言葉になりません
はい、ただいま俺の目の前でリノアが顔を赤くしながら『えっ? えっ!?』と言った感じで周りを見てキョロキョロしています。
そして、俺の視界にはニヤニヤしているアレクとセリスがいます。
それから、シリウスはアレクの行動に『また、始まった……大変だな』といった視線を俺に送ってきています。
半分同情されているようです。
マルコは興味なさそうにしていて、その横では取り巻きの二人が「大丈夫です! 次はマルコ様の番です!」「そうです! マルコ様、必ず素敵な女性が現れます!」と言って、なぜかマルコを励ましています。
マルコは興味なさそうな顔から一転、怒ったような顔になって「なんか俺が失恋したみたいじゃないか! 止めろ!」って怒ってます。
マルコも大変そうです。
周りの観客は、俺とリノアに熱い視線を送りながら、『なんて言うのかしら?』『この人数の目の前で告白するとは……俺にはできない。さすが魔法戦士』とか好き勝手言っています。いや、この場面に魔法戦士とかどうかは関係ないと思います。
それに今から俺が告白するっていう空気を作らないでください。空気を温めないでください。
そして、私ライト=ハートラインは今にも心臓が飛び出そうなくらい心臓が動いています。明らかに負荷がかかりすぎです。
今心電図つけたら『ピー』といったまま戻ってこないでしょう。さて、ここから私ライト=ハートラインはどのように行動するのでしょうか?
暖かく見守りたいと思います。
……ダメだ。
落ち着こうと思って客観的に物事を見ようとしたけど、これは落ち着けない!
それにこの空気……もう今から『そんな事する訳ないじゃん!』なんて言える空気じゃない。
それこそ、もしこの空気でそんな事言ったらリノアにも恥をかかせるし、二度と告白するチャンスなんてないだろう。
というか、それこそ気まずくなって、もう話す事も出来なくなると思う
。
今が攻める時なのか……?
俺はもっと慎重に行くはずだったのにどうしてこうなった……?
俺は一度、思考を切って周りを見ると俺に向かって頷いているアレクとガッツポーズをして、俺にエールを送っているセリスが目に入った。
……間違いなくあの二人のせいだ。
でも、どうする? このまま時間が経って空気が『あれ?』ってなったら、それも終わりな気がするし、俺は間違いなくヘタレの称号を得る事になるだろう。
それにリノアとも終わりだ。
くそ……俺はもう将棋でいう『詰んでいる』状態だ。
もう逃げる個所もなくて負けは確定……俺はアレクとセリスに負けた。
もう行くしかない!!
「リノア!!」
「は、はい!」
俺はもう吹っ切れて大きな声でいう事にした。
こうなれば、男らしく覚悟を決めていくしかない!
よく前世のお見合い番組で見ていたあの告白の光景だ。
大きな声で言ってやる!
だから、『ちょっと待った!!』は出てこないでくれ!
「俺はリノアと初めて出会った時から、リノアに一目ぼれしていた! でも、一目惚れだけじゃない! 今みたいにケガを治してくれたような優しいところや、教室で見てたけどいろいろみんなに気が利くところとか、含めて全部好きだ!! リノアに何かあったら必ず俺が守る!! だから、俺と付き合ってください!!」
俺はそう言って右手を前に出して頭を下げる。
あぁ、ついに言ってしまった。
でも、今の言葉で良かったのか?
教室で見てたとかストーカーっぽくないか? 一目惚れって面食いだと思われないか?
そう考えると俺の言った事ってなんだかダメな気がする……?
でも、今さらどうしようもないけど……。
てか、長くない!? それとも俺が緊張しすぎて時間が長く感じてるだけか?
でも、即答じゃないって事はこれってあかんタイプの告白じゃ……?
「ラ、ライト君……顔を上げてください」
えっ? 顔を上げ……る?
…………あぁ、これって『ごめんなさい』タイプのパターンか。
そりゃそうだよな。
こんな大勢の前で目立っているところで、告白なんて。
しかも、勢いもあるしロマンのかけらもない。
そりゃダメだよな。
俺はリノアの言葉通り、顔を上げる。
すると、唖然としたアレクとセリスの顔が目に入ってきた。
セリスはともかくアレクは覚えとけよ。
俺のヤケに付き合ってもらう!!
「そりゃダメだよな。こんな告白なんて……ごめんな」
俺はそう言ってリノアに謝る。
「ち、違うんです! 私はライト君に街で助けてもらった時から、ライト君の事が気になっていました。見返りも求めず、見ず知らずの私を助けてくれて……それに今回もです。自分の危険を顧みず私を助けてくれて……私、嬉しかったです。ライト君はいつも私を助けてくれました。だから、ライト君が頭を下げるのはおかしいです、頭を下げるのは私の方です。だから……厚手がましいかもしれませんし迷惑をかけるかもしれません、でも私はライト君の事が好きです、私と付き合ってください!」
……………………えっ?
えぇ~~~~~~~~~~!?
これって夢じゃないよな!? アレクのドッキリでもない!?
本当……本当なのか!?
……いや、待て、その前にちゃんと答えないと。
「リノア、顔を上げてくれ。俺は必ずリノアを守る……だから、これからは何かあったら俺に言ってくれ」
「ライト君……」
俺は胸に飛び込んでくるリノアを抱き止める。
夢……じゃないよな?
どっかから『ドッキリ大成功!』とかいった看板出てこないよな……?
すると、どこからともなく拍手が巻き起こる。
そして、アレクやセリスも微笑んで拍手してくれている。
シリウスやマルコ、その取り巻き二人もだ。
本当に夢じゃないんだ……?
「ライト君、これからよろしくお願いします……」
「こちらこそ。リノア、よろしく」
なんだこの順調な感じは……。
いいのか? 俺がこんなんでいいのか……?
……今は何も考えず、この幸せを味わおう。
俺はそう思い、今、俺の腕の中にある幸せを感じる事にした。