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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第三章 起源
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掛け替えのないモノ

 暫く思考が固まりルティーは茫然としていたが、ゆっくりとハッチから出た。目前には古いクロムウェル巡航戦車がいて、ハッチから子供みたいなヴィットが顔を出していた。


「こんな旧式に……しかも、あんなガキに……」


「約束通り、噴射剤はもらう」


 ワナワナと震えるルティーに向かい、ヴィットは強い口調で言った。


「訳を聞かせろ……私の弾は何故当たらなかった?」


「それは……」


 強い視線で睨み返すルティーは納得出来ず、ヴィットは言葉を濁す。


「確かに命中したはずだ……だが、寸前で爆発した」


「仕方ないわね。それじゃ、種明かし、マリー!」


 横のハッチから出たリンジーが叫ぶと、マリーが斜面から飛び出て来た。


「何だ?……」


「マリーが砲弾を狙撃した」


 唖然と呟くルティーに、ヴィットが溜息交じりに言った。


「そんなバカな……」


 簡単に言われてもルティーは信じられなかった。砲弾を狙撃するなんて、常識に範疇を軽く超えていた。だが、マリーの赤い車体は、ルティーに思い起こさせる……未知の赤い戦車の事を。


「ごめんなさい。こんな事になるなんて……」


 砲塔を下げ、マリーは済まなそうに謝った。


「へっ?……」


 ルティーの目がテンになる。


「お、お頭……戦車が喋りました」


 操縦手もワナワナと震え、目を見開いた。


「挨拶が遅れました。最強戦車のマリーです、宜しくねルティー」


「あがあが……お前が、あの噂のスーパー戦車だと言うのか?」


「スーパー戦車かは分からないけど、多分」


 褒められて気分を良くしたマリーは、少し車体をクネらせた。


「……嘘だ。こんなチンチクリンで、まんまるのセンスの欠片もない奴が噂の戦車なんて……」


「チンチクリン……まんまる……センスの欠片もない……」


 さっきとは違う意味で、マリーは車体を震わせた。


「リンジー、チィコ……下がれ」


 苦笑いのヴィットに促され、リンジーとチィコが後ろに下がる。


「そこをどきなさい」


「何を言ってる?」


 声を振るわせるマリー。ルティーは少し後退るが、同じく声を震わせた……当然、違う意味でだが。


「いいから、どいて」


「お頭、取り敢えず……」


 操縦手がルティーの腕を取り、ペガサス号から離れた瞬間、マリーの主砲が火を噴いた。当然、砲塔と車体の連結部に怒りのロケット徹甲榴弾が命中! ペガサス号は一瞬でスクラップとなった。


「お頭っ! ”大海原の秘宝(悲報→悲しいお知らせではない)ブラック流星号”が轟沈しました!(長い)」


「何ですとっ?!」


 さっきの大爆発音が、ルティーの中で繋がった。


「じいちゃん達の仕業だ……」


 瞬間に察したヴィットが冷や汗を流した。


___________________________



 埴輪の様に固まるルティー達を残し、ヴィット達は海岸へと向かった。リンジーに背中を押され、ヴィットはマリーの中にいた。見慣れた計器盤や内装だっが、剥き出しの配線がマリーが完全で無い事を物語る。


「マリー」


「ヴィット」


「先にいいよ」


 二人が同時に相手の名前を呼び、ヴィットは先にと促した。


「ごめんなさい……出過ぎた事をして」


 マリーの声は泣きそうだった。


「今回は車長だったんだ……あのままじゃ、剰員を守れなかった……まだまだ半人前さ……マリー、援護ありがとう、助かったよ」


「……ヴィット、アタシ……」


 ヴィットの言葉にマリーは泣きそうな声になった。


「マリー、俺さ……背伸びしようとしてた……実力なんて無いのに……マリーに良い所見せたかった……リンジーに怒られたよ」


「ワタシだって! ヴィットの言い付け守れなかった! 我慢できなかった!」


「ごめんねマリー、酷い事言って……マリーは俺達を心配してくれたのに……まだ、俺は半人前だから、言葉の選び方さえ上手く出来ない……これからも、マリーを傷付けるかもしれないけど……これだけは信じて……この世で、マリーが一番大事なんだ」


「うわぁん~!」


 ヴィットの言葉にマリーは号泣した。


『まったく、似た者同士よね』


『マリー! どうしたんかっ?!』


「……大丈夫だよ、嬉しいだけだから」


 リンジーとチィコの通信に、嬉し泣きのマリーが涙声で答えた。


______________________



 砂浜には噴射剤を満載したマチルダが待っていた。


「見ろ、どっちが盗賊が分かりはしない」


 呆れ顔のゲルンハルトは、噴射剤以外の高級酒瓶や、宝箱? などを見て苦笑いした。


「これで奴も奪い取られる痛みや悲しみを痛感出来たじゃろう、グワッハッハ!」


「じぃちゃん、説得力ないから……」


 眼鏡を光らせ豪快に笑うオットーを見て、ヴィットは苦笑いした。


「商売道具の軽巡が轟沈、コレクションの殆どがスクラップ、おまけにお宝もごっそり喪失……なんか、気の毒な気もするわね」


 リンジーも流石にルティーに同情した。


「ついでじゃが、燃料庫にもバクダンを仕掛けておいた」


 更に眼鏡を光らせるオットーがそう言った瞬間、遥か彼方でキノコ雲が上がり轟音が遅れて響き渡った。


「……そこまでするか?」


 ヴィットの目がテンになる。


「これで、島を出るには手漕ぎのボートしかないのぅ……もっとも、島の周辺は潮の流れが超速くて渦が大量じゃ、おまけにサメとかがウジャウジャおるから、事実上完全軟禁じゃな」


「……悪魔じじぃ……」


 恐ろしい事をサラッと言うオットーに、ヴィットはまた冷や汗を流した。


「舟艇にマチルダを入れろ、マリーが乗って来た奴は修理すれば動くから沖で沈める」


「放っておかないんですか?」


「せっかくジジィが、脱出手段を無くしたんだ。救いの手は残さない」


 凛として言うゲルンハルトに、ヴィットはまた冷や汗を流した。


「でも、少し可哀想……こんな島に取り残されるなんて」


「大丈夫。島には水も食料も十分にあるし、自給自足出来るよ……原始時代に戻るだけだから」


 心配して砲塔を下げるマリーを優しく撫ぜリンジーは普通に言うが、ヴィットはまた冷や汗を流した。


「お前ら……本当にオニだな」


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