到着!
「確かにティーガーⅡは凄い戦車だが……」
「戦車の性能じゃないさ……あれが、エルレンの黒い悪魔だ。どんな高性能戦車で挑んでも……結果は同じだ」
「当たるはずの砲弾が避ける……そして、向こうの砲弾は吸い込まれる様に当たる……まさに悪魔の仕業だ」
「既に重自走砲は全滅だ……でも何故だ? 撃破と言っても行動不能にするだけで、剰員の死傷はない……」
「……そこだな……噂に聞いた黒い悪魔とは、少し違う……うわっ!」
敵戦車の車内でクルーが会話を交わすが、その時! 後部エンジンルームに被弾して車内は轟音と震動に包まれた。当然、車体は行動不能になり電気も止まった状態では発砲さえ出来なかった。
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「大きい奴は大体潰したな……後は脚の速い中戦車の群れだ」
「T34にM4、Ⅳ号戦車か……かなりの数だな」
照準眼鏡に顔を埋めたままイワンは呟き、周囲を偵察したゲルンハルトは既に作戦を考えていた。
「どうする? 正面から行くか?」
「コイツの正面装甲なら抜かれる事はない。横腹を見せなければ問題ないな……さて、二時方向、一番左のT34からやるか」
ハンスは射撃位置に移動しながら聞くが、既にゲルンハルトは攻撃順も決めていた。
「了解。回り込ませないように進む」
言われなくても、ハンスは常に敵戦車が正面に来る位置にティーガーⅡを移動させた。
敵戦車も激しく撃ち返してくるが命中弾はなく、イワンの神憑り的な射撃は確実に敵戦車を撃破していった。
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「お頭。敵がティーガーⅡを奪い、平原で暴れ回っています」
「被害は?」
「それが、エレファントを初めとする重自走砲が全滅。残る中戦車で迎撃してますが、削られる一方で……」
「……」
操縦手の報告にルティーは、無言で唇を噛んだ。頭の中にはティーガーⅡを得た黒い悪魔が、自分のコレクションを駆逐する様子が駆け巡った。
「乗ってる奴は?」
「エルレンの黒い悪魔のクルーです」
少しの間を空けルティーが聞くと、想像してた答えが帰る。
「何とかの魔物は、どうした?」
「それが……消えました」
「消えた、だと?」
「はい。追い掛けてた連中も、急に消えたと……」
悪寒がルティーの背中を流れ、脳裏には赤い戦車が実像を結ぼうとしていた。
「何なんだ奴らは! もういい! 後方から行くぞ!」
吐き捨てたルティーが指示を出す。
「この先は山に続く一本道、逃げ道はありませんぜ」
「ああ、速度も装甲も砲撃力こちらが数段上だ……」
拳を握り締めたルティーは、頭の中の赤い戦車を払拭した。
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「やばいな……」
「どうしたの?」
呟くヴィットだったが、振り向いたリンジーの顔に緊張が緩んだ。
「この先は山だ。障害物が少なくなって来る」
目前に開けた空間が迫り、一本道は山の頂に続いていた。
「このまま行っていいん?」
「ああ、スピードを落とすなよ」
ポカンと聞くチィコに、ヴィットは優しく言った。
「なら、来るな」
その直後にヨハンが静かに言った。
「装填宜しく! 撃ちまくるよ!」
リンジーが叫んだ瞬間! 照準眼鏡に白い影が映る。リンジーは躊躇う事無く主砲を発射してヨハンは神速で装填! 続け様に三発の砲弾が発射された。
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「何だっ?!」
続け様の弾着に、ルティーは叫ぶ。
「連射だとっ?! クロムウェルだぞっ!」
「スピードを落とせっ! 逃げ道がないぞっ!」
操縦手も叫び、ルティーは慌てて指示を出した。直ぐにブレーキを踏むが、次の瞬間! 砲塔を激しい衝撃が襲った。
「何て奴だ……スピードを落とす事も予測済みか……」
唖然とルティーは呟く。リンジーは次弾の諸元を微妙に変えて、着弾距離を長く取っていた。
「自動と手動、どちらが速いか試しますか?」
まだ操縦手には余裕があった。直撃でも十分にペガサス号の装甲は、耐えられると分かっていたから。
「そうだな……75ミリ如きにペガサス号の正面装甲は抜けないからな」
発射ボタンに手を掛けルティーが怒りを露わにした時、振り向いた操縦手は真っ青な顔で言った。
「お頭……砂浜の見張り所から連絡です」
「代われ! 何事だっ?!」
『それが……』
「いいから、言えっ!!」
反撃の機会を邪魔された怒りと、その他モロモロの不快感がルティーの中で爆発した。
『それが……赤い戦車が……』
「……赤い戦車、だと?……」
一瞬、頭の中が真っ白になった。
「……お頭、どうしました?」
固まって動けないルティーに、操縦手が恐る恐る声を掛けた。
「どんな奴だっ?!」
『外見は六輪の装輪装甲車です。ですが何か、まんまるのチンチクリンで、恥ずかしい赤い迷彩で……それに、何か自分で舟艇を漕いで来ましたし……』
我に返ったルティーが大声で問い質すが、見張り員は困惑した返答だった。
「まんまる? チンチクリン?」
ルティーの脳裏で、赤い悪魔が音を立てて崩れた……そして”自分で舟艇を漕いで”と言う言葉に、数十の? マークが頭の上に団体で浮かんだ。
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「やっと着いたぁ~」
舟艇から砂浜に降りたマリーは、大きな溜息を付いた。そして、直ぐに索敵を開始すると、前方の平原での戦闘が起きているのが確認出来た。
「えっ、何っ?」
そして、同時に敵の通信を傍受した……。
「まんまる……チンチクリン……」
ワナワナと車体を震わせたマリーは、輝く真紅の車体の輝度を上げた。でも直ぐに気を取り直し、ヴィットに連絡した。
『マリー、来たのか?』
「直ぐに行くから!」
『今っ! 交戦中だっ!』
レシバーの奥から、爆発音が聞こえた。
「待ってて!!」
マリーは猛烈なホイールスピンで急発進すると、平原を全速で走り出した。




