追記
追記 姉妹の出した答え
阿古夜と氷時は本当によく似た美しい姉妹だった。
幼馴染で時たま帰ってきていた孝義と、明るく誰にでも分け隔てない氷時はそう間もなく恋仲になった。
人見知りする阿古夜は家のこと全般よくできたが、氷時と一緒でないとどもったり、もたもたと動きがもたつく少し天然の気がある娘だった。
姉妹は二人暮らしながらも、平和に楽しく暮らしていた。
そんな姉妹に不幸の白羽の矢が立ったのは、そう間もないことだった。
姉の阿古夜は人身御供の祠に、谷御霊を鎮める生贄」として、妹の氷時は何人目かになる、領主様の妾として召し上げられることになった。
二人は夜こっそりと話し合った。
風鳴りがする、人の声など気にならない夜を選んで。
「氷時ちゃん、孝義さんと一緒にお逃げ? 領主様に召し上げられたら一生会えないどころか、無事に帰っても来られない。
今までお嫁に行った、近所の姉やたちが連絡取れないの知っているでしょう? あそこへ行っちゃダメ」
「でも、姉さん、それを言ったら姉さんだって、人身御供の祠に行ったらどうなるか知ってるじゃない。 あそこは女の人を売るための場所だよ? 小さいとき二人で見たでしょ? 宮司様もグルだった。 あそこは小舟がつけられるように、岩の一部が開いて降りられるようになってるの見たでしょ?
あっちに行ったら姉さんだってどうなるか」
「私と氷時が入れ替われば大丈夫。 それに宮司たちが来れないように孝義さんがあんたを迎えに行ったら、蔓橋を渡って橋を落としてしまい? 姉さんは大丈夫、なんとか隙を見て領主様から逃げ出すから、あんたはせっかく好いた人ができたんだから逃げ?」
二人はお互い長いこと話し合った。
危険な賭けであることにかわりなかった。
特に村に残るといった阿古夜は村中から狩りに会うかもしれなかった。 山狩りなどで見つけられたらどうなるか、それを心配して氷時は身震いした。
けど譲らない阿古夜にも覚悟があった。
もし万が一なにかあれば、自分は生きていないという覚悟。
その時、氷時だけでも幸せになれれば、そう思っていた。
そして、結局氷時が折れた。
二人は入れ替わり、人身御供の祠で氷時は孝義を待った。
一方、阿古夜は白無垢姿で、井戸の底のにある妾の囲い部屋へと通された。
「氷時」
甘い声音で、怪しげな枝垂桜のような容姿の領主が言う。
すると阿古夜を見た途端、領主は顔色を変えた。
「お前、氷時ではないな? さては阿古夜か!」
この部屋にはそぐわない飾り太刀があると思ってはいたが、それは本物の抜身の刃がろうそくの明かりに鋭く輝いていた。
「この裏切り者が! 身の程を知れ!」
刹那、白刃が体を貫く。 その時、阿古夜の頭にあったのは妹の氷時のことだった。
そこから阿古夜の意識は蔓橋に来ていた。
……私、誰だったかしら? あぁ、あそこに私がいる。
橋を半分渡っているけど……。 あぁ振り返ってはダメ……
向こう岸で孝義が叫んでいる。 でももう遅い。
そして、橋は落ちた。
追記・完
短編フリマ文学賞用に改稿いたしました。
追記でなぜ姉妹が入れ替わったか理由が書いてあります。
姉妹がだした答えと、序文の場面を照らし合わせてお読みください。