確信
『フィールドは、この島全体だ。あと十分で戦闘を開始する』
「了解した」
ハッチから身を乗り出し、周囲を見回したヴィットは真剣な声で返答した。
『お前達に、我が”白銀の稲妻! ペガサス号”の威力を思い知らせてやる』
「長っ……」
「ハクションの井筒屋、ペンペン草号?」
「何て耳してる……」
リンジーは一言でツッコミ、チィコはポカンと呟き、ヴィットは冷や汗を流した。
『人の愛機を、老舗百貨店の屋上に生えてる雑草でクシャミした! みたいに言いやがって……』
「だから、長いって……」
通信機の向こうでワナワナと震えるルティーに、呆れ声のリンジーが一応ツッコんだ。
「おんなじ戦車やのに、ウチ等のサルテンバとは大違いやね。変な名前付けられて」
『何だ? そのサル何とかって?』
鼻の穴を膨らませチィコは溜息交じりに言うが、ルティーも唖然と聞いて来る……当然だが。
「名前や。サルテンバ・カマボコ」
『全く意味が分からん……とても、戦車の名称じゃないな』
「何やて! ペンペン草の方が変やっ!」
『白銀の稲妻! ペガサス号だ!』
唾を飛ばした二人の言い合いは続く。リンジーとヨハンは苦笑いで見守るが、ヴィットは溜息交じりで言った。
「どっちもどっちだな……まあ、変態的と言うなら、サルテンバの圧勝だけど」
「そやろ! サルテンバの勝ちや!」
「褒めてないぞ……」
満面の笑みを浮かべるチィコを見ながら、ヴィットは大きな溜息を付いた。
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「どうする? ワシ等丸腰じゃぞ?」
「何、相手は二人、同数じゃ」
冷や汗を流すポールマンだったが、オットーは平然と言った。
「じゃが、このままでは直ぐに見つかるぞい……」
「任せろ、手がある」
「ホンマかいな……」
胸を張るオットーに、ポールマンは更に大きな溜息を付いた。そして、オットーは両手を上げると見張りの前に出た。
「……確かに手は使っておるが……」
仕方なくポールマンも後に続く。
「何だ? じじい、何処から入った?」
「見ろよ、震えてるぞ。じいさん、あまりの怖さにチビッたか?」
変な動きで体を揺するオットーを見て、見張りの二人はニヤニヤと笑った。
「チビリはせんが、軽い尿漏れを起こしておる」
「それをチビリって言うんだよ」
見張りの二人は大笑いした。だが、オットーは前に出る前にズボンの中でウィスキーの瓶を逆さにして栓を開けていた……当然、チン〇ンの所で。
「汚ねぇ! 盛大に漏らしやがった!」
思わず見張りの二人が後退る。その瞬間、オットーがとても老人とは思えない速さ(本当はあまり速くないが)で見張りに飛び掛かった。
「やめろっ! ション〇ンが付く!」
「なんか、汚い作戦じゃのぅ……」
ブツブツ言いながら、ポールマンも飛び付いた。見張りは汚さの方が(じじいのオ〇ッコ)が優先して、銃を撃つ事さえ忘れて逃げ惑い、その後ろからオットーが酒瓶で殴って気絶させた。ポールマンは、その腕力でもう一人の男を気絶させた(酒瓶は勿体ないので使わずに)。
「くわっかっか、どうじゃ? 見事な作戦だったじゃろ?」
「成功はしたがのぅ……」
胸を張って高笑いするオットーに、ポールマンは大きな溜息を付いた。
「さて、頂く物は頂いたし長居は無用。マチルダに連絡じゃ」
オットーは噴射剤を運ぶ用意をしながら、平然と言った。
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「サルテンバの有効射程は三千メートル。視界の開けた場所なら更に伸びる……戦うなら、障害物の多い森林地帯しかないわ」
「さっき、ゲルンハルトさんから連絡があった。敵の見張り場が点在してるってさ」
森林地帯に向かう車内でリンジーが呟き、ヴィットはゲルンハルトから受けた連絡を告げた。
「森林地帯にも見張り場があると考えた方がいいわね」
「あったらアカンの?」
リンジーは真剣な顔をするが、チィコはポカンと聞いた。
「こちらの位置は直ぐに知れると言う事だよ。しかも、こっちは相手の位置が分からない」
チィコに説明しながら、ヴィットはペリスコープから周囲を見回した。
「ダメよ、ハッチから身を乗り出しちゃ。同軸機銃なら、十分射程外から届くんだからね」
「分かってるって」
また子供に言うみたいにリンジーに言われて、ヴィットは少しムッとした声で答えた。
「止まれば位置を特定される」
「動き回るしかないわね」
ボソっと言うヨハンの言葉に、リンジーも頷いた。
「とにかく時間を稼ぐしかないな」
「そうね、それしかない」
「何で時間稼ぎするん? 攻撃せぇへんの?」
ヴィットが決意した様な声で言うと、直ぐにリンジーも同意する。チィコは訳が分からず首を傾げた。
「時間を稼げば、来るよ……マリーが」
「そうなん?!」
リンジーの言葉にチィコが飛び上がってヴィットの顔を見た。
「ああ。きっと来る」
笑顔を返したヴィットの胸の中は、確信で溢れていた。




