海賊の島
荒れる海は次第に収まって来た。
「もう、パラシュート切り離していい?」
ヘロヘロになったヴィットがオットーに聞いた。
「そろそろ、いいじゃろ」
「ねぇ、パラシュート作戦、初めから考えてたの?」
疑問を口にするヴィットは、内心オットーを見直していた。
「うんにゃ、まさか成功するとは思わなんだ」
「……このじじぃ……」
殺意がヴィットを包み込んだ。
「何でパラシュートなんか、積んでたんだ?」
船酔いでゲッソリしたイワンが呟く
「ホッホッホ、救命胴着と思って積んだんじゃ」
「間違えただけかい……」
ヴィットの中でオットーに対する羨望が、音を立てて崩れた。
「大分流されたわね。おじいちゃん、進路を北に向けて……もう直ぐ見える」
「ようそろ~」
変な返答に、ヴィットが首を傾げる。
「船乗り言葉で、宜しく候……つまり了解じゃ」
「ふ~ん……変なの」
スルーに近いヴィットの言葉に、少しコケたオットーだった。
「見えたぞ」
双眼鏡を覗いていたゲルンハルトは、前方に島を見付けた。周囲にも島は点在するが、一際大きい平坦な島は、ミネルバの言う島と合致していた。
「じいさん達、戦闘配置に付け。イワンは37ミリ砲、ヨハンは重機だ。ヴィット達は装甲車の中へ」
ゲルンハルトの指示で各自が持ち場に付いた。
「こんなに接近しても、出迎えは無しだな」
「そうね、海賊なら本拠地の接近は許さないはず」
装甲車の運転席でハンスが呟き、リンジーも同意した。
「出迎えなんて、無い方がええんとちゃう?」
「早いとこ、上陸しよう」
ポカンとチィコが言い、ヴィットも冷や汗を流す。
「一つ聞きたいんだが、噴射剤はどうやって手に入れるんだ?」
「……それは……」
ハンスの問いに苦笑いするヴィット。
「考えてないって顔やね」
目を細めるチィコ。ヴィットの頭の上には、電飾入りの!”図星”って言葉が点灯した。
「毎度の出たとこ勝負って訳ね」
リンジーも溜息を付くが、ハッチから覗き込んだゲルンハルトはニヤリと笑った。
「そう言うのは、嫌いじゃない」
「俺もだ」
「いいじゃねぇか、その方がスリルがあって」
ハンスもニヤリと笑い、イワンも37ミリ砲に初弾を装填しながら笑った。
「全く……男どもはこれだから……ヨハンは嫌だよね」
冷静沈着なヨハンにリンジーは期待するが、ヨハンは無表情で呟いた。
「ポジティブな作戦だ」
「どこが?」
大きな溜息のリンジーは苦笑いした。
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島が近付いても襲撃の兆候は皆無で、島全体が醸し出すリゾートの様な雰囲気にヴィットは一瞬、気が抜ける様な気持ちになった。
「前方の砂浜を見ろ。幅は200m程で上陸には打って付けだが、あそこを地雷原にして、その奥に広がる平原でハルダウンの待ち伏せなら、上陸した瞬間に集中攻撃を受けてあの世行きだな」
双眼鏡で上陸地点を確認するゲルンハルトは、的確に地形を分析した。確かに砂浜の奥に広がる平原には、所々に樹木も生い茂り待ち伏せには好都合に見えた。
「こんな装甲じゃ、軽戦車にも抜かれるな」
「37ミリドアノッカーじゃ、軽戦車相手が関の山。じいさん達の2ポンドも似たようなもんだしな」
装甲をコンコンとして溜息交じりのハンスに、イワンも溜息の言葉を被せる。
「海賊の島に、戦車なんてあるの?」
「新鋭の海賊ルティー。古今東西の戦車を集める、超が付く”マニア”だ」
ヴィットの問いに、例によって真顔のヨハンが余所を向きながら答えた。
「リンジー、無線でルティーを呼び出せ。周波数を変えながら探すんだ」
「分かった」
指示を出すゲルンハルトだったが、既にリンジーは態勢を整えて無線機を調整していた。
「ウチは?」
「俺は何を?」
「チィコは見張り、敵戦車を見つけ出せ。ヴィットもだ」
「ヴィット、競争や! ウチの目は双眼鏡より凄いんやで!」
「普通に、双眼鏡使えよ……」
大きな目を見開いて張り切るチィコに、溜息を付いたヴィットは双眼鏡を手渡した。
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浜辺に接近しても、敵影はなかった。
「誰もおらんのとちゃう……」
ポカンとチィコは呟くが、ゲルンハルトは指示を出した。
「じいさん。前方の砂浜に2ポンドを打ち込め」
『ホッホッホ、任された』
返信と同時にオットーは、砂浜に連続して2ポンド砲を打ち込む。何度かの砂煙に交じり、砂浜が爆発した。
「あのデブのじいさん、腕は確かだな」
イワンはポールマンの射撃を見て、ニヤリと笑った。
「どこが?」
ポカンと聞くヴィットに、イワンは少し真顔で説明した。
「地雷を撃つなんて、普通は無理だ。なんせ、どこに埋まってるか分からないしな。だが、あのじいさん二発に一発は当てている」
「埋まってる場所が、分かってるって事?」
「さあな、何せ妖怪じじい達だからな」
「ハンス、水際に沿って砂浜を回り込め。左翼の岩場から侵入する」
ヴィットは疑問だった。何故、地雷原に道を作ったのに、そこを進まないのかと。オットー達も、正確な射撃で、かなり広い安全帯を砂浜に作ったのに、右翼の方から平原に侵入しようとしていた。
「逃げ道がないとな……」
双眼鏡を覗いたままゲルンハルトは、首を傾げるヴィットに言った。確かに、今回の戦力では普通に考えても勝ち目は薄い。地の利も相手にある、ならばこちらの地の利は自分達で作るしかないのだ。
「前方二時、木の影に戦車や!」
チィコの言葉と同時に、イワンが37ミリ砲を発射した。当然、車体中央に命中するが、装甲が跳ね返す。
「効かないぞ!」
「効いてるさ」
叫ぶヴィットに、ゲルンハルトがニヤリと笑った。
「どこがです?」
「当たれば焦る」
敵戦車は有利な陰から出て猛烈に打ち返すが、行進間では照準もままならず、まして足の速い装輪装甲車に当てるなんて無理だった。ハンスは、まるで次の着弾地点が分かるかに様に操縦し、イワンは敵戦車が態勢が崩れると同時に履帯を一撃で撃破した。
更にヨハンは正確無比な射撃で、敵戦車の砲塔にある射撃照準器を重機関銃で撃ち抜いた。武装も貧弱な装甲車で、戦車を倒すゲルンハルト達にヴィットは驚くが、オットー達の戦闘もヴィットを愕然とさせた。
オットー達は小刻みに発進と停車を繰り返し、敵戦車を行動不能にしていた。素早く位置を替え、マチルダの車体が静止した瞬間の発砲は確実に目標の履帯を破壊、第二射で砲自体を発砲不能にしていた。
敵戦車は数に物を言わせ、マチルダの周辺に至近弾を撃ち込むが何故か命中しなかった。
「何で敵弾は当たらないんですか?」
「当たらないんじゃない。当てられない様にしてるんだ……それは、戦車の性能じゃなく、クルーの腕だ」
唖然と呟くヴィットに、薄笑みを浮かべたゲルンハルトが言った。
「ヴィット! ルティーが無線に出た」
「代われ!」
リンジーが叫ぶと同時に、ヴィットはマイクを握り締めた。




