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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第三章 起源
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交渉

『何者だ? お前達』


 ルティーの声は思ったより若かかった。


「俺達はタンクハンターだ……」


『ほう、あんな旧型戦車と装甲車乗り込んで来るなんて、俺もナメられたものだ』


 ヴィットの言葉を途中で遮るルティーの声には、強い怒気が混じっていた。


「俺達は、アンタに頼みがあって来た」


『頼みだと? 勝手に島に上陸して、俺の戦車を破壊してか?』


「それは……」


 更に強い怒気を混じらせルティーは言い放つが、ヴィットは言い返せなかった。それも当然の事で、明らかに交渉に来たとは言えない行動だった。


「貸して」


「何だよ、今話してるんだぞ!」


 仕方なさそうにリンジーは手を出すが、マイクを胸元に抱いたヴィットは拒んだ。


「貸しなさい」


 腰に手を当てたリンジーが、少し強く言った。


「リンジーに任せろ。口だけは達者だ……うぐっ」


 車内を覗き込んだイワンの顔面にグーパンチが炸裂し、ヴィットは仕方なさそうにマイクを差し出した。


「私達は、あなたの持つ噴射剤を頂きに来た」


『噴射剤だと?』


「ええ。壊滅したくなかったら、大人しく出しなさい」


「……リンジー……」


 目をテンにしたヴィットが冷や汗を流す。完全な上から目線、と言うより開き直り? リンジーは思い切り強く出た。


『壊滅だと? たったそれだけの戦力でか?』


 急にルティーの声に笑いが混じる。明らかに格下だと、見下した様に。


「エルレンの黒い悪魔。そして、グラスゴートの魔物……それが、私達」


『エルレンの黒い悪魔だと……』


 ルティーの声が微かに震えた。戦車乗りで知らぬ者いないゲルンハルト達は、最初の威嚇には最適だった。


「後のは何だ?」


「おじいちゃん達の事よ、強そうな方が良いでしょ」


 耳打ちするヴィットに、リンジーも小声で答える。


「……確かに、魔物だけどな」


 苦笑いのゲルンハルトは、気持ち悪いくらい速く敵弾を回避するマチルダを見た。


「私達の目的は噴射剤だけ……そうね、一騎打ちでケリをつけましょう。私達が勝てば、噴射剤は頂く」


『お前達が負けたら?』


「そうね、絶世の美女を渡す」


「どこにそんな美女がいるんだ?」


 真顔のヴィットがキョロキョロと車内を見回した。


「目の前にいるだろ。プロポーションも抜群、頭脳明晰で、姫の様にお淑やか……うげっっ!」


 顔を摩りながらイワンが言うが、その顔面に37ミリ砲弾が減り込んだ。


「あのう、リンジー……実弾は危ないから……」


 冷や汗を流すヴィットだったが、床に大の字になったイワンが、ボソっと呟いた。


「……褒めたのに……」


「ホンマ、懲りんなぁ~」


 苦笑いのチィコは、倒れたイワンをツンツンとした。


「よせ、狙撃兵がいるかもしれん」


 ゲルンハルトの忠告を振り切り、リンジーは、そのままハッチから体を大きく出した。


「多分、向こうは見てるから」


 リンジーが微笑んだ途端、ルティーから通信が入る。


『ほう、中々のものだ……いいだろう、勝負を受けよう』


「マジか、物好きにも程が……ゲッ」


 目を丸くするヴィットに、猛烈な肘打ちが入った。


「一つ、条件がある」


『何だ?』


「私達は女二人と、アンポンタンで出る。だから、そちらのコレクションから戦車を貸して欲しい」


「誰がアンポンタンだって?」


 目を細めるヴィットを無視し、リンジーは更に通信を送る。


「悪魔も魔物も出さないのよ、それ位のハンデは頂かなきゃ……それとも、怖い?」


『……いいだろう……平原の奥に、ストックヤードがある。そこに来い』


「たいした、戦略家だ……」


 薄笑みのゲルンハルトは、小さく呟いた。


__________________________



「コンラート、TDまだなの?」


 ヴィット達が出発してから、マリーの”まだなの?”は数を増した。


「五分前にも聞いたぞ」


 作業をしながら、コンラートも同じ返事をする。マリーが不安がるので、TDは超距離通信のアンテナを繋いだままにしていた。居ても立ってもいられず、マリーはミネルバに連絡した。


「ミネルバ、聞こえる?」


『何だ? 今度は、まんまるか?』


「ヴィット達だけで、噴射剤を取りに行ったの……ルティーって、どんな人?」


 ”まんまる”と呼ばれた事は、この際置いといてマリーは不安そうな声で言った。


『そうだな、一言で言えば”マニア”だ。欲しい物は、どんな手を使っても手に入れる……奴の嗜好の対象は”戦車”だ』


「ミネルバなら、どんな方法で噴射剤を手に入れる?」


『海賊は”悪魔”と同じだ……必ず対価を求める……それが無いなら、果し合いを申し込む事だ……海賊は挑まれれば、必ず受ける』


「果し合い……」


 マリーの声が震えた。


『お前は何をしてる?』


「ワタシは修理中で……」


 急に言葉を強くしたミネルバに、小さな声でマリーは答えた。


『ルティーは手強いぞ。奴は戦車乗りとしても一流だ……あの坊やも危ないな……いいか、まんまる。無理は出来なくてもするもんだ……大切なモノを失いたくないならな』


 ミネルバの通信が切れると、マリーは小刻みに車体を振るわせた。


「コンラート、TD……」


「聞いてたよ……海中、海上の戦闘は無理だが、優先的に陸上戦闘の配線を修理した」


「索敵関係は大丈夫だが、火器管制系統はレーザー照準が使えない。光学照準で……」


 泣きそうなマリー声に、仕方なさそうにコンラートとTDが続けて言うが、途中で遮ったマリーは大声で叫んだ!。


「直ぐに出るっ!」


「待てよ、言ったろウォータージェットは動かないんだぞ」


 呆れ声のTDをスルーし、マリーは艦橋に連絡する。


「艦長さん! 舟艇を貸して下さい!」


『貸してって、操船はどうする?』


 ハイデマンも呆れた声で言った。


「ワタシがします!」


『私がって……操船する戦車なんて、聞いた事が……」


「貸してあげなさい」


 例によって、タチアナが薄笑みを浮かべながら言った。


「ありがとう! 艦長さん! ありがとうタチアナ! 出るよっ! コンラート! TD!」


「分かった。行って来い」


「燃料と銃弾は装填済みだ」


 コンラートとTDが降りると、マリーはエレベーターに飛び乗りウェルドックに向かった。


「本当に、出来るのか?」


 唖然と呟くウエルドックのクルーだったが、マリーは舟艇に乗ると器用にアームでゲートのレバーを操作した。そして、スロットルを絶妙な操作で操り、バックで船外に出た。


 唖然と見送るクルー達。その操船は見事としか言いようがなく、まるでマリー自身が舟艇になったかの様に海上を疾走して行った。


「まってて、ヴィット……」


 荒れる海面など関係無しに、マリーはスロットルを全開にした。



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