入学式早々絡まれました
「柔らかく暖かな風とともに、僕たちは今日このウェルホルム王立魔法学校の門をくぐりました――」
俺は特待生という事もあり、入学式で入学生代表の挨拶をする事になっていた。
だから、今までの挨拶を参考に聞いたり、前世の時の入学式で誰かが言っていた挨拶を思い出しながら必死に考えて練習していた。
よし、練習しただけあって順調にこなせている。
俺の辞書に『順調』って文字はないはずなのに。
でも、こんな事をしていると前世の学校を思い出すな。
この学校の制服は魔法学校というくらいだからローブか何かだと思ったら、なんと紺のブレザーに紺のズボンと普通の制服のようだった。
女子生徒の制服も同じく紺のブレザーに紺のスカートと、まさに俺は前世の高校生活に戻ったような気分になる。
でも、あの時は学校生活も適当に過ごし親孝行の一つも出来なかったけど、今回の人生は頑張って生きて楽しんで親孝行するって決めた。
だから、再出発の門出の今日はしっかりと決めないとな。
「――これからはウェルホルム王立魔法学校の生徒としてふさわしい生活を送り、将来の自分の進む道を間違えない為にもこの学園生活で正しい知識と思考を身に着けたいと思います。 一年生代表 ライト=ラインハート」
……決まった!
俺の挨拶が終わるとともに拍手喝采で拍手の音が鳴り響く。
少し前までは今の俺は想像できなかった。
ヤンキーの中で番長として戦いに明け暮れ、テストではなく腕の強さを競い合い、女っ気ゼロの中、当初の目標を忘れかけた日々……。
今思い出すと過酷な学校生活を送っていたものだ。まぁでも決して悪い学校生活ではなかったけど。
ツレと呼べるような存在も出来たし、友達の大切さを改めて認識できたし。
楽しかったと聞かれれば楽しかったと言えるだろう。
でも、『青春か?』と聞かれたら違うと思う。
ある種の青春かもしれないけど、あれは一般的な青春ではないと言えるだろう。
でも、今日から俺はこのウェルホルム王立魔法学校に通う。
今度こそ俺はここで一番になって、バラ色の学園生活を送るんだ!
俺はそう決意し、挨拶をした場所から元いた場所へと戻ろうと歩き出した。
「っ!?」
俺が元いた席へ戻ろうとすると、俺に足をかけてくる生徒がいた。
俺はその足にひっかかって態勢を崩したけど、戦士学校で培った反射神経によりこける事無く、踏ん張り、足をかけていた生徒の方へ振り返る。
「大丈夫かい? ライト=ラインハート君?」
振り向いた先にはそう言って、下卑な笑顔浮かべる茶髪のツンツン頭の男子生徒と、その両隣でクスクスと笑っている黒髪でツンツン頭の男子生徒がいた。
こいつらわざとだな……。
また、フルネームで言うところがいやらしい。
そもそも俺は前の戦士学校でも名字……ってか名字じゃないだろうけど、日本でいう名字にあたるところを言われた事ないし余計に違和感を感じて嫌悪感がある。
というより、自分の名字は今まであまり身近でなかったしな。
俺の生まれたスーラ村も小さな村だから名字とかなくても名前だけで通じていたし。
まぁ、きっとこいつは貴族かなんかの偉いさんの出身なんだろうな。
王立魔法学校は最高峰の魔法学校である為、その授業料は高く、一般家庭の子供はまず通うことは出来ない。
出来るとすれば俺みたいに特待生とかじゃないと無理だろうけど、その特待生にしても最高峰の学校である為、よほどの才能がないとスカウトされない。
最近では俺とあいつだけらしい。
まぁ、あいつには同情するところもあるな。
周りに誰も知らない人ばっかのところでこうやって偏見の目で見られていたんだろうし。
でも、だからと言って悪い事をしてもいい訳じゃないけど……。
まぁこいつら貴族とかのお偉いさんは自分より身分の低い奴を下に見るからな。
だから、こいつらは俺みたいに一般人がこの学校に通っているのが気に入らないのだろう。
「あぁ大丈夫だよ。あいにく反射神経はいいんでね」
俺は少し嫌味っぽく言葉を返す。
あぁ、なんでこんなケンカを買うような事を……俺も戦士学校でみんなに感化されたか?
いや、それもあるかもしれないけど、前の学校で年上ばかりの中で過ごしてきたから、同年代の奴らが子供っぽく感じるんだろうな。
それに絡んでくるにしても陰湿だし。
前の学校はドストレートだったしな。
「ふん、生意気な奴だ。所詮一般人のくせしやがって」
はいはい、お子様だこと。
その一般人のみんなのおかげで国は成り立っていているのに。
食物を作っているのは誰? 税金を納めているのは誰? 君たちは誰のおかげで生活できているの?
俺は心の中で毒を吐いて少しすっきりしながら笑顔でその男子生徒を見る。
「な、なんだ? やるのか?」
しまった、やっぱり少し顔に出ていたみたいだ。
平常心、平常心……っと。
俺はこんな奴を相手にするんじゃなくて、楽しくバラ色の学園生活を送る為にこの学校で再出発するんだ。
戦いに明け暮れる生活は前の学校で十分だ。
だから、こんなモブキャラを相手にしていてはいけない。
魔法学校に入学したことで魔法の制限もなくなったから、たいていの相手なら問題ない。
それこそ、前の学校で身体も体術的なことも鍛えたしな。
「いや、そんなつもりはないよ。ただ心配してくれてありがとうと言いたかっただけさ」
俺はそう言って、その男子生徒の手を強引に取ってシェイクハンドする。
そう、俺は今物凄く気分がいいんだ。
握手をシェイクハンドと言えるくらい気分がいい。
やっと憧れの魔法学校で青春を謳歌出来るんだから。
男は俺の手を振りほどこうとするけど、俺は気功を使いそれをさせない。
こんな目立つ場所で、もめているなんて最初から思われたくないしね。
最初はちょっとイラッとして嫌味を言ってしまったけど。
「じゃあ今日から同じ学年の仲間としてよろしく」
俺は忌々しいといった感じで、俺を見つめているさっきの男子生徒をスルーして元の位置に戻る。
まぁ、あのまま話しても円満とはいかないだろうし、あれ以上あの場にいたら向こうが我慢できなくなってキレたら嫌だしな。
入学式早々ケンカ勃発みたいな、前の学校でありそうな展開だけは避けたい。
ここでは、俺はさわやかな学園生活を送りたいんだ。
さて、この次は教室だ。
さぁ、今日はどんな一日になるのか……楽しみだ!