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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第三章 起源
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責任

「どうしたの?」


 ルティーの攻撃が続き爆音と震動に包まれる車内で、リンジーが元気のないヴィットに声を掛けた。


「……別に」


 目を逸らすヴィット。リンジーは溜息の後に強い口調で言った。


「車長は戦闘指揮が仕事だけどね、一番の仕事はクルーの命を守ると言う事。今の車長はヴィットなのよ」


「分かってる……」


 目を逸らしたまま、ヴィットは呟くがリンジーは更に声を上げた。


「分かってない。あんたには責任があるの、クルーを守る責任がね。今の状況は最悪よ……でも、どんな事をしても状況を打破しないといけないの……」


「でも……」


「マリーは最高の援護なのよ……最強の味方なのよ……気持ちは分かる。でも、目を逸らさないで、今の状態から」


 ヴィットは自分だけでも戦える事を見せたい、と言う事ばかり考えていた。だが、車内には不安そうな顔のチィコや、腕組みで怒った顔のリンジー、顔には出さないが困った様子のヨハンがいた。


 そして、何よりマリーの泣き声が頭に響いた。顔を上げたヴィットは、揺れる車内で腕の通信機に言葉を向けた。


「マリー、援護してくれ。チャンスは一度、リンジーの言う通り岩が砕けた瞬間だ」


『分かった。必ず当てるから』


 返信の声は何時ものマリーだったが、その声には喜びと決意が現れていた。リンジーは微笑むと照準眼鏡に顔を埋め、笑顔のチィコは操縦レバーとアクセルに力を入れた。ヨハンは表情こそ変えないが、砲弾を抱えて装填態勢を取った。


_________________________



「もうすぐ岩が砕ける! その瞬間が勝負だ!」


 照準眼鏡を覗きながらルティーが叫んだ。


「お頭! 車体に当てちゃダメですよ! 商品が台無しになるっ!」


「当たり前だ! 狙うは履帯だ! 当てたら直ぐに回頭だぞ!」


 操縦手の言葉に、上機嫌のルティーが叫んだ。そして、岩が砕けた瞬間、ルティーは必中の主砲を発射した。


「何だ?」


 確かに岩が砕けた瞬間、発射したはずだった。爆発音も聞いた、衝撃もあった……だが、硝煙が晴れても敵戦車は健在だった。


 そして次の瞬間、ルティーが覗いてる照準眼鏡の映像が轟音と震動と共にブラックアウトした。


 更に轟音と衝撃で車体が揺れ、操縦手が叫んだ。


「履帯破損! 砲塔も回りませんっ!」


「何が、起こった?……」


 ルティーは震える声で、それしか言えなかった。


_________________________



 マリーは全神経を集中していた。照準システムはダウンしていたが、光学で照準を付ける。敵の主砲弾の速度と自分の主砲弾の速度を神速で計算して、発射のタイミングに全てを賭ける。


「ヴィット……必ず当てるからね」


 呟くマリーには微塵の迷いも躊躇なかった。ただ、敵弾を狙撃する……一点のみの集中は、まさに神業だった。


「いっけぇ!」


 叫んだマリーの主砲弾は、見事に敵の主砲弾に命中した。


_________________________



「今だっ!!」


「いただきっ!」


 ヴィットが叫ぶと同時にリンジーが主砲を発射した。砲弾は敵のステレオスコープ型照準器を一発で破壊した。チィコは主砲発射のコンマ数秒後には回避運動に入り、ヨハンは薬莢排出と同時に次弾を装填する。


「リンジーっ!」


「まかせてっ!」


 間髪入れずヴィットが叫び、リンジーは敵戦車の履帯目掛け主砲を発射した。砲撃の止んだ敵戦車の履帯が吹き飛ぶ、更にリンジーは砲塔の付け根に連続して主砲を撃ち込んだ。


「砲塔の付け根は、サルテンバの唯一の弱点なの。砲身は丈夫だから、旋回出来なくしないとね」


 照準眼鏡に顔を埋めたまま、リンジーは嬉しそうに言った。


「マジか……マリーの奴、砲弾に当てやがった」


「そんなん、マリーには朝飯前や」


 唖然と呟くヨハンだったが、チィコは自分の事の様に胸を張った。


「そうだな、マリーだもんな」


 敵戦車の撃破を確認したヴィットは、溜息交じりに言った。


_________________________



「装填って言ってものぅ……」


 甲板に出たポールマンは、魚雷発射管の前で冷や汗を流した。


「何じゃ、これ?……」


 だがよく見ると、自動装填装置らしきモノには丁寧なマニュアルが書いてあった。


「こりゃ、簡単じゃ」


 スイッチ一つで、四連装の魚雷は装填出来た。


「どうじゃ? 出来たかのぅ」


「簡単じゃよ……お前さん、それ……」


 戻って来たオットーの肩には、RPGが四本掛かっていた。


「何じゃ、一基だけかのぅ……ついでじゃ、全部装填するかのぅ」


 そう言いながら、オットーは十基の発射管に四十本の魚雷を装填した。


「さて、降りるか。稀に見る重雷装が仇となるのじゃ」


 眼鏡を光らせたオットーの顔は物凄く微笑んでいて、ポールマンは苦笑いした。


「お前さん達、建物の中でもキケンじゃ! 地下に避難するのじゃ!」


 艦を降りたオットーは、物陰から見ていた乗員に叫んだ。


「何だっ! お前達はっ?!」


「いいから、逃げるのじゃ!」


 ぞろぞろと乗員が出て来るが、それを追い越しオットーとポールマンが逃げる。顔を見合わせた乗員達は直ぐに後を追うが、オットー達は係留場所からかなり離れたマンホールに飛び込んだ。


「出て来いっ!」


 取り囲む乗員が叫ぶが、直ぐに後退った。そこには肩にRPGを抱えたポールマンがいて、オットーは眼鏡を光らせながら説明した。


「あの艦には四十本の魚雷を装填済みじゃ。これを撃ったらどうなるかじゃ」


「やめろ、新型の大型魚雷だぞ、大型艦船でも一発轟沈ってシロモノだ……全部爆発したら……」


 ガタガタと震えながら乗員は言うが、オットーは平然と言った。


「早よ逃げるのじゃぞ。そんじゃ、発射じゃ」


 ポールマンは四本のRPGを続け様に発射した。そこは”名砲手”、全てが装填済みの魚雷に命中した。逃げ惑う乗員、オットー達は直ぐにマンホールに引っ込むが、物凄い爆風と衝撃が頭の上を通り過ぎた。


 装填済みの魚雷は次々と誘爆し、軽巡洋艦の巨体は中央から真っ二つに折れ、岸壁に沈んだ。当然、乗員達は爆風に吹き飛ばされ、全員がノビていた。


「これで、再起不能じゃ」


「お前さん、顔が怖いぞ……」


 悪魔の様に微笑むオットーの笑顔を見て、ポールマンは大粒の冷や汗を流した。


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