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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第三章 起源
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タンクハンター

「チィコ、速度を落とさずに森の中を駆け巡れ。リンジー、進行方向を指示して。俺が後方と右翼を見るから、ヨハンは左翼を警戒してくれ」


 ヴィットが森を疾走するクロムウェル戦車の車内で指示を出す。


「なんや車長みたいやんか、ヴィット」


「分かった。この戦車の照準眼鏡は視界が広いから、方向指示は出来るよ」


「了解した」


 振り向いたチィコは笑顔で頷き、リンジーもウィンクしながら頷いた……当然、ヨハンは無表情で小さく頷く。


 コマンダーズキューポラは狭いが、小柄なヴィットとヨハンなら背中合わせで覗く事が出来そうだった。その数秒後、ヴィットが叫ぶ。


「二時方向に発火炎!」


 瞬時にチィコがアクセルを蹴飛ばす! 次の瞬間、履帯の後部ギリギリに着弾した。


「砲塔回転! 二時方向! 諸元任せる! 連続発射!」


 ヴィットが叫び、リンジーが砲塔を回転させると瞬時に初弾を発射! ヨハンは薬莢排出と同時に装填して連続発射を可能にした。


 数発撃った所で再びヴィットが叫んだ。


「左! 木の影にっ!」


「はいなっ!」


 ヴィットは主砲を発射している瞬間にも敵の死角になる位置を叫び、その場所に寸分の狂いもなくチィコが車体を入れた。


「敵も驚いただろうね」


 車体が死角に入ると、ヴィットが大きく息を吐いた。確かに敵は初弾の後は撃ってこなかった。そして口には出さなかったが、リンジーの射撃のスキルに驚いた。リンジーは初弾発射の後、次弾からは微妙に発射諸元を替えていた。


 それはまるで敵戦車の未来位置が分かるかの様に、躊躇や思案など微塵も無く速射だった。


「まるでオートの拳銃ね」


 リンジーはヨハンの装填速度に驚きの声を上げた。


「シュワルツティーガーと違い、あと数発連続発射すれば砲身が破裂してた」


 無表情のまま、ヨハンは怖い事を言った。


「……そうなのね」


 ヴィットは青褪めながら呟いた。


「取り敢えず力は示せたわね。これで敵も迂闊には攻撃出来ない」


 振り返りながらのリンジーの言葉に、ヴィットも大きく頷いた。


「一応は互角に持ち込めた。後は、どうするかだな……」


____________________



「クロムウェルに自動装填装置は付いてなかったよな」


「何言ってるんですか? お頭。そんな訳ないですよ」


 唖然と呟くルティーに向い、操縦手は苦笑いした。


「だとしたら、装填手は機械以上に速いって言う事だ」


「装填が速くても、当たらないんじゃ意味ないですよ」


「今は咄嗟に後退した……左右どちらかに移動してたら、直撃だった。敵の砲手も只者ではないな」


 ルティーの脳裏にタンクハンターと言う文字が、大きく高く投影されて少し背筋が冷たくなった。


「まあ、確かに正確な射撃ですね。しかも、自動拳銃並の発射速度……でも、それだけです」


「そうだな……獲物は強い方が面白い」


 ”それだけ”と言う言葉が、ルティーを後押しした。


「性能差と言う奴を思い知らせてやりましょうぜ」


「よし、位置を入れろ。狩の開始だ」


______________________



「そろそろだな」


 ヤードに軟禁状態だったゲルンハルトが、イワンとハンスに目配せした。


「作戦は?」


「見張りは二両、二人で一両づつ潰せ。その間に私が戦車を拿捕する」


 ニヤリと笑うイワンに、ゲルンハルトも薄笑みを返した。


「簡単に言ってくれるぜ」


「全く、ウチのボスは……こちらは装甲なんて皆無の装甲車、敵は二両のM4中戦車だぜ」


 大きな溜息のハンス、イワンは37ミリ砲弾を装填しながら笑った。


「合図で照準眼鏡を狙え」


「ハンス、出来るのか?」


「操縦よりは下手だがな……まあ、50口径(12.7ミリ)の名機M2だからな、※9ヤードをお見舞いしてやるさ」


  ※給弾ベルトの長さが9ヤード(約8メートル)それを全部撃ち尽くすと言う意味らしい。


 周囲を確認しながらゲルンハルトは指示し、イワンの笑いながらの問いに、ハンスはM2重機関銃の装填レバーを引きながら笑顔を返した。


「今だ!」


 装甲車から飛び降りながらゲルンハルトが叫ぶ。イワンは一発でM4の照準眼鏡を破壊し、ハンスも数十発? で破壊した。ついでにイワンは二両の履帯も破壊したが、敵戦車は同軸機銃や前部機銃が猛烈に撃ち返して来た。


 だが、当然の事ながら蜂の巣になった装甲車には、イワンもハンスもとっくにいなかった。


 ゲルンハルトは近場の戦車の中からティーガーⅡを選んで飛び乗った。


「何でⅡなんだよ?!」


「乗ってみたかった」


 後からハッチに飛び込んで来たイワンの問いに、ゲルンハルトは小さく答えた。


「確かにⅠ乗りなら興味あるな」


 続くハンスも操縦席に座りながら笑った。各自は一瞬で点検を済ませると、ティーガーⅡを発進させた。


「重い……進まない」


「確かに……砲塔の回転も遅い」


 アクセルを踏んでも進まない巨体にハンスが呻き声を上げ、砲手席に座ったイワンも苦笑いした。


「シュワルツティーガーは特別だからな。だが、普通のティーガーⅠと比べたら装甲も厚いし、機動性もそんなに劣ってる訳じゃないさ」


 ティーガーⅡを擁護するゲルンハルトだったが、その動きの鈍さには苦笑いした。そして次の瞬間、車体に猛烈な振動と車内に爆発音が鳴り響いた。


「砲塔直撃だ……三時の方向、T34だ」


 首を振ったゲルンハルトは、素早く命中弾を与えた敵を捕捉した。


「お返しだな……」


 素早く88ミリ砲弾を装填したイワンは、初弾でT34の履帯と転輪を吹き飛ばし、次弾で砲身を使用不能にした。その動きの中でもハンスは素早く位置を移動し、発砲の際の停止も怠らなかった。


「残弾は?」


「70発!」


「燃料は満タンだぜ!」


 ゲルンハルトの問いに、イワンとハンスが続けて答える。


「十分だ。さて、諸君。タンクハンターと言うモノを海賊共に分からせてやるか」


 襟を正したゲルンハルトは、コマンダーズキューポラから次の獲物を物色しながら口元を綻ばせた。



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