王家パワー使う事にしました
「ライト君放課後ヒマ? お出かけしない?」
「いや、今日はちょっと……」
「じゃあ明日は?」
「明日もちょっと……ごめん! 今日アレクと約束あるから!」
俺はそう言って、一日の授業が終わった教室を抜け出す。
あの決闘から一週間、アレクの発言により俺の将来性と、魔法使いとして見せた実力が認められたのか、入学当初より女の子に囲まれるようになった。
今ではアレクを上回る勢いだ。
というのも、アレクは王家だから格式が高いし、それこそ有名貴族でないと、なかなか王の許可が下りないと思っているのかもしれない。
それに比べて俺は平民出身。
でも、次期王であるアレクと親友で魔法使い……もとより魔法戦士として有名な俺は手に届く華と言ったかんじなのかもしれない。
バラ色の学園生活を送りたいと思ってたけど、これはこれで大変だ。
こんな状況をフランに見られたら……ダメだ。
今は考えないでおこう……。
そして、肝心のリノアとは入学式の日以来、話も出来ていない。
「はは! 大変そうだなライト」
「誰のせいだと思ってるんだよ!!」
教室を出た先にはアレクとシリウス、そしてマルコと、その取り巻き二人がいた。
俺はあの入学式の決闘以降は、このメンバーで過ごしている。
あれ以降、シリウスはアレクがみんなの前で宣言したことで、嫌そうな顔はするものの、何も言わなくなったし、それなりに接するようになった。
こうも変わるものかとも思ったけど、もしかしたら俺がアレクにハメられた境遇に、少し同情してくれているのかもしれない。
俺もアレクの行動に対してシリウスに同情する部分もあるし、所謂、心友って奴なのかな。
マルコもマルコで、なんだかんだ言いながらつるむようになったし、それにつられて取り巻きの二人も一緒に行動するようになった。
「はは! でも、おかげで絡まれなくなっただろ?」
俺が、決闘をあんな感じに大々的にしたのをアレクに問い詰めると、アレクは『いや、大々的にライトの力を見せれば変に絡んでくる奴はいないだろ? まぁ見てろって。すぐに効果は出るからさ』と言いやがった。
一理、そんな効果もあるような気がした俺は、アレクにそれ以上言えなかった。
それで様子を見ようと思ったところ、実際絡んでくる生徒はいなかった。
……代わりに、女の子に囲まれるようになり、男連中からは嫉妬を含んだ視線で見られるようになり、入学して一週間で、必然的に俺が絡む友達は決まってしまった。
でも、なんで俺は魔法学校に来ても男として絡んでないんだろう?
「あぁ、絡まれなくはなったけど、良くも思われてないようだけどな。それに毎日放課後が大変だわ!」
「いいじゃないか! にぎやかで結構! それにライトも俺の名前使って逃げてるだろ?」
「うっ……まぁ……」
俺が、あの女の子達に囲まれた状態から抜け出すのに編み出した方法が『王家パワー』だ。
最初はいろいろいい訳して誘いを断っていたけど、それを上回るがごとく、いろいろとした誘い方をされた。
そこで思いついたのが王家パワー、すなわちアレク作戦だ。
彼女たちも貴族の生まれである以上、王家であるアレクとの約束があると言われるとそれ以上は言えなくなる。
だから、俺はそれを利用し抜け出す事に成功している。
日中もアレク作戦を実行し、アレクと行動する事でけん制して過ごしているのだけど、その結果いつもアレクと行動する事になり、アレクの思惑通りこいつとは親友みたいになってしまった。
何かこいつの手の上で踊らされているような……?
これは前の学校でなかなか手ごわかったライア君を上回るかもしれない。
っていうか、女の子と距離を取っている理由であるリノアとの距離は全然縮まってないから俺のやっている事って何? って感じなんだけど……。
それにリノアの可愛さが学園で評判になってきているようで、人気になってるらしいし……その辺をアレクは俺をからかうように言ってくる。
本当にあいつは性格悪いというか腹黒いというか……。
「そんな事より早く行くぞ。時間がもったいない」
「マルコ様の言う通り! 早く行くぞライト!」
「そうだそうだ!」
「あぁ~!! もう分かったから! でもそんな事で済まされる問題じゃないんだぞ!?」
俺は、これ以上アレクに口で言っても勝てないと思いマルコの言う通り、これからの時間を有効に使う事にした。
でも、一応俺のささやかな抵抗でちゃんと俺の言い分は言った。
「それにしても無詠唱は難しいな。シリウスはどうだ? 何か掴めそうか?」
「いえ、まだ……難しいです」
俺は今、放課後にこいつらに無詠唱を教えている。
最初は、俺の無詠唱を目の当たりにした教師たちが国へ報告、そして国王であるアレクのお父さんによって『無詠唱の普及は気をつけなければ軍事バランスが崩れかねない』との事で、俺に無詠唱の普及には弾圧がかかった。
でも、これに待ったをかけたのがアレクだ。アレクは自分の父を『自分が責任を持って管理する、これからの国を守る為にも必要』と説いて説得し、無詠唱が試験的に誰でも可能かどうか調べるという目的でアレクが許可した人物ならば可能、ただし10名までという事で許可が下りたらしい。
その時のアレクのしてやったりと言った顔は……。
それでアレクは自分とシリウス、そして一緒に行動するようになったマルコ達を対象に決めた。そんなすぐに決めていいのかと思ったし、マルコは俺に絡んできた奴だぞって思ったけど、ハードラ家は昔からウェルホルム王国にある貴族で王家としても交流が深いらしく、取り巻き二人の家もそうらしい。
……あの 二人はあまり名前が出ないから覚えてないけど。
ちなみに被験者10人のうち2人は、俺が誰にするか決めていい権利をアレクに内々でもらった。
というのは、きっかけがあればリノアとセリスを誘おうと思ったからだ。
今はリノアと全然話すら出来てないし。
でも、いきなりリノアだけ誘うのもあれだし、セリスにもちょっとは世話になっているから、俺としても教えるのに思うところはないし、二人は仲良いから一人だけという訳にはいかない。
あとはいつ声をかけるかが課題だ。
ちなみに、教えるというきっかけを作って、リノアと一緒に過ごす時間を作りたいという俺の思惑は、アレクに言った瞬間にバレたようで『被験者が男ばかりではいけないからな。女性も必要だ』と言われてしまった。
あいつは本当に勘が鋭い。
それから、無詠唱の話が出た時に妹のフランに無詠唱を教えた事、そして気功と闘気まではいかないまでも身体強化できる事はアレクを通じて伝えてもらった。
それで、なんか俺の肩の荷が一つ降りた気がした。
それにこの面子はどうかと思うけど、男で無詠唱を使えるようになって強い奴が出来たらフランの気もそっちに行くかもしれない。
そう思うと、俺も無詠唱を教える事に関してはWIN-WINの関係だ。
もしフランがアレクとかに惚れたら全力で止めようとは思うけど……。
それに無詠唱を教える代わりに魔法障壁を教えてもらってるしな。
「まっ、とにかく練習あるのみだ!」
俺はそう言い、みんなを連れて練習場所として、アレクが借りた闘技場へと向かう事にした。