口だけじゃなさそうです
俺たちがついて行って着いた先は、学校の敷地の外れにある空き地だった。
ここに来るまでにセリスが「ねぇねぇ、このまま逃げちゃって先生に言おうよ」って言ってきたけど、俺はそれを拒否した。
このままにしてたら、次はどんな形で、リノアに絡んでくるか分からない。
それにレインの件もあるし、こいつは個人的にも許しておけない。
あいつがやった事は許される事じゃないけど、ベイル先輩が言ってた話を聞く限りではあいつが変わったのは学校に行ってからだ。
そしてその張本人はこいつ……。
「さぁ、始めるか?」
リーゼルはそう言ってニヤニヤしながら俺たちに言ってくる。
俺とマルコ、シリウスはリーゼル達と三十メートル程離れたところで対峙していて、離れたところからリノアとセリス、そしてマルコの付き添い二人が見守っている。
ちなみにアレクはトイレ行ってから行くとか言ってまだ来てない。
アレクのいう事だからリーゼルも何も言えないようで、そのまま見逃したけど。
でも、アレクはそう言った去り際に、ニヤリとして言ったから何か企んでいるんだろう。
あいつは何を企んでいるのやら……。
「いつでもいいですよ」
俺はマルコとシリウスを見てアイコンタクトで確認を取るとリーゼルに言葉を返した。そして、俺以外の五人は「魔法障壁」と言って自分の周りに魔法障壁を張る。
俺はまだ使いこなせていない為、闘気を発動させる。
「ん? 早く魔法障壁を張れよ」というリーゼルに対して俺は「あいにく使うまででもないんでね」と挑発するように言葉を返す。
このやりとりは定番だな。
俺が魔法障壁を使えないと知っているのは、今のところ一緒の訓練している五人だけだ。
だから、リノアやセリスも使えないのは知らない。
もし、使えないと知ってたらリノアはこの決闘の許可をしなかったかもしれないな。
そう思うとこの五人が、誰にも言わないでいてくれたみたいで良かった。
普通は学校に入ってから習うものだけど、たいがいの生徒はここに入学する前から専属の魔法使いの先生をつけて習っているみたいだし、俺に関しては魔法戦士と呼ばれているから、当然できると思われているようだ。
そして、リーゼルは俺の言葉にプライドを刺激されたのか、さっきよりも怒っているのが見て分かる。
「本当、むかつく奴だ」
そう言葉を吐き捨てるとリーゼルは構える。
そして、取り巻き二人と目配せして、頷くと取り巻き二人が左右に散って走り出した。
来るっ!
「来るぞ!」
俺が思ったと同時にマルコが叫ぶ。
シリウスはというとすでにその場から動いて、左から来る相手を迎え打つべく詠唱を開始していた。
「チッ!」
それを見たマルコは出し抜かれたと思ったのか、舌打ちして右から来る二年生と詠唱を開始する。
どうやら二人ともリーゼルは俺に譲ってくれるようだ。
なら……俺はリーゼルへと向かって駆け出す。
すると、左からシリウスが魔法を放つのが聞こえた。
「風の精霊よ、大気を揺らし風を起こしたまえ、ウインドカッター!!」
チラっと様子を見ると、シリウスは素早く詠唱をすると左からくる二年生に向けて魔法を放っていた。
「風の精霊よ、大気を揺らし風を起こしたまえ、ウインドカッター!!」
対する二年生も同じ魔法を使用し二人の間で風魔法は衝突し、周囲に突風を巻き起こす。
「そんな簡単にやられるかよ!」
シリウスが素早く詠唱を行ったにも関わらず、それに対応するとは……なかなかやるようだ。
二年生ってのは伊達じゃないらしい。
その様子を見ていると、反対側からも轟音がするするどうやらマルコの方も始まったようだ。
シリウスとマルコもこの調子だと苦戦するかもしれないと思うと俺がリーゼルを倒して援護しないと……。
俺は前を見てリーゼルを見据える。
リーゼルはニヤつきながら詠唱していた。
「炎の精霊よ、集え、猛る灼熱の炎よ、全てを焼き尽くせ、そして対象を喰らいつくせ、ボルケーノ・ドラゴン!」
リーゼルが詠唱すると龍の姿をした炎が形成され、俺に向かって口を開けながら飛んでくる。
くそ、二年生で成績優秀ってのは伊達じゃないってか!
俺はリーゼルの魔法に対応すべく、無詠唱で魔法を放つ。
イメージは氷の龍だ。
「なにっ!?」
リーゼルは俺が無詠唱で魔法を放った事か、目の前に現れた氷の龍に驚いたのか、驚きの声を上げる。
「自分だけが出来ると思うな!!」
俺が叫ぶのと同時に炎の龍と氷の龍は衝突し、ものすごい轟音とともに、周囲に衝撃波が発生する。
俺はその衝撃波に負けないように踏ん張っていると衝撃波によって発生した砂埃の中から、リーゼルの姿が見えてくる。
その周りにはまだ光の膜が存在し無傷のようだ。
しかしその表情からはさっきまでのニヤついたような余裕は見られない。
「おい!」
リーゼルが叫ぶとマルコとシリウスと戦っていた二人が戦線離脱し距離を取る。マルコとシリウスは追撃をかけようか迷ったみたいだけど、詠唱スピードが速いのか魔法の発動までの時間が自分らより短い相手に対して深追いするのは危険だと思ったのだろう、二人はそのまま動く事をせずに相手を見送る。いったい何をするつもりだ……?
俺も追撃すべきかとも思ったけど、あの魔法障壁がある以上、直接ダメージを与えるには動き始めてから少しタイムラグが生じる。
それなら、相手の行動見て対処した上で反撃に転じた方が危険が少ないかもしれない。それに今回は俺一人で戦っているわけではないしな。
俺はそう考え、相手の出方を伺うことにした。