仲直りできました
「ボ、ボス!?」
ボーガンが倒れると同時に、俺とボーガンの戦いを見守っていた手下達がボーガンの元へと駆け寄る。
その光景見ながら、俺は土魔法で岩をイメージして、頭上に向けて放ち、天井を破る。
「なっ!?」
ボーガンの元へ駆け寄っていた手下たちは驚きの声を上げた。
「リノア!!」
俺は土魔法で天井を破ると同時にリノアの名前を呼ぶ。
逃げるのは今しかない!
「はい! えっ? きゃっ!?」
俺はリノアを抱きかかえると、すぐさま魔法を発動させ、天井に穴を開けたところめがけて飛ぶ。
そして、リノアに魔法障壁を張るように声をかける。
でも、リノアは顔赤くしたまま微動だにしない。
どうしたんだ……あっ!
俺……リノアをお姫様抱っこしてる……。
気づいてしまった俺も、顔に一気に血液が流れるのが分かり動揺する。
落ち着け! ここはまだ敵地! 気まずく思うより先に脱出しないと!
「リノア、急にゴメン! でも早く逃げないといけないから! それにもしかしたら追撃があるかもしれないし、魔法障壁張ってくれるかな?」
俺は心の動揺とは別に、言葉はしっかりと言えた。
そして、リノアは俺の言葉にハッとなって我に返り、「そうですよね。……魔法障壁」と小さい声ながらなんとか魔法障壁を張ってくれた。
それと同時に「逃がすな!! 打て!!」という声が聞こえ、建物の中から魔法が放たれる。
ほとんどが魔導具から放たれていた魔法だったため、俺が背後を気にしながら避ける事で躱せたけど、中には魔法使いが放った魔法もあったみたいで追尾してくる魔法もあった。
でも、リノアが魔法障壁を張ってくれたおかげで、飛んできた魔法は魔法障壁が防いでくれた。
俺もリノアを抱いている為、魔法障壁の中へと入っている為にダメージを受けることはなかった。
そして、俺は飛び続け、バグデスファミリーの家が小さく見えるようになると追撃は止まった。おそらく俺たちが確認できなくなったのだろう。
「ライト君……助けに来てくれてありがとう。私怖かった……」
追撃が止むと、俺の腕の中でリノアが呟く。
そりゃ怖かっただろう。
街で知らない男にさらわれて屋敷に連れて行かれて、あんな風にされたんだから……。
あと少しでも俺が行くのが遅かったらリノアは一生癒えない心の傷を負うところだった。
……いや、リノアはすでに心に傷を受けている。それもこれも俺があの時毅然とした態度で断れなかったからだろう。
……くそ! 俺のせいでリノアはもう少しで……。
「ゴメン、リノア……元はと言えば、俺があの時、ちゃんとした態度で断らなかったから、リノアに勘違いさせて、リノアを傷つけて……ゴメン」
「ううん、私こそ勝手に思い込んじゃってライト君を信じれなかったから……ごめんね?」
……いや、リノアは悪くない。
もし俺が立場逆だったらあんな光景を見たとしたら、信じる事できないだろう。
そう思うと俺がした事はリノアを傷つける行為だったんだ。
いくらリースちゃんが泣いたとはいえ、変な優しさをかけるべきじゃなかった。
それは今思えばリースちゃんにとっても良くなかったかもしれない。変な期待を持たせてしまってはいけないし……。
宿屋に戻ったら一度ちゃんとリースちゃんに話をしよう。
「いや、リノアが謝るところじゃないよ。もし、逆の立場だったら俺もそんな光景を見て普通じゃいられない。本当にごめん……」
「ううん、謝らないで。だってライト君は助けに来てくれてじゃない。私が勝手に勘違いして、動揺して飛び出して行って事件に巻き込まれたのに……私、勝手にライト君には他に好きな子がいると思って、助けに来てくれる訳ないって思って自分でなんとかしようと思ったでも、怖くてせっかく教えてもらった無詠唱も使えなくて……その時にさっきまで助けに来てなんてくれないって思ってたライト君に助けてって願ったの。私、自分勝手だよね。……でもライト君が助けに来てくれて嬉しかった」
「リノア……」
俺の事を気遣ってくれて……。
おいライト! ここないい子いないぞ? しっかり捕まえとかないと!
俺は自分に言い聞かせる。
もう、同じ過ちは繰り返さない。
次からは今回みたいな事がっても、絶対毅然とした態度で断る!
「当たり前だろ? 俺はリノアに告白した時、『リノアに何かあったら必ず俺が守る』ってみんなの前で宣言したんだから。今回はリノアに勘違いさせるような事をしてしまったけど、俺はリノアの事が好きだ。リノア以外を好きになんてならない。だから、これから先何があってもリノアの事は俺が守る」
そうだ、俺は必ずリノアの事を守る。
そして、もうリノアを悲しませるような事はしない。
「ライト君……ありがとう。私もライト君の事が好きです。あの……これからもよろしくお願いします」
「もちろん! 俺のほうこそ、よろしくお願いします」
俺とリノアは互いにそう言うとどちらともなく、笑いだして「なんかおかしい会話だな」「そうですね」と言って笑った。
「みんなのところへ帰ろう。心配してるだろうしな」
「そうですね。また、セリスにからかわれちゃう」
「あ~俺はアレクだな」
そう言ってまた二人して笑いながら、俺たちは宿屋へ向けて飛んだ。
俺たちの飛ぶ空はきれいな夕日によって赤く染められていた。




