレラ、紅茶をちょうだいな」


「はい、ただいまお持ちします王妃さま!」


「あら、王妃だなんて。前のように大義姉さまと呼んでくれていいのよ」


「は、はい! 大義姉さま! 紅茶です!」


「ありがとう。うふふ、あなたも随分明るくなったわね」


「はい、大義姉さまのおかげです。私が王宮に入れるなんて……」


「王宮にいると可愛い妹が恋しくなってね。あなたを召し上げることにしたのよ」


「大義姉さま……ありがとうございます!」


「うふふ……あら」


「……あっ!?」


 紅茶のカップを取った上の義姉(妄想)はカップを傾けて中身を零してしまいました。カップを握った手に全く力が入っておらず、まるでわざとぶちまけたかのようでした。零れた紅茶は染み一つ無い目眩が出るくらい高級そうな絨毯にかかってしまいました。


「あら、大変。絨毯が汚れてしまったわ」


「す、すぐに拭きます!」


 そう言って走り出そうとしたシンデレラを上の義姉(妄想)はその腕を掴んで止めました。


「きゃっ! お、大義姉さま? 何を……」


「どこへ行くの? シンデレラ。」


「え……あの……雑巾を……」


「何を言っているの? 汚れを取るのに雑巾なんて必要ないでしょう」


「えっ……」


「ほら、早く汚れを取ってちょうだい。染みになったら大変よ?」


「で、でも……」


「早く。あなたならできるわよね?」


「は、はい……」


 シンデレラは汚れのついた絨毯に顔を埋めると、おもむろに汚れを舐めとり始めました。


「……ん……ちゅ……」


「うふふ……そう、それでいいのよ。ちゃんと汚れが完璧に無くなるまで綺麗にするのよ? それぐらいしかできないお前をわざわざ召し上げてやったんだからね」


「はい……大義姉さま……んむっ……」


「うふふふふ……オーッホッホッホッホ!」


 上の義姉(妄想)は健気に絨毯の汚れを舐めとるシンデレラを見下しながら、とても楽しそうに高笑いしました。



「ああ……大義姉さま……舐めます……汚れでも……大義姉さまの靴でも舐めますぅ……ふへ……ふへへへへへへ……」


 シンデレラは上の義姉(妄想)にいびられる自分を妄想してよだれを口から垂らしていました。これでも絶世の美少女なんですよ?

 と、そんな残念なシンデレラの耳にある音が聞こえてきました。12時の鐘の音です。


「はっ!? いつの間にこんな時間に……? あ、足音がするわ。継母さまと義姉さまたちが帰って来たのねっ!」


 シンデレラは慌ててよだれを拭って家族を出迎えました。


「全く、なんなのよあの王子! 私たちの魅力に気付かないなんて女を見る目が無いんじゃないの!?」


「全くね。所詮王子もそこらの凡俗と同じく私たちに釣り合う男ではなかったと言う事ね」


「好き放題言うわね、あなたたち……。でも王子は妃を決めなかったからまだ機会はあるわよ」


「お継母さま! 大義姉さまに小義姉さまもお帰りなさいませ!」


「ええ、ただいまシンデレラ……ちょっと! 全然片付いていないじゃない!? お前、掃除や洗濯はどうしたの!?」


 継母のその言葉にシンデレラは気付きました。甘美な妄想に浸るあまり、頼まれた家事を全くやっていなかったことに。


「……ああっ!!」


「その反応、さては忘れてたわね!? なんて役立たずな子なの!!」


「この愚図! お前から雑用を取ったら何も残らない無能じゃないのよ!」


「あらあら、これはお仕置きが必要かしら?」


「や、役立たず……愚図……無能……お、お仕置き……」


 結局、以後も義姉たちが王子に見初められることはなく、それ以降も家族の関係が変わることはありませんでした。

こうしてシンデレラは優しい継母や義姉たちと心温まる触れ合い(シンデレラ基準)をしながらいつまでも幸せに暮らしましたとさ。



めでたし、めでたし。

思い付いたから書いた。反省も後悔もしていない☆

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