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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第三章 起源
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焦り

「発射炎!」


 ヴィットが叫ぶと同時にチィコは全力後退で岩陰に隠れる。そのコンマ数秒後に、岩壁に着弾した。


「自然岩は固いね」


 溜息交じりのリンジーが呟いた途端、第二射の轟音が響き渡った。物凄い振動の中、ヴィットが叫んだ。


「敵の装填速度は?!」


「殆ど速射! 二秒に一発!」


 リンジーが叫び返す! ヴィットは更に叫んだ!。


「こっちも同じ速度で撃てるかっ?!」


「問題ない」


 普通にヨハンが返事した。


「チィコ! 車体を出せっ! リンジー!」


 ヴィットが叫ぶと同時にチィコが車体を岩陰から出す。その瞬間! リンジーは目測で主砲を発射! 薬莢が排出され床に落ちる前にヨハンが次弾を装填した。


 まさに連射! オートの拳銃並に主砲は火を噴いた。


_______________________



「反撃ですっ!」


「知ってるよっ!」


 殆ど同じ速さで撃ち返して来る事に、ルティーは唇を噛んだ。しかも、数発の直撃を浴びたのに対し、自分達は岩に数発当てただけだった。幾ら正面装甲が直撃に耐えられたとしても、同じ場所に何発も喰らえば致命傷になりかねない。


 その為、砲撃よりも回避運動に重点を置かなければいけない事は、正に屈辱だった。


「道幅一杯を蛇行しろっ!」


 ルティーは叫ぶが、車体の倍しかない道での蛇行ではリンジーの正確な射撃の餌食だった。ルティー達は行進間射撃だがヴィット達は静止しての射撃、当然精度は格段に違った。


 しかも、数発撃てばヴィット達は岩陰に隠れ、次はどちら側から出て来るか分からない。幾ら戦車の性能差があっても、遮蔽物の有無はその性能差を埋めるのに十分だった。


「これ以上近付くと、回避出来ませんっ!!」


 ペガサス号の俊敏なハンドリングで、なんとか履帯への直撃は避けていたが、近付く程に着弾速度は増し、操縦手は悲鳴に近い声を上げた。


「あんな旧型にっ!!」


 互角以上の状況がルティーの苛立ちを最高潮に刺激する。性能差を腕でカバーされるなんて、屈辱以外の何者でもなかったから。


「お頭! 徹甲弾を使いましょう!!」


「ダメだ……岩と同時に奴らの装甲も抜いてしまう」


「……お頭……」


 具申を却下された操縦手は、冷や汗を流す。ルティーは既に物欲モードに入り、リンジーを手に入れる事に夢中になっていた。だが、それは一種の逃げなのかもしれない……戦車戦で後れを取っている事を見たくない為の。


「榴弾で行く!」


 ルティーは岩を目掛け、連続で主砲を発射した。


_________________________



「ヴィット!! 応答してっ!!」


 敵戦車を駆逐しながら、マリーは叫んだ。だが、ヴィットからの返答は雑音に掻き消された。


 地上戦の機能は回復していたが、索敵機能や照準機能は低下したままで、今までの撃破は全て光学照準によるモノだった。マリーは光学で全方位を索敵、同時に考えた。


(不利な状態をセイムにする為には、位置取りが……なら障害物の多い森林地帯……)


 最大望遠で森林地帯を索敵すると、その山肌に続く道に噴煙を発見した。


「ヴィット!!」


 マリーは全速で森林地帯を目指す。当然最短距離で、森の中をショートカットするコースを選んだ。


 だが、森の中には敵戦車多数潜んでいた。マリーが森に入ると同時に、多方向から一斉射撃が襲う。マリーは低下したトラクションコントロールを駆使して回避する。


「何だ! こんな狭い木々の間で、何であんなに速く走れるっ!」


「あんな斜面を登るぞっ! 」


「腕だっ! 腕で掴んでやがるっ!」


 海賊たちは口々に驚愕の声を上げる。マリーは急斜面を、アームで木を掴みながら物凄い速度で登っていた。しかも、その状態から、砲塔を回転させて撃ち返していた。


「被弾したっ!」


「履帯を破壊された!」


「こっちは砲身直撃だ!」


 取り囲んでいた敵戦車は、あっと言う間に撃破された。


「何なんだ……」


 撃破されハッチから顔を出した海賊達は、それしか言えなかった。


_________________________



「どうするんじゃ?」


 岸壁に係留されている軽巡洋艦を前にして、その大きさに圧倒されたポールマンが冷や汗を流した。


「まずは、乗船じゃ」


 オットーは普通にタラップから登る。慌ててポールマンも付いて行くが”大丈夫かよ”と脳裏で反復していた。


 乗艦したオットーは、いきなり壁の船内マイクを取った。


「あー、テステス……敵が艦内に侵入した。火薬庫及び、魚雷の格納庫に爆弾を仕掛けた模様、剰員は直ちに退艦せよ……尚、退艦の際は爆圧を逃す為、全ての水密扉を解放するのじゃ」


「……じゃって」


 あまりにもストレート、あまりにも安直。ポールマンは、上手く行くはずないと、大きな溜息を漏らした。だが、次の瞬間、警報ブザーが艦内に鳴り響き、剰員が我先にと一斉に退艦して行った。


「マジですか……」


 目をテンにしたポールマンの横を大勢の海賊達が走り抜ける。やがて艦内は、もぬけの空となった。


「さぁて、次じゃ」


 意気揚々と艦内深く進むオットーの背中を、ポールマンは溜息交じりに見た。


「長い付き合いじゃが、お主の考えは今だに分からん……」


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