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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第三章 起源
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出来る事

「後方! マリーだっ!」


 最初に見付けたゲルンハルトが叫んだ。平原のうねる丘をジャンプしながら全開で走る姿は、頼もしさと勇気を与えてくれる。


「やっぱり来やがったな」


「何だよ、飛んでるみたいに走ってるぜ」


 ハッチから顔を出したイワンとハンスが笑顔で言うが、ゲルンハルトの叫びが炸裂した!。


「中に入れっ!!」


「何だっ?!」


「マジかよっ!!」


 砂塵を上げ猛烈な勢いで近付いて来たマリーは、擦れ違い様にティーガーⅡの履帯を破壊した。当然、ハンスは回避しようと超速で車体を動かすが、マリーの前では動いてないのと同じだった。


「マリーの奴、俺達に全く気付いてない……」


「ああなったら、じっとしてるのが一番だな……」


 唖然とイワンが呟き、完全に片側の履帯を破壊されたハンスも呆れた様に呟いた。勿論、ハンスにとって完全に行動不能にされたのは初めての経験で、あまりの見事さに溜息しか出なかった。


「焦ってるんだろう……ヴィット達が心配で」


「何かさ、そんなとこが良いんだよな」


 ゲルンハルトは動かなくなったティーガーⅡのハッチから出て呟き、頬杖を付いたイワンも穏やかに笑った。


「そうだな。ヴィットが乗ってたら、絶対に気付いたはずだ……マリーは完全無比のマシンじゃないって事だ」


 ハンスもハッチから顔を出して、同じ様に笑った。


「さて、我々は海岸に戻り舟艇を守るとしよう」


 ゲルンハルトの言葉に頷いた二人は、ティーガーⅡから出ると海岸に向かって歩き出した。あちらこちらに残骸となった敵の戦車が、ゆっくりと黒煙を上げている。


「今のは何なんだ……」


 前方に赤い車体が見えた瞬間、撃破された海賊達は唖然と呟くしか出来なかった。気付くと周囲は撃破された味方戦車の残骸が溢れるが死傷者は皆無であり、不思議な雰囲気は周囲の光景とは一線を画していた……それは、生と死が当然の”戦場”ではない何かだと海賊達の誰もが感じた。


 そして、ゆっくりと戦車から出て来た海賊達は、唖然としながらも不思議な感覚を引き摺りながら徒歩で戻って行った。


_____________________



「前方二時! 大きな岩の影に入れ!」


「はいなっ!」


 ヴィットは開けた前方の中で、唯一の遮蔽物となる岩陰に入る事を指示して、チィコはドンピシャ車体を入れた。


「どうする? これ以上動けない」


「そうだね。ここに隠れれば、撃破はないよ」


 ヨハンは動けない事を心配するが、ヴィットはペリスコープを覗きながら自分に言い聞かせるみたいに言った。


「自然石だけど……サルテンバの主砲なら、至近距離で壊せるかも」


「壊れたらどうなるん?」


 リンジーは普通に言うが、チィコは眉を下げた。


「大丈夫だよ。マリーが来てくれるから」


「そうやな、もうすぐマリーが来るんや」


 リンジーが穏やかな声で言うと、チィコは嬉しそうな笑顔になった。だが、急にヴィットは声を押し殺す。


「ダメだ……マリーが来る前に決着をつける……そうしないといけないんだ……マリーは多分、完全に直ってない……それでも、俺達の事を心配して来たんだ……」


「ヴィット……」


 初めて見る、その横顔は男らしさが混ざっていて、思わずリンジーも言葉を失う。ヴィットは一呼吸置くと、続けた。


「今回はマリーの為に噴射剤を取りに来たんだ。だから、俺達だけで遣り遂げる……マリーの為に、俺達だけでも出来る事を証明する」


「そうだね……」


「ウチも頑張るで!」


 微笑みながらリンジーは頷き、チィコも元気よく腕をまくった。


「なら、どうする?」


 またヨハンが聞く。一瞬間を空け、ヴィットが説明した。


「……チィコ、車体を岩に垂直にして少し下がるんだ。それから、斜めに前に出る。リンジーは砲塔を45度にして正面に向けて発砲、先に敵の履帯を破壊する。こちらは遮蔽物があるが、敵は隠れる場所の無い一本道だ」


