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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第三章 起源
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サルテンバ

 平原を過ぎると森林になり、その奥に広大なストックヤードがあった。そこには古今東西の戦車が整然と並べられていた。どれも整備が行き届いており、新車の様な輝きだった。


「流石マニア……何でも揃ってるな。でもさ、実戦で使うと壊れるんじゃない?」


「大丈夫だろ。マニアは保存用と使用用の二両を持ってる」


「筋金入りのマニアなら、三両だ」


 ポカンと口を開け呟くヴィットにイワンが説明し、ハンスが捕捉した。


「三両目の使い道は?」


「布教用だ」


 意味の分からないヴィットが聞くと、今度はヨハンが静かに答えた。


「マチルダが見えないんだけど」


「さっきまで、おったんやけど」


 気付くとオットー達の姿は無く、心配顔のリンジーとチィコだったが、ゲルンハルトは溜息交じりに言った。


「心配ない。やられる様なジジィ達じゃないさ……ジジィ達が被弾する事は、自分達から当たりに行く以外は滅多に無いんだ」


 ゲルンハルトの言葉は、自分達を庇い被弾したマチルダの姿をリンジーの脳裏に蘇らせた。


「なら、じいちゃん達はどこに?」


 ヴィットの脳裏でも確かに被弾の少ないマチルダが浮かび、余計に動向が気になった。


「さあな、なんせ妖怪だからな……何考えてるかなんて、普通の人間には分からんさ」


 溜息を付いたゲルンハルトだったが、イワンは急に声を上げる。


「ヴィット、あのヤークトティーガーにしろよ。前面装甲250ミリ、主砲はどんな重戦車も一撃で破壊出来る128ミリだ」


 イワンはヴィット達の身体を心配し、防御面と火力に最大の比重を置いた選択を勧めた。


「操縦するのは、おチビちゃんだぜ、アクセルに足が届かないだろ。それに、駆逐戦車は砲塔が無い、待ち伏せならともかく機動戦車戦は不利だ。おまけに砲弾は二分割、砲弾自身は28.3kg、薬筒11kgだぜ。誰が装填するんだ。俺なら、あれだ」


 ハンスはM18駆逐戦車を指差した。最大速度80km誇る快速戦車で、主砲も76mmHVAP高速徹甲弾で強力無比だった。駆逐戦車だが砲塔もあり、約18tの軽量な車体の機動性は抜群だった。


「あれは装甲がダメだ。最大厚でも25ミリしかない、至近距離なら機銃弾でも貫通する。ここは全てが均等に高性能なパンターにしろ。G型なら操縦性や機動性も良好、装甲も厚く主砲も強力だ」


 ヨハンは防御面から直ぐに否定し、全てが平均以上のパンターを推薦した。


「私はティガーⅠを推すが、重量級故に機動性と耐久性が心配な所だ」


「シュワルツティーガーと、違うん?」


「シュワルツティーガーはエンジンと足回りが特別仕様なのよ。機動性は軽戦車並み、強力は主砲と強固な装甲、それに完璧な足回りと最強エンジンの取り合わせ。まさに、最強の虎なの」


 ゲルンハルトはティーガーⅠを推すが完全に勧められず、チィコの疑問に丁寧にリンジーが答えた。


「ヴィットは、どれがいいと思う?」


「……俺は、どれでもいい。リンジーに任すよ」


 リンジーの問いに、少し笑ったヴィットが答える。ヴィットの中で、命を預けられる戦車はマリー以外にはなかったから。


「うちは、あれがいいな……」


 チィコは片隅にあった小さな戦車を指差した。


「あれ、戦車じゃなくて、実質的には軽装甲車だぞ」


 呆れ顔のイワンが、横目で九七式軽装甲車を見た。


「何であれなんだ?」


「だって、カワイイやんか……」


 一応ハンスが聞くと、チィコは頬を染めながら笑顔で言った。


「リンジーどれにする?」


「少し待って、敵の戦車によって決めるから」


 ゲルンハルトの問いに、リンジーは真剣な顔を向けた。敵の戦力によって対応策を決める……それが一番肝心だった。受け身の様だが、戦略としては”負けない”事を第一にした良策だった。


