同じシェイクハンドでも違いました
煙幕が晴れてくると、そこには立っている人影が見える。
「くっ……」
『す、すごい!! マルコ君あの魔法に耐えました!』
どうやらマルコは俺の魔法に耐えたようだ。
口だけじゃないのか。まぁ、最高峰の魔法学校と呼ばれるこの学校に入学するのに、親のコネだけでは入れないだろうし。それこそ、コネだけで入れるとしたら魔法使いそのものの立場が、ここまで確立されないだろう。
マルコは、きっと小さい時から親が専属の魔法使いを雇ったりして、英才教育したんだろうな。
さっきも魔法障壁は先生のお墨付きとか言ってたし。
「くそ! 平民の分際で!!」
マルコは俺に対して怒りを露わにしている。
いや、だから魔法に平民とか関係ないでしょ? なんでこういった偉いさんの身分の奴は立場にこだわるんだろうか?
前の学校は良いのか悪いのか、実力主義で身分なんて気にされてなかったけど。
それに、力がすべてってのいうのもいけないけど、身分とかで人を見下すからあいつみたいな優秀な魔法使いが闇落ちしたりするんだろうな。
それから、魔法使いと戦士の扱いの差もだ。
魔法使いになれなくても国の為に頑張ろうとしている人も多いし、貢献している人がいる。
俺がお世話になった衛兵さんもそうだ。
彼らだって、戦士学校の生徒だって頑張っていた。その中で差があると、世の中のしくみで絶望しよくない道へ行ってしまう事もあるかもしれない。
そういったのをなくす為にも俺はバラ色の学園生活を目指すだけじゃなくていろいろ頑張っていかないといけない。
平民兼戦士学校代表として。
「おまえと背負っているものの大きさが違うんだよ!」
俺はそう言葉を放つと、再度同じように無詠唱で炎の矢を発生させる。
『ライト君またしても火の矢……いや、炎の雨、フレイムレインとでも呼ぶべき魔法を発動させた!! マルコ君はどうする!?』
マルコはただ俺を睨み付けそのまま立っている。限界か……?
まぁ、さっきのアナウンスでもよく耐えたって言ってるぐらいだし、あれだけの量を防ぐのは容易じゃないのだろう。
「マルコ行くぞ!!」
俺はマルコに叫ぶと炎の矢を降らせ、それに続いて俺も急降下していく。
「くそぉぉぉおおおおおおお!!」
対するマルコは、叫びながらさっきと同じように手を前に出し魔法障壁を強化させている。
そうしている間に俺の魔法がマルコへと降り注ぎ、轟音を鳴り響かせる。俺は魔法によって発生した煙幕の中へと進み、マルコのいた場所へ近づくと、ギリギリのところで耐えていたマルコを見つける。よく耐えたもんだ。
でも……
「終わりだ、マルコ」
そう言うと俺は闘気を発動させ、魔法障壁を殴る。すると、魔法障壁はピキピキとひびが入り、割れて光の粒子となって消えた。それに続いてマルコも心身ともに限界なのか、俺にもたれかかるように倒れてきて、俺はそれを受け止めた。
『――っ!? しょ、勝者ライト君!!』
煙幕が晴れてくる中、俺とマルコの姿を確認したアナウンサーが戦いの終わりを告げる。それと同時に割れんばかりの歓声が鳴り響いた。
ふぅ~終わったか。
「……俺は負けたのか?」
俺が心の中で安堵していると、俺にもたれかかっていたマルコが目を覚ます。
「まっ、そういう事かな」
俺がそう答えるとマルコは悔しそうな表情を浮かべる。
どう答えるべきか迷ったけど、変に気を使っても余計にプライドを刺激するだろうし、俺も偉そうに言うつもりなんてなかったから普通に答えた。
俺だってこの世界に転生して前世の知識を持ったままで、さらに読んでいたネット小説の知識が通用したから強くなれただけだから、生まれてから努力してきた奴を見下したり、自分は凄いなんて偉ぶるつもりなんてない。
それにそんな事をしたって何も良い事は生まないから。
「……すまなかった」
少しの沈黙の後、マルコは呟くように俺に謝ってきた。
こいつ……意外と素直なのか?
ちょっと俺の思ってたのと違うかもしれない。
「……いや、俺も悪かったよ。これからもクラスは違うけど同じ一年生としてよろしくな」
「……あぁ、平民と一緒ってのは気に入らないけどな」
言っている内容とは裏腹に、笑顔で俺に言葉を返してきた。
どうやら俺の事を認めたらしい。
マルコはまだ平民とか身分の事は少し思う事があるみたいだけど、今日までの価値観をすぐ変えろっていうのは無理だろう。
それに俺も貴族とかを色眼鏡で見ていた。
マルコみたいに分かり合える奴もいるはずなのに……。
だから今日からだ。
今みたいに少しずつでも歩み寄っていけたら、いつかはきっと……。
「貴族様、お手柔らかに」
俺はそう言ってニカっと笑ってマルコに向かって手を差し出した。
マルコは俺の冗談にふっと笑うと、俺の手を取り俺達はシェイクハンドした。
同じシェイクハンドでも入学式の最中の時とは違い、穏やかな空気が俺とマルコの間に流れていた。
「二人とも良い戦いだったよ!」
そう言って俺とマルコの前にこのとんでもない、まるで見世物のような舞台を用意したアレクが現れた。