ある意味襲撃されました
俺が部屋を出て、宿屋の裏へ行くと一人の女の子の後ろ姿が目に入る。
どうやら男子生徒の待ち伏せではなかったようだ。
……いや、まだ分からない。こうやって油断させといて……という可能性もある。
でも、あの後ろ姿って……。
「何の用?」
俺の言葉に女の子が振り返る。
「ごめんなさい、嘘ついて呼び出して……」
そう、俺を待っていたのはリノアではなく、俺が教室で放課後、包囲網を形成される女の子の中の一人だった。
リノアとは違う水色のストレートの髪だから、後ろ姿見た瞬間にリノアと違うって分かったけど。
確か名前はリースだったけか?
その顔は、見るからに可愛らしいし、内気な感じが男の庇護欲を駆り立てるタイプの感じで可愛いけど、俺にはリノアがいる。
この子もいつも包囲網を形成してくる女の子の中にいるけど、ぐいぐい来る感じじゃなくて、どちらかというとその輪の後ろにいるような感じだ。
まぁ、もっともグイグイ言い寄ってくるような女の子だったら、こんな感じで呼び出したりしなさそうだしな。
それに、そう言った子は俺の目じゃなくてアレクの目も気にするから、アレクといる時は下手に行動しない。
「まぁ……良くはないけど……それで?」
勝手にリノアの名前を使ったのを、俺が良いなんて言えない。
まぁ、普通に呼び出されても俺はなんとかしてこういうシュチエーションは避けただろうけど、それでも人の名前を勝手に使って嘘ついて呼び出すのは良い事じゃない。
「私……私、ライト君の事好きなんです!」
リースちゃんは突然そう告白し、俺に向かって抱き着いてくる。
俺はそれを避けようとしてけど、俺は突然の告白にちょっとびっくりしてしまったのと、俺が避けたらリースちゃんがこけるかもとか考えているうちに、もろに食らって俺は踏ん張る事も出来ずに後ろ向きに倒れる。
それでも後頭部を打たなかったのは俺の身体能力のなせるわざか?
最大限に腹筋に力を入れて踏ん張った。
この子は俺を殺すつもりか……?
俺が踏ん張らなかったら、今頃俺は後頭部挫傷していたんじゃないだろうか?
でも、この体勢はやばい気が……。
「他の子たちと違って、私、本気で好きなんです! ライト君が戦っているところ……それに、あのリーゼル先輩相手でもちゃんと言えるところが凄いなと思いました! ちゃんと自分の思った事言える人なんて少ないから……。ライト君がリノアちゃんの事を好きだというのは知ってます……でも、でも、私じゃだめですか!?」
抱き着かれながら後ろに倒れた事によって、俺は地面に仰向きになっていて、その俺の上にリースちゃんが乗っているような形になっている。
さらにリースちゃんが上にいる事で俺は下手に動けない。
その中、リースちゃんは涙ながらに俺に言ってくるけど、俺は絶賛混乱中だ。
どうしたら良いのか分からないし、この感触……そしてこの体勢はまずい!
「ちょ、と、とりあえず起き上がろうか」
こんな場面誰かに見られていたらやば過ぎる。
リノアはもちろん、アレクにとかに見られたらまずい!
それにこの体勢じゃ俺の思考もままならない。
だから、とりあえずこの体勢をなんとかして、それから冷静になって話をしないと。
「いえ! 返事をもらうまでどきません!」
マジか……そう来たか。
くそ、ならば……俺よ、惑わされるな。
とりあえず心を無心にして理性を保て!
そしてリノアの事を考えるんだ!
俺は目をつむり、邪心を捨て感じる感触に惑わされないように無心になる。
……よし、賢者モードだ、賢者モード……。
「……リースちゃん、ゴメン。俺はリノアの事が好きなんだ。だから、リースちゃんの気持ちには答えられない」
「どうしても……ダメですか?」
うっ、そんな目で見ないで……。
「……うん、ごめん」
俺がそう答えるとリースちゃんは大声で泣き出した。
そして、泣きながら「じゃあせめてもう少しの間だけこうさせてください……」と言ってきた。
俺はそれを断る事が出来ずに彼女を抱きしめるような形で泣き止むように慰めた
俺がそんな事していいのか分からないけど……。
俺は告白されることなんてなかったし、もちろん断った事なんてないからこの状況をどうしていいのか分からなかった。
でも、自分のせいで傷ついたリースちゃんをないがしろには出来なかった。
…………でも、これ誰も見てないよな?
俺はこんな場面を誰かに見られていたら、ものすごくややこしい事になるだろうと思いながらも、俺の上で泣くリースちゃんをほっとけなかった。はぁ~……俺ってこういう時、ハッキリ断れないよな。
てか、こういう時ハッキリ拒絶できる人いるんだろうか?
俺は自分の言葉によって、初めて目の前で泣かれた事に戸惑いながらそんな事を思った。
形が違うとはいえ、フランの時もこんな状態になるかもしれない。
その時、自分はちゃんとフランを違う方向へ向けさせることが出来るだろうか?
俺は、こういうところもちゃんとしないといけないのかもしれない……そう思いながらもリースちゃんの背中を優しく包み、慰めていた。




