馬車の中でいろいろ話しました
「ははは!」
馬車の中にセリスの笑い声が響く。
女の子って旅行ってなるとテンション上がるよな。
まぁ、今回は厳密に言えば旅行じゃないんだけど。
俺達は今、賢者の聖地に向かう為、馬車で移動している。
さすが、最高峰と言われる王立魔法学園だ。
生徒五人で一台の馬車が用意され、俺とアレクとシリウス、そしてリノアとセリスが乗っている。
マルコ達は違うクラスの為、別だけど。
五人に一台の馬車に乗り込むようになっていて、一クラス二十人の五クラスだから、馬車が物凄く長い列になっている。
さらに、その周りに護衛がいるから何とも凄い。
馬車も物凄く豪華だし。
「そう言えば、リーゼル達はどうしているんだろうな」
リーゼル達はあの決闘の後、学園を自主退学して今向かっている観光名所の先にある隣国、ベーゼン王国の魔法学校へと転入していった。
なんでも、親に『我が家をつぶす気か!』と相当怒られたらしく、親が隣国に転入させたようだ。
どうやら、アレクの前でそんな事をしていたのがまずかったようだ。
普通に考えたらそうだよな。
王子の目の前で、悪い事したんだから。
ちなみにリーゼル達はすぐに転校した為、あの決闘は俺が先生に怒られ、注意され、罰として魔法なしで空き地を整地するように言われた。
闘気まで使用するなとは言われてなかったから、闘気を使いながらしたけど、あれは骨が折れた。
「どうだろうな? まぁあの学校も魔法学園としては優秀だし、二年生になったらあの学園と対抗戦があるし、もしかしたら出会う事もあるかもな」
「対抗戦? そんなのがあるのか?」
「……ライト、オリエンテーション聞いてなかったのか?」
「あはは……」
このやり取り、前もあったけど聞いていません。
「はぁ~……まぁいい。ベーゼン王国と我がウェルホルム王国は友好ではあるが、魔法に関しては争っていてな、ウェルホルム王国は賢者の出身国であり、邪神の封印されているところもあって、世間的にはウェルホルム王国が賢者ゆかりの地になっている。しかし、ベーゼン王国は賢者が修行したと言われている地であり、魔法王国としての地位を確立させようと、我が国に対抗して魔法学園の運営に力を入れている」
はぁ~なんていうか邪馬台国があった場所が、九州説やら近畿説やら言い争っているみたいなもんか。
「それで、両国でお互いの学園の底上げという名目で、覇権争いとして、学園同士の対抗戦がある」
なんて迷惑な話だ……俺達もろ代理戦争に巻き込まれてるじゃないか。
「それに二年生と三年生で優秀な生徒が代表として出場するわけだ。今年は我が国に学園が勝って対戦成績も我が国のほうが勝ち越しているがな」
「はぁ~」
「なんだライト? これは名誉なことだぞ? 理由はともかく、出場する生徒は注目を浴びるし、卒業後はいろんなところから声がかかるから将来は安泰だ。ライト、おまえもリノアを養っていくんだったら出場した方がいいぞ?」
「なっ!? 何言ってるんだ急に!?」
あまりの突然の振りに俺は動揺してしまった。
アレクは案の定ニヤニヤしながら俺をからかってくる。
あいつ……。
でも、確かに将来の事を考えると出場して、良い条件の就職先を見つけないといけないかもしれない。
そんな事を考えながらリノアの方を見ると、セリスに、「良かったわね、将来安泰で! 子供一杯作っても大丈夫じゃん!」って言われ、リノアは「こ、子供って!? もう何言ってるの!!」って顔を赤くしながら怒っている
……うん、子供って言われたらなんか想像してしまってだめだ。
俺の頭の中を煩悩が埋め尽くす。
……ダメだ、ダメだ!
「アレックス様、見えてきました」
一人冷静だったシリウスは窓の外を見ながら、外を指さす。
シリウスナイス!
シリウスの言葉で、俺の煩悩は頭の片隅へ追いやった。
「どれどれ? あっ、本当だ!!」
さっきまで、リノアをからかっていたセリスは、シリウスの言葉に反応して外を見る。
その様子にリノアはほっとしたようだ。
シリウスの奴、俺達を助けてくれたのか……?
案外良い奴かもしれないな。
良かったなリノア、俺達シリウスに助けられて。
俺はそう思ってリノアの方を見ていると、リノアは、まだ赤い顔のいままで「子供……子供……」って呟いている。
いや、そんなリノアに言われると意識して……いや、ダメだダメだ!!
告白する時、勢いだったからここからはちゃんと落ち着いていかないと!
このイベントが一泊二日っていうのは俺の頭から消す!!
俺は一人、再度煩悩と戦い、そして意識を変える為にセリスに続いて窓の外を見た。
「あれが賢者の生まれた家か……」
『普通だな』と言葉を繋げようとしたところでやめた。
この世界では、賢者は敬われている。
それを、普通なんて言ったらダメな気がする。
でも、実際のところ、村だろう一角に木の家があって、その周りに観光客みたいな人がいっぱいいるだけだ。
家自体は普通の木の家。
まぁでも、賢者と言えど生まれてくるのに家は選べないしな。
とにかく、みんなと一緒に行動するのを楽しもう。
俺はそんな事を思いながら馬車に揺られていた。




