秘密の逢瀬をしています
「あっ……ライト君……もっと……ゆっくり……」
「……どう?」
「うん……」
俺が借りている寮の部屋で俺とリノアは二人でいる。
そして、室内にはリノアの艶かしい声が響く。
「ん……んっ! ……ありがとう」
事を終えたリノアが俺に向かって微笑む。
「どう? 分かった?」
「うん、なんとなくだけどだけど分かった。なんていうか傷全体じゃなくて、もっと細かいな感じで魔力が流れてる感じ?」
「そうそう! ぼんやり全体に魔力を流すんじゃなくて細胞に魔力を流す感じで」
別にやましい事していた訳じゃない。
俺はリノアに治癒魔法の極意を教えていただけだ。
事の発端は、個別練習が始まった直後だった。
女性陣三人は時々模擬戦を行っているようで、身体に傷をつくる事があるらしく、その時はお互いに治癒魔法をかけたりするらしいけど、痛み自体は消えてもすぐには傷痕までは消えず、もっと効率よく治癒魔法を使えないかと思って俺の元にリノアが訪ねて来た訳だ。
セリスは「顔以外の傷だったら多少は仕方ないわと」言い、リースは「痛みだけとれるだけでも嬉しいです」と言っていたらしいけど、リノアは女の子だから何とかならないかと思って俺ならと思って相談しに来たらしい。
もっともお金を出して有名な治癒魔法使いに依頼して時間をかけて治癒魔法をかければ、ひどい傷でもきれいに治るらしいけど、貴族の子供と言えど、学校の訓練でつく傷くらいではしょっちゅう通うのは出来ないくらいの金額のようだ。
でも、ひどい傷の時はそうも言ってられないようだけど……。
まぁある程度の傷は自然治癒で跡も残らないけど、リノアはそれでも二人には綺麗でいて彼氏を作ってほしいみたいだ。
この辺は自分だけ俺と言う存在がいる負い目があるのか、それとももしかしたら二人に彼氏が出来たらからかわれる事が少なくなると考えているのかもしれない。
……いや、後半部分はリノアならきっとないな。
とまぁそういういきさつで俺はリノアが傷をつくる度に治癒魔法をかけ、魔力の流れを感じてもらっている。
俺も小さい時に母さんに治癒魔法をかけてもらったけど、この世界の治癒魔法は表面に光が当たって、その部分の傷が癒えてくる感じだ。
でも、それを身体の中に魔力を流し、細胞の一つ一つを修復する形で治癒魔法をかければ効率も効果も高い。
これはネット小説の知識だけどそれが通じて良かった。
そういう事でリノアに自傷行為をさせて魔力の流れを感じてもらうわけにもいかないので、傷が出来たとき限定でこうやって極意を教えている。
もちろん、セリスやリースが傷を作った時は俺が治してあげてる。
「そのライト君が言う細胞ってのがあまり分からないんだけど……」
「んー……なんて言ったらいいか……まぁ目で見える感じじゃなくてもっと細かく治癒させていく感じかな?」
この世界では魔法がある為、科学の進歩は見られない。
というか、異世界だから全部が全部同じように通じるか分からないけど。
この世界ではあまりそう言った研究がされていない。
人体の構造についてもだ。
だから、細胞を説明するにも一苦労だし、あまり細かく説明してしまうとそれはそれで大事になってしまうからうまくはぐらかしている。
知識ニートで将来安定……と言いたいところだけど、俺の知識は所詮高校生レベルだ。
それを証明していくなんてのは難しい。
それにこの世界は神が造った世界だから『こうなるものこうなる』という感じで受け取っているので、あまり異端な事をしだすとさらに目を付けられかねない。
ただでさえ無詠唱と身体強化、闘気で異端扱いされているのに……。
アレクに聞いた話では一部では神の子と呼ばれたり、逆に異端扱いされたりしてるみたいだしな。
気を付けないと。
「もっと細かく……大きな範囲じゃなくて小さな範囲に治癒魔法をかける感じ?」
「んー……まぁそんな感じかな? あとは見えるところだけじゃなくて表面に見える傷の奥にも魔力を流す感じで魔法をかけていくといいかな」
「うーん……なんとなくだけど分かった気がする。でも、さすがライト君だね!」
考え込んでいたリノアの顔がパァーと明るくなり俺を見つめる。
いや、そんな顔で見られると照れます……。
「い、いやそんな事ないって」
「ううん! 本当に凄いと思う!」
そ、そんなキラキラした目で見ないで!
「ま、まぁそれはともかく、リノアも練習してみる?」
俺はそう言って右腕にできた傷を差し出す。
「これは……」
「いや、一人で特訓してたら怪我しちゃって」
「一人で特訓で怪我とかするの? 何してたの?」
「うーん……秘密。ちゃんと出来るようになったら見せるから」
リノアは疑いの目で俺を見る。
でも、この傷は自傷行為でもなく、特訓でついたものだ。
俺はフランが使っていた技をおおかた使えるようになったから、フランの技に闘気を合わせようとした。
でも、これがなかなか難しくて威力のコントロールが難しくて、自分が生み出した衝撃波によって巻き上がった石で切り傷になったのだ。
「……ライト君、無茶しないでよ」
「うん、分かってる」
俺の事を上目使いで見るリノア。
俺はどうもこれに弱い。
そして、この瞬間に無性に抱きしめたくなるけど、今それをしたら自制が効かなくなりそうだし必死にこらえる。
ただでさえ、治癒魔法の極意を教えるのに魔力の流れを感じてもらう時にリノアの艶めかしい声を聞いて、爆発寸前だってのに。
「約束してね。……じゃぁやってみるね」
そう言ってリノアはそっと俺に触れ魔力を流しだす。
「……そこそんなに強くしないで」
「こ、こう?」
「うん……そうそう、ゆっくりと」
なんだろう、この言葉のやりとりだけ聞いてたら何ともいけない感じなのは……。
こうして俺はリノアと秘密の逢瀬を続けていくのだった。




