最後まで順調……とはいきませんでした
「何もんだテメエ――ぐはっ!」
俺は闘気と気功を発動させ、一気に男に肉薄し、男が言葉を言い切るより先に顔面を殴る。
本当なら闘気と気功を最大限に発動させて殺したいところだけど、リノアの見ている前でそんな光景は見せられない。
それに殺したとなれば、いろいろと問題が出てくる。
だから闘気を発動して詰め寄り、殴る瞬間には闘気だけの発動で殴ってやった。
憎しみで感情が埋め尽くされたかと思ったけど、その辺を考えられるだけ俺はまだ冷静なようだ。
「ライト君……なんで……」
リノアはベッドに横になったまま、目に涙をためながらこっちを見ている。
「リノア、遅くなってごめん」
俺はそう言って、リノアの手と足を縛っている縄を闘気を発動させ引き裂く。
「どうして……ここに……ライト君には――」
リノアはベッドから起き上がりながら言葉を口にする。
まだ、恐怖が残っているのか体は震えていた。
「リノア、その件だけど――」
俺がリノアに宿屋の裏であった事を説明しようとすると『ガタガタ』と音がした。
「いつつ、テメェ!」
ドナルドは俺に吹き飛ばされはしたけど、意識は失っていないようで片手片膝をついて立ち上がってくる。
頑丈な奴だ……。
「俺を誰だと思っているんだ!!」
そう言ってドナルドは俺に向かって来る。
……遅い。
俺は向かって来るドナルドに気功だけ使い、詰め寄ると、ドナルドは驚いた表情を浮かべた。
そして、俺はドナルドの右拳を躱しながら、鳩尾へと拳と叩き込む。
「グハッ!!」
俺の右拳が入ると、ドナルドは呻きながら身体を九の字に曲げて倒れ込む。
弱い……弱すぎる。
弱いくせに親の威光を使って、金を使って、人を使って好き勝手悪い事して、リノアをこんなに怖がらせて……許さない!!
「おまえが誰なんて興味ない!! でも、おまえがリノアにした事は許せない!!」
俺はドナルドを押し倒し馬乗りになった。
リノアに怖い思いをさせて……許さない!!
俺はドナルドの顔を一発、二発と殴った。
こいつ……こいつだけはっ!!
「ライト君止めて!!」
突如俺の背中にリノアが抱き着いてきて、俺はそれで我に返り拳を止める。
「もう……もう大丈夫だから……」
リノアの言葉に冷静になってドナルドを見ると、どうやら気絶しているようだった。
「ゴメン……」
「ううん……助けに来てくれてありがとう」
そう言ってリノアは力を入れて抱き着いてくれたけど、すぐに離れる。
そして、目を逸らしながら、「でも、私より好きな人がいるんなら優しくしないで。辛いから……」って言葉を口にする。
「違うんだリノア!!」
俺はそう言ってポケットから、手紙を出してリノアに見せる。
「それは……」
「リノア聞いてくれ! 俺の部屋にドアの下からこれが入れられたんだ! それはアレクも知っている! だから嘘じゃない!!」
リノアは俺の言葉に手紙を手に取って、視線を落とす。
それを見て、俺は言葉を繋げる。
「俺はこの手紙を怪しいと思ったけど、リノアの名前がある以上無視は出来なかったんだ! それで行ったら嘘をついて呼び出されていたんだけど……」
そこまで言って俺は、あまり言い過ぎてもダメなような気がしたから、リノアの様子を見ることにした。
「…………そうなんだ。でも、なんでその子と横になって抱き合ってたの?」
リノアは顔を上げると、少しは納得したような、でもまだ半分疑っているな表情で俺を見てくる。
うっ、まさか見られていた光景がその場面だったとは……つくづく俺は運がないんだな。
いや、運がないとか思ってちゃダメだ。
どちらにしても、リノアを傷つけたのは変わりない。
でも、あの光景を見られていたとは……どうしよう?
いや、どうするもこうするも、俺には正直に言う事しか出来ない。
「……それは正直に言うと、俺を呼び出したのはリースちゃんって子で、宿屋の裏に行くなりリノアじゃないって分かったんだ。それで自意識過剰かもしれないけど、こうやって呼び出すからには告白か何かされるんじゃないかなと思って……それでちゃんと断らないといけないと思って話を聞く事にしたんだ。だから、話を聞こうとしたら急に抱き着いて来て好きって言われて……俺は咄嗟の事で相手が女の子だったし、避ける事ができなくて、そのまま二人で倒れたんだ。それで、体勢が体勢なだけに下手に動けなくて……。それでもちゃんと告白は断ったんだ。俺にはリノアがいるから。そしたリースちゃんが泣き出して、それで俺どうしていいか分からなくて……ほら、俺リノアと付き合うのが初めてだから、女の子に慣れていないし……それに、身動きもできないし、とりあえず泣き止んでもらおうと思って……その……あんな形になったんだ」
俺はその時の事ありのまま話す。
そして、俺の話をリノアは黙って目を見て聞いていた。
そのリノアの大きな目は、すべてを見透かすような目だった。
でも、見透かされるも何も俺は悪いことはしていない。
……でも、その目に動揺してしまう。
きっとあの対応は今考えると、彼女のいる男としてまずかったと自覚してるんだろうな。
「そうですか……」
リノアはそれだけ呟く。
えっ? それはどういうーーっ!?
俺がリノアの言葉の意味を、どう捉えていいのか迷っていると、リノアが胸に飛び込んできた。
俺は咄嗟にリノアを受け止める。
「分かりました。ライト君は嘘を言ってないと思いますし、ライト君を信じます。私もはやとちりしてすいませんでした。でも……」
でも……?
「他の女の子にはあまり優しくしないでください」
リノアは俺の腕の中で上目遣いしながら、そう言ってきた。
……やばい!!
可愛すぎる!!
「きゃっ」
俺はいてもたってもいられなくて、リノアを思いっきり抱きしめる。
こんな可愛い彼女を泣かせるなんて……俺はなんて事をしたんだ。
これからは今回見たいな事があっても毅然として態度で断る!
あっ、強く抱きしめてしまうとリノアの胸が……リノアって意外と……ダメだダメだ!!
俺は自然と少しリノアを離し、リノアの顔を見て口を開く。
「うん、これからは気を付ける」
「ライト君……」
そして俺とリノアは見つめ合う。
えっ? この展開って……もしかして!?
俺は意識してしまい、俺を見上げるリノアの唇を見てしまう。
俺……先に進んじゃうのか……?
「俺の家で良くも好き勝手暴れてくれたな!!」
俺がリノアとの進展を意識したところで、扉の方から声が聞こえてきた。