「了解! ヨハン装填宜しく!」


 直ぐに理解したリンジーは照準眼鏡に顔を埋めて叫ぶと、ヨハンは次弾を抱えて待機した。


「発射炎が見えたと同時に後退だ。次は反対側から撃つぞ!」


「任せときいなっ!」


 素早く車体を動かし、チィコも大きな声で返事した。


______________________



「目標まで三千、岩陰に隠れたか……」


 双眼鏡を覗くルティーは、口元を綻ばせた。敵は袋の鼠、岩以外に隠れる場所なんてない。


「こちらは遮蔽物なんてありませんぜ」


「奴らの主砲じゃ、100メートル以内じゃないとペガサス号の正面装甲は抜けないからな。多分、履帯を狙って来るだろうから、急停車で避ける……そして、こちらが先に敵の履帯を破壊する」


 少し不安気味に操縦手は言うが、ルティーは怪しい笑みを浮かべた。戦車の性能差は歴然、負ける要素など微塵もなかった。


「このまま前進しますぜ」


「ああ、二千を切ったら攻撃を開始する」


 ルティーの脳裏では勝利の方程式は完成していた。二千を切った状態で、まずは岩を破壊、隠れる場所の無くなった敵戦車は直ぐに逃げようとする……その後ろ姿に砲弾を叩き込む……当然、履帯を狙い脚を止めて勝利宣言だ。


 確かに多くのコレクションを失ったが、得る物もある……ルティーにとってリンジーは、かなりのストライクだったから。


 怪しく笑うルティーを横目で見た操縦手は、また悪い癖が出たと小さく溜息を付いた。


「お頭、例の赤い戦車はどうします?」


「連絡は?」


「それが、応答なしで……全滅させられたのかも」


「バカを言うな。こんな短時間で何が出来る。何両配備してると思ってるんだ?!」


 確かに平原には数十両の戦車を配置していたし、アジトからも全部に近い戦車を出していた。


「そうですよね。多分、無線の故障でしょう」


 操縦手は苦笑いで言うが、全車の無線が故障するなんて有り得ないと、寒くなる背中が語っていた。ルティーも心の中で自分に言い聞かせた……決着は目前のクロムウェルとであって、赤い戦車など関係ないと。


________________________



「ほれ、出発するぞい」


 腕組みするオットーの背中にベルガーが言うが、オットーは振り向くと眼鏡をキラリと光らせた。


「あの船、どう思うかい?」


「海賊船にしては大きいのぉ」


 アジトから見下ろした入江に停泊する船を見て、ポールマンも呟いた。


「ありゃ、軽巡洋艦じゃな。しかも物騒な物を積んどる」


 葉巻を燻らせ、キュルシュナーは平然と言った。


「四連装の魚雷発射管が片舷に五基、両舷に十基か……一斉射で片舷二十本、素早く回頭すれば、合わせて四十本の魚雷攻撃じゃ」


 腕組みしたまま、オットーは呟いた。


「なんちゅう重雷装じゃ……」


 ベルガーも冷や汗を出すが、ポールマンは嫌な予感がしてオットーを見た。


「お前さん、また何か企んでおるな?」


「せっかく噴射剤を頂いても、怒って追いかけてくるじゃろうな……その時に魚雷四十本喰らうのは精神衛生上良くない」


 冷や汗を流すポールマンだったが、オットーはまた平然と言った。


「舷側装甲の無い強襲揚陸艦じゃ、一本で轟沈じゃな」


 大きく煙を吹いたキュルシュナーも他人事みたいに言った。


「ベルガー達は、そのまま海岸に向かうのじゃ。ワシとポールマンで、アイツを何とかする」


「何とかって、軽巡洋艦じゃぞ……」


 普通に言うオットーだったが、ポールマンは滝の様な汗を流した。


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