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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第三章 起源
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戦略

「もう! おっそいいっ!!」


 速度の出ない舟艇に、地団太を踏んだマリーが叫んだ。そして、折れる程引いたスロットルは大波で船体が揺れた拍子に根元から折れた。


「何でよっおおっ?!!」


 慌ててスロットルレバーのカバーを引き千切り、中のワイヤーを器用に掴むとエンジンは息を吹き返す。今度はワイヤーを千切らない様に、マリーは半泣きになりながら慎重にスロットルを操作した。


 荒れる波の彼方にヴィットやリンジー達の笑顔が見える。その笑顔が守れるなら、マリーは何も惜しくはないと思った……例え、自分がどうなっても。


「ヴィット、リンジー、チィコ……待ってて、直ぐに行くから」


___________________________



「何だこれは?……」


 クロムウェル戦車のコマンダーズキューポラを、覗いたヴィットは唖然とした。


「マリーに慣れてると、普通の戦車は大変でしょ?」


 砲手席のリンジーが、笑って振り返った。


「戦車最大のネックは”視界”だからな」


 砲弾の格納位置を確認しながら、ヨハンがボソッと言った。確かに、360度モニターで視界が確保出来るマリーに比べたら、全然見えないのと同じだった。


 普通の戦車での戦闘が初体験のヴィットは、改めてマリーの凄さが見に染みた。当然の事ながら走らせるのも、砲弾の装填も、砲を撃つのも全て人がしないといけない。しかも、各自は自分の仕事が忙しく、索敵などの余裕なんてないのだ。


「頭、出したらダメだからね。至近弾でも頭、無くなるんだからね」


 子供に言い聞かせるみたいにリンジーは言うが、確かにその通りだとヴィットは思った。装甲は薄っぺらい、だだの甲鉄……どう見ても頼りないし、エンジン音や各部の軋み音、鉄が擦れる金属音で話さえままならなかった。


 最高速で走るマリーの中は、振動や耳障りな異音もなくて戦車に乗ってる事さえ忘れてしまう程だった……(これが普通の戦車なんだな)。


 心の中で呟くヴィットの脳裏には、真紅のマリーが懐かしく映し出された。


「でもな、意外に素直な子や」


 レバー式の操縦装置を起用に操り、チィコはクロムウェルを簡単に走らせていた。


「驚いた? チィコは操縦に関しては天才なんだよ」


「確かに凄いな……」


 リンジーは普通に言うが、確かにスピードを落とす事無く森の中を縦横無尽に駆け巡る技術は、悔しいがヴィットに無理だった。


 そうなると、索敵担当のヴィットにはプレッシャーが掛かる。リンジーの射撃の腕は折り紙付きだし、ヨハンの装填は見えない程に速い……気が付くとヴィットの顔は、とても暗くなっていた。


「なんて顔してる……リンジーの機転のおかげで、戦いやすくなったんだ。気楽に行け」


「機転?」


 ヨハンは何時もと同じ無表情で言うが、ヴィットはよく分からなかった。


「ああ、景品をリンジーにしたんで、相手は装甲を抜きには来ない。履帯や転輪を破壊し走行不能を狙って来るだけだ。一騎打ちでの命のやり取りじゃない……動けなくした方が勝ちの、ただのゲームって考えればいい」


 初めて聞くヨハンの長いセリフにも驚いたが、リンジーの戦略はヴィットを感心させた。


「ただの粗暴で機械オタクの口だけ達者の色気無し、じゃないんだ……」


「ブツわよ……大ハンマーで」


 唖然と呟くヴィットを、リンジーが薄笑みを浮かべワナワナしながら睨んだ。


「敵弾に当たる前に死にたいのか?」


 小声で囁くヨハンの顔は、何時もより青白かった。


___________________________



「さて、どう戦うか?」


「戦車の性能じゃ勝てるはずはないが、乗ってるのは海賊だ。趣味で乗ってる奴に負けるはずはないさ……ヴィットもリンジー達も一応はタンクハンターだからな」


 双眼鏡で周囲を探るゲルンハルトは口元を緩ませ、イワンはニヤリと笑った。


「それに、自動装填より速いヨハンも付けたからな……だが、かなり多いな……見張り所が」


 同じく双眼鏡を覗くハンスも笑みを漏らした。


「ああ……多分、この辺りの平原が”戦車ごっこ”をするフィールドだ。普段は模擬弾で、勝敗を決めてるんだろう。数の多い見張り所は、そのジャッジの為だな」


「あれだけ多いと、ヴィット達の行動はバレバレだな」


 双眼鏡で見張り所を確認しながらゲルンハルトは呟き、イワンは地図に見張り所の位置を記した。


「二人は左右から回り込んで索敵。敵の場所をヴィット達に知らせろ」


「そうしたいが……」


「そうだな、動けばドカンだな」


 ゲルンハルトは指示を出すが、イワンとハンスは敵戦車が自分達の装甲車に照準している事を他人事みたいに言った。


「困ったな。敵はヴィット達の行動を把握……こちらは足止めか」


 双眼鏡から目を話し、敵戦車の位置を確認したゲルンハルトは苦笑いした。


「まあ、リンジーがゲームにしたからな……」


「時間が稼げればいいんだ」


 イワンもハンスも全く心配してない様な口ぶりだった。


「お前達、信じてるのか?」


「アンタだって、そうだろ?」


 薄笑みを浮かべるゲルンハルトの問いに、イワンが薄笑みを返す。


「もう直ぐ来るさ……最強戦車がな」


 ハンスは振り返ると、青い海の彼方を見た。


____________________



「ほれ、やっぱりあったぞい」


「他にもお宝、山盛りじゃ」


 当然の様にオットーは胸を張り、ポールマンもお宝の山に目を輝かせた。


 オットー達は追手を簡単に振り切り、マチルダを森の中に隠した。そして、徒歩でルティーのアジトに潜入していた。何で噴射剤の場所が分かるのか? 常識人には見当も付かないが、オットーは”野生の勘”で簡単に保管場所を突き止めた。


 留守番は操縦手のベルガーで、力持ちのポールマンとオットーの二人で潜入していた……もっともキュルシナーは何処でも平気で葉巻を吸うので、当然ながら留守番だが。


「行きがけの駄賃じゃ、適当に頂いて行くかのぅ」


「これこれ、目的を忘れるでない。マリーちゃんの噴射剤が最優先じゃ」


 お宝を目の前に目を$にするポールマンだったが、天変地異か? 世界の終わりか? オットーが止めた。


「お主の上着の膨らみは何じゃ?」


「これか? これはワシ等の燃料じゃ」


 目を細めたポールマンの指摘に、オットーは上着の下の酒瓶を撫ぜた。


「んじゃ、ワシも……」


 ニヤリと笑ったポールマンは、酒瓶をあらゆるポケットに捻じ込んだ。


「上手い事、噴射剤は小型のドラムカンに小分けにしておるな」


「どうやって運び出すんじゃ? 荷車じゃ森の中は走れんぞ」


「ベルガー達を呼べ、マチルダに積めるだけ積む」


「敵陣の真っ只中に突入か?」


「何、ヴィット達が引き付けておる。ここは、無人じゃ……」


 オットーがそう言った瞬間、奥の方から叫び声が轟いた。


「誰だっ?! 武器を捨てて出て来いっ!!」


「あっ……」


「あっ、じゃない……おるやんか……」


 変な声を出すオットー。そして、半泣きのポールマンが滝の様な汗を流した。



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