ボスと戦います
「いくぞぉぉぉおおおおお!!」
ボーガンは叫ぶと同時に俺へと肉薄する。
対する俺も今のボーガンをそのまま立って受けたら、吹き飛ばされると思いボーガンに合わせて地面を蹴ってボーガンへと向かう。
「うぉぉぉおおおおお!!」
そして、俺とボーガンの距離がゼロになる。
「くっ!」
「ぐっ!」
俺の右ストレートがボーガン左頬を捕えるのと同時に、ボーガンの右フックが俺の左頬を捕え、俺とボーガンは揃って吹き飛ばされる。
それによって、部屋の中にある椅子やテーブルいったものが破壊され、ほこりが宙を舞う。
その中、俺とボーガンは同じように片手片膝をついて着地し、お互いと見据える。
くそ、俺の方が闘気で勝っていたし、あいつの拳の合わせて潜りこんで躱して、喰らわしたと思ったら、まさかあそこから軌道を変えてフックで対応してくるとは……。
さすが、悪役のボス……伊達に修羅場くぐってきてないってか?
俺がボーガンの経験による対応の良さに驚いているのと同様に、ボーガンもなにやら俺の方を見て驚いているようだ。
さっきまでの調子の良さはなくなって、冷静な表情になっている。
おそらく闘気で俺に負けるとは思わなかったんだろう。
でも、俺も戦士学校で戦い慣れたといっても、ボーガンの経験からすればにわか仕込みのようなものだろう。
……向こうは経験、こっちは腕力、体力といったところか。
「ライト君!!」
「リノア来ちゃダメだ!!」
俺の事を心配して駆けつけようとしたリノアを俺は制止する。
リノアが近くに来たら巻き添えをくう可能性もあるし、ボーガンがどう出るか分からない。リノアを人質にしたりといった危険もある以上、近くに来るのは危険だ。
「……まさかこれ程とはな。正直見くびってたぜ」
「俺こそあんたの事見くびってたよ。ここまでやるとは思わなかった」
この場面でも、自然と俺の口から出る言葉。
この状況下においても、俺の口は絶好調のようだ。
でも、俺の挑発じみた言葉にもボーガンは顔色を変えずにただ俺を見ている。
どうやら、俺の力を認めたようだ。
「ボス!!」
「大丈夫っすか!?」
ボーガンの後ろに次から次へと手下だろう応援がやってくる。
俺が通ってきたところと違うところから駆け付けたのだろう。
そして、手には魔導具を持った奴や、魔法使いっぽい奴もいる。
まずいな……どうする……?
「おい! ボスの援護を――」
「待て! おまえらは手を出すな!!」
応援に駆け付けた奴の中の一人が、ボーガンの援護をするように言おうとしたところをボーガンが止める。
どうしたんだ……?
「ボス!?」
「いいからおまえらは手を出すな!! 俺は今久しぶりに強敵に会えて嬉しいんだ! ……おまえら手をだしたら殺すぞ?」
ボーガンが手下達に告げると、手下たちはその迫力に後ずさりして、ボーガンの言う通りに手を出さないようにしたようだ。
そして、その光景を見たボーガンは俺へと向き直る。
「さぁもっとやろうぜ!!!!」
こいつは戦闘狂か……?
ボーガンはそう言うと、再度俺に肉薄する。
そして、俺もこのままではやられると思い、それに対応すべく動いた。
ボーガンは俺に肉薄すると、ストレートやフック、さらには蹴りを織り交ぜながら俺に攻撃してくる。
俺はそれをボーガンを上回るスピードによって、躱しながらカウンターを入れようとするけど、ボーガンがニヤリとする表情に警戒し、カウンターを入れる事が出来ない。
くそ、おそらくあのタイミングなら対処できないと思うけど、あの顔を見ると躊躇ってしまう。
これが戦闘による駆け引きか……ボーガンが駆け引きで来るなら俺は……。
「うぉぉぉおおおおお!!」
駆け引きで負けるなら、俺は真っ向から力勝負しかない。
能力的には俺の方が上だ。
少々痛い目に合うけど、このまま躱しているだけじゃ埒があかない。それに今は敵の本拠地にいて、リノアもいる。
早く決着をつけて脱出しないと……。
だから、相打ちにでも持ち込んで早く倒す!
「おもしろい! 真っ向から来るか!!」
俺の思惑にボーガンは気づいたようだけど、気にする様子はない。
そして、俺とボーガンの距離が先ほど同様にゼロになる。
俺はその瞬間に右拳に気功を発動させ、魔力をできる限り流すイメージをする。
そして、俺の右の拳に感触が伝わると同時に俺の左頬に衝撃が走る。
「くっ」
どのように俺の頬にボーガンの拳が当たったか分からないけど、その衝撃で俺は吹き飛ばされる。それと同時に俺の右拳から感触がなくなり、俺と同様に吹き飛ばされていくボーガンの姿が視界に映った。
「――っ」
俺は吹き飛ばされこそしたけど、何とか意識を失わなかった為、すぐさま立ち上がりボーガンの動きに対応できるように体勢を整える。
すると、俺と反対側に飛ばされたボーガンも、俺と同様に立ち上がろうとする姿が見えた。
「へへへ、やるじゃねぇか。でも、まだ――」
でも、立ち上がろうとしながら言葉を口にしている途中に、ボーガンは意識を失い崩れ落ちた。




