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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第三章 起源
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再起動

「そこをどけ……」


 飛行甲板で発艦準備するリーデルが強い声で言う。機体の前ではタチアナが腕組みしながら睨んでいた。


「行ってはダメよ」


「何なんだお前? あいつ等の味方じゃないのか?」


 強い口調で言い返すタチアナを見て、コクピットから見下ろしたリーデルが首を傾げた。


「味方? 言ってる意味が分からない。私は試したいだけ」


「試す? 何を?」


「あなたには関係ない」


 更に首を捻るリーデルに向い、タチアナは小さな声で呟いた。その声は暖機するエンジン音に掻き消され、リーデルは甲板員に怒鳴った。


「その娘をどけろっ! 出るぞっ!」


「無理です大佐っ! 艦長の許可が下りません!」


 叫び返す甲板員を睨むと、リーデルは無線をもぎ取る様に掴んだ。


「訳は何だっ?! あいつ等には借りがあるんだっ!」


『すみません大佐。クライアントの命令は絶対です、もし出れば着艦許可は出しません』


「腰抜けめっ!」


 済まなそうなハイデマンの返答に、リーデルは無線を叩き付けた。


「お聞きしたい。試すのはマリーですか? それともヴィット?」


 後部座席からガーデマンが穏やかに聞いた。


「そうね、赤い戦車なんて興味はないわ……」


 口元を緩め、タチアナは背中を向けた。


「大佐、何だが尻の座りが悪いですね」


「そうだな……」


 ガーデマンの言葉に、リーデルは小さく頷きながらタチアナの背中を見詰めた。


______________________



 ヴィット達が乗ってるらしい戦車が、斜面の頂上付近に見えた。思わず、マリーは叫んだ。


「ヴィット!! 返事してっ!」


『……マリー、見ててくれ』


 少しの沈黙の後、ヴィットは低い声で返答した。マリーはヴィットの戦車が隠れる巨岩が、敵の砲弾で削られて行く様子を視認すると、全身に悪寒が走った。


「ヴィット! 岩が持たないよっ!」


『大丈夫だから』


「大丈夫じゃないよっ!」


 叫び返すマリーは斜面の傾斜がきつくなり、落ちない様にアームで木を掴んだ。しかし、その態勢では援護に向かう事は難しく、噴射剤の無い事を改めて後悔した。


『俺達だけで、やりたいんだ』


 ヴィットの言葉がマリーに突き刺さった。マリーは木に掴まったまま、動きを停止した。自分はヴィットにとって”不要なモノ”……泣き叫び出したい程の衝撃は、マリーの思考さえ停止させた。


______________________



「何でマリーに冷たくするんやっ?!」


 会話を聞いてチィコが叫ぶ。


「俺は……」


 言葉が続かないヴィットは、拳を握り締めた。


「冷たくしてるんじゃないのよ。ヴィットはマリーに見せたいの」


 興奮するチィコを宥める様に、リンジーは優しく言った。


「見せるって何をやっ?!」


「そうね……今、マリーは怪我して完治してないの。だから、マリーに無理させないでヴィットだけで仕事が出来るって事を見せたいのよ」


 それでも興奮するチィコだったが、リンジーの言葉に小さく頷いた。ヴィットは何も言わないのに、リンジーが自分の気持ちを分かっていた事に驚いた。


「リンジー……黒魔術とかしてる?」


「おごっ!」


 唖然と聞くヴィットの顔面に、リンジーの強烈なグーパンがめり込んだ。


「どうでもいいけど、岩、危ないぜ」


 呆れた様なヨハンの声に、ヴィットは慌ててペリスコープで確認する。岩の亀裂は大きくなり、亀裂の周囲は崩れ出していた。


「亀裂をピンポイントで狙って来てるわね。サルテンバの光学照準はステレオスコープタイプだから、精密照準が可能なのよ」


「それだっ!」


 溜息交じりに呟くリンジーだっが、ヴィットの大声で飛び上がった。


「何よ? 何がそれなのよ?」


「チャンスは一度、岩が砕けた瞬間、敵の照準器を破壊する。リンジー、位置は分かってるよな」


「まあね……それと、ちょっと貸して」


 少し笑って頷くリンジーは、ヴィットの腕を捻り上げ腕時計型無線機に顔を近付けた。


「マリー、応答して」


『……リンジー……』


 マリーは掠れる声でリンジーの名を呟いた後、無言の闇に落ちた。


「しっかりして! こっちは大ピンチなんだよっ! この距離で直撃喰らったら正面装甲抜かれるんだよっ!……」


『……ワタシ……ヴィット、いらないって……』


 泣き声のマリー。リンジーはヴィットの腕を捻り上げながら、再度怒鳴った。


「光学照準を潰すから、援護して! いい、直撃しそうな敵弾を狙撃するのよ!」


『……』


「マリー! 皆、死んじゃうんだよっ!!」


 リンジーの叫びは、マリーの動かなくなったシステムを強制再起動させた。アームを駆使して敵戦車とヴィット達の戦車の軸線位置に移動、直ぐに車体を固定した。


『……位置に着いた』


 マリーは消えそうだが、強い声で返答した。


「リンジー、これじゃあ……」


「お黙りっ! あんたの作戦は詰めが甘い! こっちは一発の直撃で、あの世行きなのっ!」


 不満そうに呟くヴィットの声を遮り、リンジーが怒鳴った。


「リンジーの言う通り。この作戦では、良くて相打ちだ……」


 ヨハンは的確に分析した。ヴィットも内心では確かにそう、思っていた。そして、チィコの言葉がヴィットの胸を貫いた。


「そうやで、マリーの事を気付かってもな、結果的に悲しませたらアカンのやで……」


_________________________



「さてと、後はどうするんじゃ? 機関を破壊するんか?」


 総員退艦して、もぬけの空となった艦内でポールマンが冷や汗を流した。


「それじゃあ、直ぐに戦線復帰じゃのう」


 オットーは周囲を見回しながら、眼鏡を光らせた。


「そんじゃ、沈めるか?」


「沈めるだけでは数か月で直るわい」


 ポールマンが眉を顰めると、オットーは更に眼鏡を輝かせる。


「ほんじゃ、どうするんじゃ?」


 物凄く過激な予感が、ポールマンを包み込んだ。


「この船は海賊戦じゃ。海賊は船を横付けして白兵戦をするもんじゃ」


「そりゃ、そうじゃが……」


「よって、武器庫には武器が呻っておる」


「まあ、そうじゃろうな……」


「お主は甲板に行って、魚雷を装填するのじゃ。ワシは武器を取ってくる」


「装填って……誰を撃沈する気じゃ?」


「当然、この艦じゃよ」


 武器庫に向かいながらオットーは眼鏡を光らせ、何時もの様にポールマンは滝の様な汗を流した。


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