乗り込みます
……ドナルド=バグデス?
いったい何者だ?
「ドナルド=バグデスは、この辺りで顔を利かせているバグデスファミリーのボスの息子だ。バグデスファミリーはいうなら盗賊みたいなもんだ。もちろん盗賊行為だけでなく、人攫いして奴隷として売ったり、その……女の子にとっては苦痛な事もある」
女の子にとって苦痛……まさか!?
「そいつらはどこにいるんです!?」
そんな……リノアがそんな目に遭うなんて絶対だめだ!
俺の脳裏にリノアの顔が浮かび、心を締め付ける。
くそ、俺はなんて軽率な行動をしたんだ!
もしかしたら見られるかもって思っていたじゃないか!
なのに……くそ!!
「落ち着け! 衛兵には通報したから今頃ウェルホルム王国に連絡を取って、応援を呼んでいるはずだ。それでも、どうにかなるか分からないが……いつも行くときには証拠も何もないらしいからな」
応援? そんなの待ってたら遅すぎる!
「証拠を隠滅されるなら、なぜすぐに行かないんです!? すぐに駆けつけたらいいじゃないですか! それとも場所が分からないんですか!?」
「無茶言うな! バグデスファミリーその規模、強さからなかなか衛兵も手出しできないんだ。場所はこの街を出て北にある豪邸だが――っておい! どこ行く! 無茶するな!!」
俺はおっちゃんの声を振り切り駆け出す。
この街の北……場所が分かれば問題ない。
ウェルホルム王国の応援なんて待ってちゃリノアが……。
これでリノアが辛い目に遭ったとしたら俺は後悔してもしきれない。
俺が絶対守る!
――
俺は教えてもらった街の北へ向かう為、街中を走っていたけど人が多くてスピードが上げられない。
「くそ、こう人が多かったら走るのに邪魔だな。こうなったら……」
「きゃあ!」
「えっ!? あれはなに!?」
「嘘だろ……」
俺は人がたくさんいる前で、魔法を発動させ空を飛ぶ。
リノアが危ないんだ。
人の目がどうとか気にしてられない。
「待ってろリノア!!」
俺はみんなの目の前で魔法を発動させ、空へと飛びあがった。
そして、空を飛ぶと、バグデスファミリーの屋敷は空を飛んだら一発で分かる程、大きかった。
あんなに堂々と大きな屋敷を構えているのに、悪い事をしてても検挙できないなんて……。
まぁでも今の俺にはどうでもいい。
とにかくリノアさえ無事でいてくれれたら……。
俺はスピードを上げながら、バグデスファミリーの屋敷へと向かった。
―――――
「なんだあれは!?」
バグデスファミリーの屋敷へ近づくと、下から大きな声で叫ぶのが聞こえる。
どうやら見つかったみたいだ。
まぁ、この辺りは何もなくて見通しがいいし、おそらく衛兵が来ないとか見張っているだろうし見つかっても不思議じゃない。
それに今回は潜入でもなんでもないし見つかっても構わない。
むしろ、騒ぎが大きくなってドナルド=バグデスって奴が出てきてくれた方が、こちらとしてもリノアを人質に取っていようが見つかりさえすれば、俺には闘気に無詠唱もある。
人質に取られていようが、やりようはいくらでもある。
「ぼさっとするな! 魔法で撃ち落とせ!!」
向こうは俺を敵と認識したようで、魔法を放ってくる。
バグデスファミリーには魔法使いもいるのか……。
あくどく稼いだお金で自分らの身を守って好き勝手生活って訳か?
「そんなの許されると思うな!!」
俺は飛んでくる火の槍や水玉、そしてウインドカッターだと思われる空間が歪んで見える魔法を、リーゼルと戦った時に使った氷のドラゴンを出現させ、氷のブレスを吐かせ、それらを無効化していく。
向こうにも魔法使いがいるようだけど、所詮、俺の敵じゃない。
それに魔法の威力も、俺の通っている学校の生徒よりも劣っている。
伊達に俺が通っている魔法学園は最高峰と呼ばれている訳じゃない。
そこを卒業する生徒はまっとうな道を進むだろうし、こんな奴らに手を貸さないだろう。
それこそ賢者の名前を落とす事になるっていうのに。
「な、なんだあれは!?」
「に、にげろーー!!」
魔法使いだと思われる奴や見張りは、俺の魔法を見て敵わないと思って逃げ出そうとする。
「逃がすかぁぁぁぁあああああ!!!」
俺は逃がさないように、雷魔法を威力を弱らせて、死なない程度に放つ。
「あがががが!!」
「ぐぁぁぁぁあああああ!!!」
俺の魔法によって、バグデスファミリーの奴らは動けなくなり、横たわる。
どうやら、突然の出来事に魔法障壁も張っていなかったようだ。
俺は一度、氷のドラゴンを解除し、そいつらの元へ降り立つ。
「ここにドナルド=バグデスって奴がいるだろ!? そいつはどこだ!?」
「い、言うもんか」
言うもんかだと? 時間がないって言うのに!!
「俺は今怒っているんだ!! 言わないと殺すぞ!!」
もしリノアに何かあったら俺は自分を許せないし、こいつら全員殺してしまうかもしれない。
だから、脅しで言ったつもりだけど、あながち嘘じゃない。
俺は闘気を発動させ、男の顔の横の地面を殴る。
「ひ、ひぃ、わ、分かった! い、言うから許してくれ!!」
俺の殴った地面は、三十センチ程凹んで、男はそれに驚いて命乞いをしてきた。
「許すかどうかは俺の目的が達成してからだ! ドナルド=バグデスはどこにいる!? 連れてきた女の子はどこだ!?」
「あ、あの女の知り合いか」
「いいから早く言え!!」
「ひぃ! わ、分かった! 坊ちゃんとその女は屋敷の地下だ。正面玄関の階段の下に隠し階段がある!」
「本当だな!? 嘘だった場合は必ず殺すからな!!」
「ほ、本当だ!! だから殺さないでくれ!!」
屋敷の地下……待ってろリノア、すぐに行く!!
俺は命乞いする男をほって、屋敷のほうへと向かった。




