修学旅行も終わりです
「いろいろあったけど、楽しかったわね!」
「うん! 楽しかった!」
「いろいろというのは、ライトの事だ。分かってるな?」
「いちいちうるせぇな! 分かってるよ! でも元の原因は俺じゃ――」
「すいません。私が……」
「気にするな、リースのした事で悪いのは勝手に人の名前を使った事だけだ。あとは、ちゃんとした対応をしなかったライトが悪い」
「うっ、シリウスおまえまで……」
俺たちは邪神の封印場所の見学も終わって、今は街に帰る馬車の中で今回の修学旅行の話で盛り上がっている。
見学のあと、リースちゃんの事を俺達……いや、俺の見張りをしていたダグラス先生に話したところ、帰りの馬車の同乗も許された。
五人乗りの馬車だけど本来は大人の男性で五人乗りだから、女の子が三人だし大丈夫だろうって事で許可が下りた。
それにしても、この馬車の中で俺に仲間はいないのか!?
まぁメンバーを考えずにリースちゃんに気を使わせてしまった俺も俺だけど。
シリウスは国王をアレクの父さん呼ばわりしてから、風当りがきつくなった。
本来ならシリウスが『気にするな』って言える立場じゃないのに、俺に言いたいがために、悪ノリしている。
本当は言い返したいところだけど、ちゃんと対応しなかった俺の行動がいろいろ大きくなったかと思うと、何も言えない。
バグデスファミリーの件は、考え方によっては功績だと思うけど、いろいろな人を動かしたと思うと迷惑をかけた。
そう思うと俺には反論の余地はない。
「それはそうとアレックス様、リースちゃんも一緒に無詠唱の練習とかしてはだめなんですよね?」
と、セリスが唐突に話を変える。
それはそうとって俺の事軽く流しすぎじゃね!?
……まぁ話変えてくれるのは有り難いけど。
見ると、リノアも同じ心境なのか真剣な顔でアレクを見つめる。
セリスはリースと話しているうちにリースの事を気に言ったらしい。
セリス曰く、リノアは可愛い妹でリースは守ってあげたくなる妹のようだ。
その境は俺には良く分からないけど、なんとなくは分かる気がする。
リースはいつもちょっとおどおどしていて、自信なさげな感じだし、庇護欲を駆り立てるタイプの子だ。
それがちょうどセリスの母性本能を刺激したらしい。
セリス曰く、自分が長女、リノアが次女、リースが三女って設定のようだ。
その話をしていた時にリノアが、「ちょっとセリス! 私もリースちゃんも同じ年だよ!」って頬を膨らませて怒っていたけど、その姿も可愛かったなぁ~……っていけないいけない、考えが違う方向へズレてしまった。
そんないろいろなやりとりがあって、三人は一気に仲良くなったようだ。
それにしても無詠唱か。
確か、アレクの父さん……いや、国王様が言うには十人までだったよな。
まぁ采配はアレクにあるけど。
「……そうだな。この無詠唱は試験的な意味もあるからな。今のところ俺を含め、完璧に使えこなせている人はいないだろうが、男は少し使えるようになってきた部分はある。女性はセリスとリノアはまだ、習い始めたところだからまだ魔法の発動まではいかないようだし、そういった部分で、もう一人くらい女性の被験者が増えてもいいかもな」
「えっとじゃあ……」
「うむ、いいだろう」
「やったー!!」
アレクの言葉にセリスは、「やったね! これで一緒にいられるよ!」と言って喜び、リノアも「良かったね、リースちゃん!」と言ってリースの手を取って喜んでいる。
リースはリースで、「……本当にいいのでしょうか……?」と信じられないといった表情でキョロキョロしている。
この光景を見ていると、本当の姉妹のようだ。
しかも、会話だけ聞いていると、なにやら姉妹がバラバラになりそうなところが回避されたような感動の場面にも思えてしまう。
「じゃぁ、明日から特訓だね!」
「でも、無詠唱って難しいよねぇ~。女性でやってるのって私とリノアだけど、まだうまく出来ないし。女の子だと難しいのかな?」
「いや、そうでもないと思うぞ。ライトの妹はライト並の無詠唱の使い手らしいからな。なぁライト?」
妹……フラン……。
アレクの一言によって俺の頭の片隅に追いやったフランの問題が表に出てくる。
アレク……今思い出させなくても……まぁアレクもこの件は知らないし、悪気はないんだろうけど……。
「あ、あぁそうだな。俺には勝てないけど、無詠唱とか気功も使いこなすな」
厳密には気功じゃなくて、詠唱の身体強化だけど。
それよりフラン……もうすぐ夏休みか……何とかしないとな……。
「えっ!? 本当に!? すごいじゃん! ねぇリノア、リース? 夏休みライト君の家お邪魔して教えてもらおうか? 同じ女の子に教えてもらったら何かつかめるかも!」
いやいや! セリス何言ってるんだ!?
そんな爆弾発言を……リノアも、「えっ!? ライト君の家……親……挨拶……」とか動揺してんじゃん! それにアレクまで「ライトの家か……おもしろい」とか言って変な乗り気になって、俺だけじゃなくてシリウスも大変そうじゃん!
「いやいや、無理無理!! ほら、俺の家平民だろ? 小さな村だし、そんな貴族の子供やまして王子なんて来たら、混乱するだろ!?」
すると、俺の言葉に「それもそうか……」とアレクが落胆し、セリスも「確かにいきなり行っちゃ迷惑か……」と諦めの方向へ入った。
……かと思ったらアレクが、「よし、冬休みに行けるようにその辺の段取りもしよう!」とか言い出し、俺が止める間もなく、アレクとセリスの間で話が進んでいく。
「おいおい!」
俺の言葉は無視された。
リノアはまださっきのような状態のままで、リースちゃんは「えっ? えっ?」と話についていけない様子で、シリウスは「また大変な事に……」と天を仰いでいる。
いや、それは俺の方だ。
というかそれよりもまずフランの事を何とかしないと……。
俺たちの帰りの馬車内は混沌としていた。




