自分を許せません
リノアは黙々とリースちゃんの元へと歩いて向かう。
後ろ姿だから分からないけど……もしかして怒っているのだろうか?
……あり得る。
勝手に自分の名前を使って俺を呼び出した上に、あんな事になったんだから……。
いや、半分は俺のせいなんだけど。
俺はリノアに、正直にあった事を話したし、リノアは何があったのかすべて知っている。
そして、あの件があって以降、リノアがリースちゃんに会うのは今日が初めてだ。
だから、もしかしたら……。
でも、この場面でさらにリースちゃんに追い込むのは、さすがに可愛そうに思うけど俺は何もできない。
俺は無力だ……。
あまりのリノアの迫力にセリスを始め、アレクやシリウスも何も言葉を発する事が出来ずに、ただただその光景を見守っている。
「……リースちゃん?」
「あなたは……?」
同じグループのメンバーにシカトされ、一人佇むリースちゃんの元にリノアが辿り着き声を掛ける。
そして、その声に反応してリースちゃんがリノアに向き直り、お互いの視線が合い、二人の間に一瞬の静寂が漂う。
まさか……ここで女同士の戦いが勃発!?
止めないと! って思う自分がいるけど、それが正しい選択なのかどうか……。
そうこうしているうちにリノアが口を開く。
「よかったら、私たちと一緒に見学しない?」
「えっ……?」
リノアは微笑んで、リースちゃんに声をかける。
突然の誘いに、何か言われると思っていたのか、リースちゃんは呆気にとられている。
というか、リースちゃんだけでなく、女同士の戦いが勃発すると思っていた俺も呆気にとられてしまった。
……いや、俺だけじゃない。
セリスやアレク、シリウスも俺と同じように呆気にとられている。
おそらく、俺と同様の事を思っていたのだろう。
「せっかくの修学旅行なんだから楽しみましょう!」
「えっ!? でも……」
「いいからいいから! ……ねっ?」
戸惑うリースちゃんをよそにリノアはそう言ってリースちゃんは手を差し出す。
リースちゃんはリノアの手をどうしたらいいのか見ていたけど、リノアが、「早く行きましょ!」と言ってリースちゃんの手を引いて、リースちゃんはどうしていいのか分からないといった表情を浮かながら、手を引かれるままにこっちにやってきた。
「リースちゃんも一緒に行動してもいいですか?」
俺たちの元に戻ってくるなり、リノアは俺たちの顔を見渡してリースちゃんも一緒に行動していいか聞いてくる。
俺を含め、みんな予想外の行動に戸惑い、返事ができないでいるとリノアが、「アレックス様、だめですか?」とアレクに聞いた。
すると、アレクはそれにふと我に戻ったようで「俺はいいが……」と言葉を返す。
その言葉を聞くと、リノアはセリスとシリウスにも同じように聞くと二人とも、「別に私はいいけど……」「俺もかまわないが……」と言ってリノアと俺の顔を交互に見る。
そして、リノアは最後に俺に、「リースちゃんも一緒にいい?」と聞いてくる。
いや、いいも何も俺はリノア次第だ。一緒に行動するのが嫌とかはないけど、多少気まずいのはある。
でも、それよりも重要なのが、あんな事があったのにリノアがリースちゃんと一緒に行動するのが大丈夫なのかって事だ。
「俺はリノアが良かったらいいけど……」
「じゃあ決定ね! リースちゃん、一緒に行動しましょう」
そう言ってリノアはリースちゃんに微笑む。
リースちゃんは何が何か分からないといった感じで、俺の方を見てくるけど俺も何が何かわからない。
そうこうしているうちにセリスが、「そうね、リノアとライト君がいいって言うなら外れもの同士仲良くしましょうか」と言ってリースちゃんと話始めた。
そうか、リノアはシカトされ、仲間外れになっているリースちゃんをほっとけなかったんだ。
リノアとセリスは俺たちと行動している事で、クラスの女子から距離を置かれている。
前にその事でリノアに大丈夫かどうか聞いた時に、「一人っきりだったら辛いけど、私にはセリスがいるから大丈夫」って言っていた。
今のリースちゃんの状況を考えると、クラスでも浮いてしまうだろう。
一人でいるのは辛い……それが分かっているからリノアはきっとリースちゃんを呼んであげたんだ。
リースちゃんと俺の間にあんな事があったのに……。
くそ、一瞬でもリノアがリースちゃんとケンカするんじゃないかと思った俺は最悪だ!
リノアはこんなに心が広くて優しい子なのに……。
でもリノア……やっぱり優しい子なんだな。
「ライト君?」
「は、はい!?」
俺がそんな事を考えながら、戸惑いながらもセリスやアレク達と話しているリースちゃんを見ていると突如リノアに声をかけられた。
いや、決してリースちゃんの事を見てた訳ではないですよ?
あっ、見てたけどそういう意味じゃなくて、リースちゃんを見てリノアが優しいなって思っただけで。
「リースちゃんも一緒に行動しますけど……浮気はダメですよ?」
「もちろん!」
俺は頬を赤めながら上目使いで言ってくるリノアに即答で答えた。
いや、そんな感じで言われたら俺、いちころですよ。
というか、めっちゃ抱きしめたいけど、今はしたらだめだ。
俺は自制しながら、代わりにそっと手を繋いだ。




