偉い人でした
「アレクっ!? おまえ!!」
こいつはうまい事言って、俺を見せものにして楽しみやがってっ!!
だいたい、つまらない争い事を、決闘まで話を大きくし、更に宣伝に加えアナウンサーまで用意してここまで話を大きくしやがって!!
たいがいの人は、決闘になった内容まで気にしてないだろうけど、知られたら逆に俺とマルコが恥ずかしいぞ!?
俺は姿を現したのを見るや否や、アレクに詰め寄る。
すると、どこからともなく、シリウスが現れ、俺とアレクの間に割って入る。
こいつ何者!? 忍者か!?
「おい、ライト=ハートライン!! おまえは王子に向かって失礼が過ぎるぞ!」
「シリウス!! 余計な事を――」
「しかし!! あまりにも態度が……っ!! ウェルホルム王家に代々仕えてきたブラック家として許せません!! それに周りの目もあります!!」
ウェルホルム王家……? まさか!?
……いや、そう言えばアレクの名前聞いて、どっかで聞いた事ある名前だと思ったら、住んでる国の名前だったのか!!
ど うりでアレクって呼ぶだけでリノアやセリス、マルコや他の生徒も驚くわけだ。これ下手したら世界とか時代とか場所を間違ってたら俺、死刑じゃね!?
「……アレクお前、王子だったのか!?」
「……ちっ、バレたか」
『……ちっ、バレたか』じゃねーよ! 一国の王子が舌打ちすんじゃねぇーー!!
こんなのが王子でいいのか!?
ってか、俺に素性を隠したままにしててどうするつもりだったんだ!?
「まさか、ライト=ハートライン……おまえ、アレックス様を王子と知らなかったのか……?」
シリウスが、何か物珍しいものでも見るような顔で俺を見てくる。
いや、確かに知らなかった俺も俺だと思うけど、俺は平民の子だよ?
王子の顔なんてそうそう知ってる訳ないじゃない?
写真もない世界なんだから。
さっきまで身分の事をとやかく思っていた俺だけど、ここは堂々と言わせてもうらおう。
平民は偉いさんの顔なんて知らない!!
「あは……あはは……」
俺はそれを堂々とも言えず、とりあえず愛想笑いで誤魔化す。
それを見てシリウスはもちろん、マルコまで額に手を当て俯きながら顔を左右に振って、呆れているのを態度で表している。
そんなん言われたって……知らなかった俺にどうしろって言うんだよ!?
それに、シリウスの一家は王家に使仕えるのに『ブラック』っていいのか!?
……まぁそんなの誰も気にしないか。
「ライト、気にするな。俺は気にしてない!!」
「いや、『俺は気にしてない』って言われたって見ろよこれ! 周りがほっとかないだろ!?」
シリウスもそうだし、マルコもしかり、リノアやセリス……今思えばみんな俺がアレクって呼んでいるのに驚いているじゃないか!
いや、身分とか関係なくってのは俺も望んでいる事だけど、やっぱり物事には順序があるでしょ!?
今の俺って、RPGのゲームを最初から改造データを使って、レベルマックスでやってる人くらい周りから見たら違和感あるんじゃね!?
「……そう言ってるライトの言葉遣いは変わらないが?」
「うっ……」
アレクはニヤリとして俺に言ってくる。人の上げ足を取るなんて嫌な奴だ。
でも、確かに今更話し方変えろって言われても、もう俺の中で、アレク=悪友みたいな図式が出来上がっているし難しいかもしれない……。
「無理するな。なら、周りは俺が認めさせてやろう」
いったい何をする気だ……?
アレクはそう言うと歩いて闘技場の中心に向かう。
すると、何事かと思った観客の生徒はざわついた後に静まり返った。
おそらく何事かと思った後にアレクの存在に気付いたんだろう、みんな静かに言葉を待っている。
「みんな聞いてくれ!! 私、アレックス=ウェルホルムはこの学校に来てライト=ラインハートと親友になった!! だから、ライトが私の事をアレクと呼んでも気にしないでくれ!!」
アレクは闘技場の中心で堂々と……いや、明らかに堂々話すようなことでないような事を、堂々と話して俺の元へと戻ってくる。
その表情は、何かを達成したような清々しい表情だ。
……こいつなんて事してくれるんだ?
こんなに人がいるところで、しかも平民である俺と親友になったって……それこそ騒ぎになるだろうに!
……でも、平民である俺と、堂々と交友があるっていう事は、アレクは王家でありながら身分をそこまで気にしてないのか?
まぁやっている事も王家とは思えない事だけど……こいつは良く分からない!
俺はアレクの清々しい表情を見ても全然清々しい気持ちになれなかった。
「ほら、これで問題ないだろ?」
アレクはドヤ顔で俺に言ってくる。
いやいや!! 問題大ありだろう!!
見てみろよ! 観客は静まり返っているし、マルコは空いた口がふさがってないし、シリウスは頭を抱えているし!!
シリウスよ、これは俺のせいじゃないぞ!?
「そうだライト、せっかく勝ったんだから手でも振っておけ」
そう言ってアレクは、俺の腕を手に取って観客に向けて手を振らせてくる。
いや、そんな事してる場合じゃないでしょ。
俺の気持ちをよそに、アレクはしてやったりって顔をしている。
一瞬、アレクの事を良い奴と思った……いや良い奴なんだろうけど、こいつは危険な奴だと俺の中で警鈴が鳴った。
……シリウス君、心中お察しします。
そして、父さん、母さん……また驚かすような事になってしまってごめんなさい。