 そして、暫くの後に出て来たルティーの戦車に全員が言葉を失った。


___________________________



「どうだ? 決まったか」


 無線の声とルティーの容姿が重なる。ヴィットより、やや年上だろうか、細面だが視線の鋭い金髪の青年だった。何より、その戦車はスマートな車体に二本の砲身、細部こそ違え見た目はサルテンバと酷似していた。


「サルテンバと瓜三つや」


「二つだろ……リンジー、サルテンバって……」


 真ん丸の目を更に真ん丸にしたチィコに一応つっ込んで、ヴィットはリンジーに聞いた。


「サルテンバは私達の為に、パパの友達が作ったワンオフモデル……でも、パイロットモデルがあったと聞いた事がある」


「なら、こちらの戦車はどうするんだ?」


「サルテンバは二人乗りを実現する為に、主要操作の自動化を目指した実験タイプなの……その自動化は機動性と火力に特化し、装甲も新世代の複合素材。生存性を確保する為、エンジン関係を前部に配置し、装甲の一部にしているの……二連装の主砲も、命中性と破壊力を同時に実現させる為……サルテンバを使えば、私達みたいな女の子でも、一流のタンクハンターと同等以上に戦える」


 呪文の様なリンジーの言葉は、改めてサルテンバの性能をヴィットに知らしめた。


「性能的にはシュワルツティーガーでも敵わないだろうな……だが、サルテンバを知り尽くしている事は、こちらには有利だ。どんな、戦車にも必ず弱点はある……そうだろ、リンジー?」


「……サルテンバに弱点があるとすれば……それは、私達自身……機械的な弱点は皆無なの」


 本音でゲルンハルトは言うが、リンジーの答えは悲観的だった。


「何だよ、それ?」


「つまり……サルテンバは、最強の戦車って事」


 眉を寄せるヴィットに対し、リンジーは済まなそうに言う。


「それは、違うな。最強戦車はマリーだよ」


 だが、ヴィットは俯くリンジーに笑顔を向けた。


「そうね……そうよね……決めた。あの戦車にする」


 俯いていたリンジーの顔が上がった。その先には、角ばった砲塔のクロムウェル巡航戦車があった。


「なんや、カクカクでかわいくないなぁ~」


「ミーティアエンジン搭載型で最高速は60km以上だ、マーク7の様だから装甲も101ミリ、主砲も75ミリだからまずまずだな」


「何や、ミーちゃんエンジンって?」


「戦闘機用の液冷V型倒立12気筒エンジンを、戦車用に改良したやつだ」


「ふ~ん」


 多分、分かってないチィコだった。


「速くて、そこそこの装甲、火力は装甲を抜くわけじゃないから十分……良い選択だ」


 リンジーが初めから決めた様に即断した事に、ゲルンハルトは感心した。どんな戦車相手でも、リンジーの中では戦略は構築済みだと……それに比べ、ポカンとしているヴィットにやや不安を感じるが、ゲルンハルトは聞いてみた。


「車長は君だ。どう戦う?」


「そうですね……マリーみたいに戦いたいと思います」


「そうか……」


 自信に満ちたヴィットの顔を見て、ゲルンハルトは思わず笑みを漏らした。


「早く乗れ、少しでも慣れろ」


 何故が先にヨハンが乗り込み、茫然とヴィットが聞いた。


「どうして?」


「連れてけ、最高の装填手だ。三人じゃ、戦車は戦えないからな」


 確かに童顔で細面のヨハンは、ヴィットから見ても幼く見えた。


「うちとリンジー、後はアンポンタン二人やね」


 車内に入るとチィコが嬉しそうに言った。


「ヴィットはそうだとしても、俺は違う」


 真顔のヨハンに、ヴィットは苦笑いした。


「ヴィット。サルテンバの弱点は乗員よ……そこが、唯一の勝機」


「分かった」


 聞いた事の無い真剣なリンジーの声に、ヴィットも真剣に答えた。


_______________________



「通信を傍受しました。マリーは噴射剤を求め、海賊ルティーと接触する模様です」


「噴射剤?……そうか、飛べなければ戦闘力は、かなり落ちると言う事だ」


「補給が必要な噴射剤は、マリーの弱点と言えますね」


「弱点か……」


 指揮官は副官の言葉に思考を巡らせた。


「ただ、今回はデータの収集が……」


「なに、後で詳細は聞き出せばいい……ルティーとか言う奴に、懇切丁寧にな」


「了解しました」


 笑みを浮かべた副官は、部屋を後にした。


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