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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第三章 起源
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噴射剤

 医務室に着いて直ぐ、ヴィットは目を覚ました……と、言うより飛び起きた。


「そら、起きるわなぁ~」


 頬杖を付いたチィコは、目を細めた。原因は”注射”であり、ヴィット最大の弱点だったから。


「どわぁあ~いっ痛てぇ!……まっ、マリーは?!」


 最大の弱点よりも、目を覚ましたヴィットにはマリーだった。


「大丈夫、コンラートとTDが修理を始めてるから」


 医務室に戻ったリンジーは、小さく微笑んだ。


「そうか……」


 ドスンとベッツドに倒れたヴィットは、大きな大きな安堵の溜息を付いた。注射器を持ったまま、苦笑いのガーデマンはリンジー達に説明した。


「ほら、おでこのタンコブ。咄嗟に自ら失神して仮死状態になったんだ……それで酸欠の状態でも助かった」


「何や、違うと思うなぁ~ヴィット、ただの慌てん坊やで……」


「……多分、チィコが正解。マリーが急上昇したんで車内を転げただけですよ。大体、この無鉄砲でスットコドッコイで、ノー天気のウンコたれに、そんな芸当なんて無理ですから」


 腕組みしたリンジーは、溜息交じりに言った。


「”遠慮”と言う言葉は、陸に置いて来たみたいだな……ちっとは怪我人に優しくしろよな」


 苦笑いのヴィットは、そのままベッドを出ようとした。


「ヴィット、まだ寝てなきゃ」


 流石に慌ててリンジーが止めようとするが、ヴィットの頭は既にマリーの事で一杯だった。


「噴射剤さえあれば、こんな事は起こらないんだ!」


 大きく胸を張るヴィットの言葉に、リンジーの目がテンになった。


「えっ?」


「だから、浮上出来なくてもロケット噴射で、はいっ! 生還! だっ!」


 鼻息も全開! ヴィットの笑顔も全開だった。


「確かにそうだけど……」


 ほんの少しだが、リンジーは嫉妬した。ヴィットの目には、マリーしか映ってないのか? と。


「噴射剤なら、補給出来るかもしれない」


「本当ですか?!」


 ガーデマンの言葉はヴィットにとって、思考の最優先事項だった。


________________________



「ヴィット! 寝て無くて大丈夫なの?」


 格納庫に来たヴィットを見付けると、マリーが声を上げた。だが、リンジーとチィコが微笑んで付き添っているのを見ると、少し安心したマリーだった。乗員とゲルンハルト達が総出でエレベーターを元に戻し、格納庫に移動したマリーの修理は既に始まっていた。


「大丈夫だよ! TD! 超長距離通信出来る?!」


 ヴィットは元気全開でマリーに答えるが、ハッチから顔を出したTDは少し元気が無かった。


「済まなかった……」


「何、謝ってるんだ?」


 満面の笑顔のヴィットには、TDの謝る理由が分からなかった。


「私の責任でマリーと君に……」


「コンラート! 噴射剤が手に入るんだよ!」


 続けて出て来たコンラートが俯き加減で謝るが、ヴィットは途中で遮って思い切り笑顔を向けた。


「ヴィットは少しも気にしてないよ……あなた達のせい、なんて微塵も思ってないから」


 マリーの優しい言葉は、TDとコンラートを救った。


「だから、TD! 長距離の通信出来るの?!」


「何だよ、マリーの通信機なら、外部アンテナさえあれば地球の裏側でも大丈夫だよ」


満面の笑みのままヴィットが叫ぶと、TDは困惑しながら答えた。


「直ぐに頼むよっ!」


「全く……」


 苦笑いのTDは、艦橋からマストまで伸びる空中線にコードを繋ぐ作業に入った。


「何だ、嬉しそうな顔で?」


 満面の笑みを浮かべるヴィットを、ゲルンハルトも笑みを浮かべて見た。


「噴射剤を補給出来るかもしれないんです」


「ほんとか?!」


 かなり遠くにいたイワンが、脱兎の如く走って来た。


「ああ、ガーデマンさんが教えてくれた。海賊で持ってる奴がいるんだ」


 ”なんて地獄耳だ”と言う言葉を飲み込んで、ヴィットは笑顔で言った。


「海賊?……頂戴って言って、くれるのか?」


 ハンスは笑いながら聞くが、ヴィットは真顔で答えた。会話には入って来ないが、当然ヨハンは聞き耳を立てていた。


「くれなきゃ、もらうさ!」


「……これだからな」


 何時もの見切り発車、ヴィットに作戦や下準備など存在しない事は、付き合いの長くなったゲルンハルトには分かり、大きな溜息を付いた。


「ヴィット、無理しないで……」


「何が無理だよ! マリーの為なら、何でもやるさ!」


 心配声のマリーに、ヴィットは満面の笑顔を向けた。リンジーは、マリーの車体にそっと、手を置くと聞こえない位に小さく呟いた。


「……マリー……よかったね」


 マリーには聞こえたが、敢えて何も言わなかった。


________________________



「出来たよ。で、何処に通信するんだ?」


 微調整を終わらせたTDが、マイクをヴィットに手渡した。


「ミネルバ! 出来る?」


「何ですと!? 周波数もコールサインも分からないんだぞっ!」


「天才TDなら出来るだろ?!」


「まぁ、出来るけど」


「ホンマ、単純やな……」


 照れるTDの横でチィコが溜息を付くが、リンジーは胸の片隅に痛みを感じた。


『何の用だ?』


 通信に出たミネルバは、ぶっきらぼうに言った。


「噴射剤がいるんだ! アンタなら持ってる海賊を知ってると思って」


『海賊? 通信にノイズが混ざるが、今どこにいる?』


「海の上だ、ルーテシアに向かってる」


『ルーテシア? 確かに、あの海域は海賊の巣だ……まんまるの為か?』


 ミネルバの声は笑ってる様に聞こえた。


「船には積んでないんだ! 敵はフリゲートや潜水艦なんだ、飛ばないと戦えないんだ!」


 思わずツバを飛ばすヴィットに、溜息交じりのミネルバが答えた。


『ったく……現在地は?』


 直ぐにリンジーが海図を見て、正確な位置を知らせた。


『その位置なら、ルティーだな。新進気鋭の海賊だ。”超”の付く新しい物好きだから高確率で噴射剤は持ってる』


 ミネルバからの位置情報では、近くはないが行けない距離でもなかった。


「ありがとう! 恩に着るよ!」


『それは、噴射剤を手に入れてから言え。ルティーは変人だ、一筋縄ではいかないぞ……それじゃ、まんまるに宜しくな』


 通信を切った後のヴィットの目は、キラキラ★を団体で浮かべていた。


「ヴィット……あのね……”まんまる”って言ったのに……スルーなの?」


「えっ? 何?」


 モジモジとするマリーの言葉は、今のヴィットには通じなかった。


「ところで、じいちゃん達は?」


 一段落したヴィットは、オットー達の姿が見えない事に気付いた。


「あれでも一応は、お尋ね者だからな……君とマリーが助かったのを見届けると、忽然と消えたよ」


「本物の妖怪じじぃだな……」


 溜息交じりのゲルンハルトの言葉に、更に大きな溜息のイワンが被せた。



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