こいつには腹が立ちました
「決闘……? 何をかけて?」
負けた方が謝るとかか?
負ける気もさらさらないし別になんだっていいけど。
二年生で成績優秀って言ったって無詠唱は出来ないだろうし、あいつ……レインみたいに四属性以外の魔法が使えるって訳じゃないだろう。
もしそうなら、アレクがもっと反応しているだろうし、有名になっているはずだ。
「そんなの決まってるだろ? その子をかけてさ」
「なっ!?」
こいつ何を言っているんだ?
そんな理由の決闘なんて通る訳ないだろ?
っていうか人として、考え方がおかしいんじゃないのか!?
「そんなのダメに決まっているだろう! それにそんなの申請通る訳ないだろ!!」
アレクは、決闘の理由によっては決闘の申請は通らないと言っていた。
だとすると、こんな理由の決闘申請なんて通る訳がない。
「申請? そんなのする訳ないだろ」
「……どういう意味だ」
「そのままだよ。学校を通さない決闘だ」
「「「っ!?」」」
学校を通さない決闘?
……つまり誰の邪魔も入れずに戦うって事か。
「そんなのダメに決まってるじゃない!」
「そうか? ならリノアは俺と付き合うって事でいいんだな?」
「何を言ってるの!?」
こいつめちゃくちゃだ……。
「……分かりました」
「ちょっ!? リノア!?」
「だってこのままじゃライト君に迷惑けちゃうから……」
リノアは弱々しく微笑みながら言葉を口にする。
「くくくっ、分かればいいんだ。じゃ――」
「ダメだ!」
俺はそう言って、リノアに近づこうとするリーゼルの腕を掴み止める。
「リノアがいいって言ってるんだ、お前は関係ないだろ?」
「リノア本当にいいのか? こんな奴について行くのか?」
「こんな奴とは失礼な――」
「リノア!!」
俺はリノアと付き合ってる訳でもなんでもないけど、好きな子がこんな奴につれて行かれるのを黙ってられなかった。
引かれてもいい、嫌われてもいい、でも黙ってこいつに連れて行かれて何かあったら俺は絶対後悔するだろう。
「……行きたくない」
リノアは涙を流しながら、俺の顔を見て言う。
「なら、俺にこいつと戦わせてくれ!」
俺はリノアにこんな思いをさせたこいつ……何より人の気持ちを無視して、自分の思い通りに事を運ぼうとするこいつが許せない!
「でも……」
「大丈夫、俺は絶対負けないし怪我もしないから」
怪我しないとでも言わない限り、リノアはさっきみたいに俺に危ない目に合わせないために『うん』とは言わないだろう。
「大丈夫、俺の実力は知ってるだろ?」
そう言って俺は微笑む。
なるべくリノアに不安にさせちゃだめだ。
リノアはしばらく俺の顔を見て迷っていたけど、俺が無言で頷くと『……うん』と言ってくれた。
「って事でリーゼル先輩、俺と戦ってもらえますよね? 条件はさっきと一緒で。だからリーゼル先輩が負けたら今後一切リノアに関わらないでくださいね」
「……ふん、いいだろう。俺もさっきからお前にはむかついてたんだよ。だいたい平民のくせにちょっとの才能で特待生扱いされやがって……いいぜ、おまえもあいつみたいにやってやるよ」
「あいつ……?」
「リーゼル=ウィンダム、自分で認めたな?」
「いえいえ、違いますよアレックス様? 俺はあいつ……レインの時みたいに、お灸を据えようとしてるだけですよ」
「お灸……? それで学園を去ったのに? そして事件を起こすような人物になったのにか?」
レイン……? 学園を去った……? 事件……? まさか!?
「いや、それは俺のせいではないでしょう。所詮、あいつは平民以下の人間、ちょっとした挫折で闇に落ちただけでしょう。それぐらいの人間だったって事ですよ」
「おまえっ!!」
俺の中ですべてが繋がった。
あいつ……レインが天才魔法使いと言われながら社会に絶望し、復讐するためにあんな事をしてたって事、そして、レインをそんな風な人間にした張本人が目の前にいる人物だって事を。
レインは俺と違って天才魔法使いと言われながらも社会的名声はなかった。
だから、こいつはいろいろ貴族の立場を利用してレインをハメたのだろう。
それにレインは天才魔法使いと言われていたけど、無詠唱が使えた訳でも闘気が使えた訳でもないし、魔力量も俺みたいに無尽蔵って訳じゃない。
だから、よって集ってやられたとしたら、いくら天才と言われても対応するにしても限度がある。
俺はこいつにむかつき、飛びかかろうとするけど、アレクに手で制される。
「待てライト、ここでやるよりちゃんと戦ってあいつをぶちのめしてやれ」
「アレク……」
「おやおや、王族の人間がえらく物騒な言葉を」
「ここは学校だからな」
「……まぁいいでしょう。……それよりおまえだ」
そう言って、リーゼルは俺を見据える。
「いいですよ。こっちこそ早くやりたいくらいですから」
「……つくづく生意気な奴だ。まぁいい。そうだ、決闘は三対三で行おう。この際、生意気な一年にはちょっと痛い目にあってもらわないとな。さっきから黙って睨んでいるそいつらの目も気に入らん」
そう言ってリーゼルはマルコやシリウスを一瞥する。
「もし断るなら――」
「俺はいいぜ、ちょうど練習相手ほしたかったし」
「私も久しぶりに胸糞悪い気持ちになりましたし、いいでしょうか、アレックス様?」
シリウス……怒ると少し言葉汚くなるのね。
「あぁ、なんなら俺――」
「いや、アレックス様はやめてくださいよ? 王族の方相手では私たちも本気で戦えませんから。さあ行きましょうか」
そう言ってリーゼルとその取り巻きの二人は歩き出す。
絶対許さない。
そう強く思いながら俺たちはその後ろをついて行った。