いろいろあったけどついにランキング個人戦が始まりました
「さて、ついにこの日がやってきたか!」
「そうだな、やっとライトと戦える時が来た」
二学期は問題なく順調に進み、ついに今日からランキング個人戦が始まる。
最初の方は、個別特訓と言ってもそれなりに集まったりとかはあったけど、この二週間は臨戦モードに入って、授業で顔を合わす以外は会っていない。
リノアも俺流……いや、ネット小説流というべき治癒魔法のコツを掴んだようで、あの秘密の逢瀬の時間もなくなった。
なくなった時は悲しいような助かったような気分だった。
なぜなら、リノアは魔力の流れを感じるのには慣れずに、いつも艶めかしい声を上げるから、俺は理性を保つのに必死でいつ狼になるか自分でも不安な日々を過ごしていた。
だから、一通り教え終わると自分が誘惑に勝てた事にほっと一安心し助かった気分になった。
でも、その一方であのリノアの声が聞けないかと思うと悲しくもなった。
まぁ、そんな事言ったら変態かもしれないけど。
とまぁそんなこんなでみんなとは最近あまりゆっくり話したりできていない。
「へっ、そんな事言って油断して俺と当たるまでに負けるんじゃないぞアレク?」
「当然だ。俺はどっかの誰かと違って部屋で女と会ったりしてた訳じゃないしな」
「ぶっ!! ア、アレク!! それどこで!?」
「さぁ? まぁおまえはそれだけ注目されているという事だろう」
くそ……まさかアレクにバレていたとは……。
「それに女の子にあんな声まで出させるとはな」
「――っ!? ち、違うんだアレク!! あれは――!?」
「アレックス様、発言が……」
「ちょっと言い過ぎたか……分かっている。治癒魔法の練習のだろ? そんなにすぐ心を乱されてたら試合で足元救われるぞ?」
アレクがニヤリとする。
くそっ! してやられた!
「でも、そんなあわてるって事は本当に――」
「えっ!? そうなの!?」
すると背後から声が聞こえる。
「そんなことある訳ないだろ!?」
俺はすかさず否定して振り返る。
振り返った先には予想通りセリスがいた。
そして、その後ろにはリノアとリースもいて、リノアは顔を真っ赤にしながら「そんな事ある訳ないじゃない!!」と言って、セリスの肩を叩いている。
「あ~びっくりした。リノアったら治癒魔法を教えてもらってるとか言って違う事教えてもらってるのかと思った」
セリスはニヤリとしながら流し目でリノアを見る。
いや、違う事って……こいつら貴族とか王族とか言っても高校生と変わらないな。
まぁ世界が違うって言っても、年ごろでは考える事は同じって事か。
「もうセリス!!」
「リノアちゃん……大人になったんですか?」
「リースちゃんまで!? なってないよ! 信じちゃダメ!!」
……リノアも大変だな。
俺もアレクにやられるけど、あとのメンバーはそれほどだしな。
それ比べてリノアはアレク級のセリスと天然のリース。
……カオスだな。
「まぁ今日からランキング個人戦が始まる訳だが、決勝では正々堂々戦おう」
「何が正々堂々だよ。試合始まる前ぁらこれだけ試合前から動揺させようとしてきたくせに。……まぁ決勝で当たるまで勝ち残れよ」
こうしてランキング個人戦は幕を開けた。
―――――――――――――
ランキング個人戦が始まってからというもの、俺達は順当に勝ち進んでいった。
しかも、全員が全員、隠し技らしい隠し技を使う事なくだ。
ここまでみんなは無詠唱のみで勝ち上がってきている。
とはいえ、準々決勝でマルコの取り巻き対アレク、マルコの取り巻き対シリウスという戦いがあり、アレクとシリウスが勝ち進んだ。
取巻き達もトリッキーな動きでアレクとシリウス相手に善戦したが、最後には地力で負けてしまった。 その取り巻き達は準々決勝の敗者で行われる補欠の席を決めた戦いに勝ち、対抗戦の補欠の座を確保した。
俺も魔法障壁が使えるようになったので、闘気は使用せずに魔法障壁の練度を上げながらここまで勝ち上がった。
女性陣の方はというと、準決勝にリノア、セリス、リースと三人揃って順調に勝ち進んできている。
「いよいよ明日ライトと戦えるな」
俺が闘技場の前で物思いに闘技場を見上げていると後ろから声をかけられる。
「そういうのは今日勝ってから言えよ、アレク」
振り向いた先にいるのはアレクとシリウス。
今日俺はシリウスと戦い、アレクはマルコと戦う。
アレクと戦うマルコは本来であれば王族相手に萎縮しそうなところだけど、今回はアレクが本気で戦うようにって言っているのと、魔法が上達して取り巻き達に煽てられて気分を良くしてやる気を出している。
俺の中でマルコやその取り巻き達は意外性が強いから今日のマルコとアレクの戦いはもしかしたらアレクの本気が見られるのではないかと楽しみにしている。
「それはおまえもだ。ライト」
そう言って並々ならぬ視線を送ってくるのはシリウス。
俺は今日こいつと対戦する。
俺の中ではシリウスはアレクと似たような能力であり、言わばアレクと戦う前の前哨戦みたいな感じだ。
それにしてもシリウスの奴、この機会に今までの俺に対する不満をぶつけようとしてるな?
「あぁ。もちろん勝つつもりだからな」
「――っ!? おまえ!?」
「怒るなシリウス、ライトに心を乱されてるぞ」
「――っ!? くっ、卑怯な……」
「いやいや、このランキング個人戦が始まる前に君の使える人にされた事をやっただけだけど?」
あ~なんでこういう時はこんなに口が悪くなっちゃうんだろう……これは戦士学校での影響が大きいんだろうな。
「ライト!! おまえ失礼にも程が――っ!?」
「やめとけシリウス。それが挑発だと言ってるだろ?」
「――っ!?」
「まったく、ライトもライトで口直せよ?」
「おまえには言われたくない!!」
俺は条件反射的に言葉を返す。
その言葉をアレクにだけは言われたくない!
口の悪さはアレクが一番だ!
「ふっ、じゃあ決勝で会おう」
アレクはそう言って去っていく。
なんだ?
あの恰好をつけた去り方は?
『それに決勝で会おう』って言うならば、シリウスが負けるって言ってるようなもんだろうに……。
シリウスの奴、本当にアレクに対しては何も言わないな。
きっと俺がそういう風に言ったら怒るか絡んでくるくせに……。
まぁとにかく今日からは知った仲間との戦いだな。
気を引き締めないと。




