してやられました
「い、いや、そんな目で見なくても! 別に怪しい者じゃないからよ!」
いや、どう考えても怪しいだろ。
なんで俺とリノアの名前を知っている上に、初対面なのに分かるんだ?
「リノア、俺の後ろに」
「う、うん」
俺はリノアに後ろに隠れるように促す。
リノア自身、無詠唱も使えるしこのおっさんがどうこうしたところで倒せるだろうけど、彼女を守るのは男の役目。
この間の件もあるしリノアに怖い思いをさせる訳にはいかない。
「そんなに警戒するなって! ほら! 俺はこれをお前たちに渡すように頼まれただけなんだから!」
そう言っておっさんは、手紙のようなものを差し出す。
というか、おそらく手紙だろう。
でも……。
「誰に預かったんですか?」
もしかしたら、みんなが事件に巻き込まれて、このおっさんは連絡役に使われているだけかもしれない可能性がある。
「え~っと、セリスとライトの親友と言えば分かるって言ってたけど……」
手紙を受け取らないおっさんは困ったような顔で言葉を口にする。
えっ? セリスと俺の親友だって……?
「すいません、見てもいいですか?」
俺は自分の心の中でさっきまでと打って変わって、丁寧な姿勢になる。
セリスとライトの親友……おそらくはアレクだろう。
その二人の名前が同時に出るってのは俺にとっては不吉でしかなかったからだ。
「元々渡す予定だったからな。ほらよ」
そう言っておっさんは俺に手紙を差し出す。
俺はその手紙を受け取り、いつぞやの時のシリウスとは違い、普通に開けた。
中には二通の手紙が入っていて、一通は俺宛、一通はリノア宛となっている。
俺はリノア宛の手紙をリノアに渡し、自分用の手紙を開いた。
そして、俺は手紙に目を通す。
隣ではリノアも手紙を読みだしたようだ。
『ライトへ
これを見ている時、俺はその場にいないだろう。
と言っても安心してくれ。
事件に巻き込まれた訳でもなんでもない。
俺を含めみんなは、寮にいる。
というのも、今回の話はそもそも嘘だ。
ちゃんとみんなには事情を説明してあるから安心しろ。
セリスが言うには、お前たちはまだ二人で出かけた事がないそうじゃないか。
そのせいか知らないが、俺達はいつも訓練の合間や教室でお前達のイチャつくところを
見なければならない。
だから、今回二人の時間を作ってゆっくりイチャついてもらおうと考えた。
ちゃんと時間を作ってやるんだから、みんなの前でイチャつくのは控えてくれ。
……まぁ無理だろうが、少しは減る事を願う。
では、ゆっくり楽しんでくれ。
追伸
焦って襲ったりするなよ?』
俺の手紙を待つ手が震えだす。
……アレクの奴、やってくれたな!!
というか、俺は別に教室とかで、リノアといちゃついたりした事ないぞ!?
もちろん、訓練の時もだ!
それは周りがそう言う目で見ているから思っているだけで、俺とリノアは普通に会話しているだけだ!!
……確かにちょっと、甘い言葉を言ってる時もあるかもしれないけど。
でも、それは許容範囲のはず!
それに、俺は一応周りも見てるけど、知らない間に聞き耳立てる奴が悪い!
それにだいたい手紙の冒頭はなんなんだ!?
あれ、絶対少し悪ふざけしてるだろ!?
それに俺はリノアを襲ったりしない!!!!
「ラ、ライト君……」
俺がアレクからの手紙に怒りを覚えていると、リノアが赤い顔をしながら俺の名前を呼ぶ。
どうしんだろう……しまった! リノアの手紙はセリスからだ!
何が書いてあったのだろう?
……いや、ここはお互いの手紙は見せない方がいい。
でも、リノアの手紙にも今日は二人で出かけるようにってのは書いてあったはず。
「あ、あははは、本当にアレクとセリスには参るよな!」
「う、うん」
くそ、あいつらの手紙のせいで何か気まずいじゃないか!
「ま、まぁせっかく街まで来たんだし二人でゆっくりしようか?」
たぶんだけど、リノアの手紙にも俺と同じような事が書いてあったはず。
だからここで、アレクとセリスのせいにして「帰ろう」なんて言ってしまったら、それはそれで良くないだろう。こうなったからにはリノアと二人で出かけるしかない。
「……うん!」
リノアはちょっと恥ずかしそうだったけど、笑顔で返事してくれる。
あぁ、一瞬アレクとセリスを恨んだけど、もしかしたらこれはこれで良かったのかもしれない。
俺は前世で彼女なんていた事なかったし、女の子との付き合い方なんて知らない。
この世界に来て、リノアというこんな可愛い彼女が出来た事で満足してた部分もあったのかもしれない。
でも、一番大事なのは付き合ってからだよな。
もしかしたら、リノアは二人で出かけようと俺が言うのを待ってたのかもしれない。
くそ、そう思うと悪いのはアレクとセリスじゃなくて俺じゃないか……こうなったら、せっかくの機会だ。
今日はたくさんリノアを楽しませてあげよう。
それにアレクとセリスにも感謝しないといけないかもな。
「……じゃあ俺は行くわ」
俺とリノアの様子を見て、困惑していたおっさんは申し訳なさそうに俺とリノアに声をかける。
しまった!
まだおっさん……いや、おっちゃんいたのを忘れてた!?
俺はおっちゃんに「いろいろすいませんでした」と謝ると、おっちゃんは「別に気にしなくていいぜ」と言ってくれた。
ちなみにこのおっちゃんは待ち合わせ近くの屋台のおっちゃんで、セリスとアレクに依頼料を渡され頼まれたようだった。
「じゃあ……リノア、行こうか」
おっちゃんが立ち去るのを見送ると、そう言って俺は恥ずかしさを抑えて手を差し出す。
「……うん!」
リノアは恥ずかしがりながらも俺の手を取ってくれた。




