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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第三章 起源
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信念

 帰って来たマリーとヴィットを待ち受けていたのは、甲板上で手を振る大勢の人々だった。


「マリー!! よかったぁ~!」


 着艦すると、直ぐにチィコが飛び付いて来る。大勢のクルー達の喚声はフリゲート二隻を簡単に撃退した事への賛辞だったが、純粋にチィコはマリー達の無事を喜んでいた。


「ほらほら、涙と鼻水でマリーがドロドロだよ」


 リンジーも嬉しさが爆発しそうだったが、照れ隠しをしない訳にはいかなかった。それは、敢えてヴィットには触れずにマリーを見る事だった。だが、ハッチからポカンと顔を出すヴィットの顔を見ると、我慢なんて出来ない。


 体は自然に反応し、ヴィットの元に駆け寄ろうとするがイワンの声で急停車した。


「何だリンジー、ヴィットに抱き付かなくて……おごっ!」


 お約束のスパナをイワンの顔面に叩き込んだリンジーは、笑顔をヴィットに向けた。


「お帰り」


「た、ただいま……」


 苦笑いのヴィットは、ゲルンハルトに視線を移した。


「フリゲートは追撃を止めた……今頃はヨタヨタ帰還してる頃だ」


「そうですか……じいちゃん達は?」


 発艦する時に銃座にいたオットー達を、ヴィットは急に思い出す。


「まさに、この世の地獄だ。銃座がゲ~ロとウ〇コで被弾より酷い事になってる」


「悪夢だ……」


 呆れ声のTDの横で、コンラートが胸で十字を切った。


「で、じいちゃん達は?」


「逃げたよ。クルーが総出で捜索中だ……ありゃ、見つかったら市中引き回しの上、磔獄門だな」


 見回すヴィットに、苦笑いのハンスが答えた。


「何? それ……」


 ヴィットは苦笑いした後、艦橋に向かって歩き出した。


「ヴィット何処に?……」


「けじめ、だよ」


 心配声のマリーに、振り向いたヴィットは笑顔を向けた。


__________________________



 リーデルの部屋の前で、ヴィットは大きく深呼吸してからドアをノックした。


「どうぞ」


「失礼します」


 部屋の中で、大きな机を前にリーデルは真剣にヴィットを見詰めていた。


「謝りに来ました」


「ほう、何をかね?」


「怒鳴ってすみません」


 ヴィットを頭を下げた後、リーデルの表情を見た。部屋に入って来た時と同じ、リーデルは真剣な顔のままだった。


「そっちの方か……」


「俺も、マリーも間違ってるとは思ってません」


「危害を加えようとする敵に、情けを掛けるのが正しい事なのかね?」


 リーデルの視線は更に強くなる。


「情け……ですか……」


 ヴィットの中では、その議論は完結していた。


「そうだ。戦いは命の、やり取りだ。機関砲や爆弾は兵器だ……兵器は敵を殺す為にある……情けと言うより、逃げだ……自分の手を汚したくないと言う」


 ”逃げ”と言う言葉がヴィットの胸に傷を付けるが、そんなモノは何でもないと腕にした通信機が赤いランプを点滅させていた。


「俺もマリーも、その兵器を使って人の命を守ります」


「味方の命を守ると言う事は、敵の命を奪うのと同義なんじゃないのかね?」


「いえ、味方も敵も守ります……それが、俺とマリーの信念です」


 更にリーデルの眼光が鋭くなるが、ヴィットは負けじと睨み返した。


「私達は、分かり合えそうにないな」


「そうですね……ですが、本当に逃げているのは、あなたの方だ」


 睨み合いの視線を切り、ヴィットは部屋を後にした。同時に不安に襲われるヴィットは、狭い通路の天井を見詰めた。サルテンバやシュワルツティーガーを持ち上げた事で、マリーの噴射剤はかなり減って、おまけに今度の戦闘は距離があったので、消耗は加速していた。


 次も防げるのか? ヴィットが拳を握り締めた時、ガーデマンに声を掛けられた。


___________________________



「ごめんね、部屋の外でも聞こえた」


「そうですか」


 小さな声でヴィット返事した。


「僕は医者だ……人を助けるこの手で、機銃を撃ってる……何機も撃墜したし、艦船への掃射もした……当然、人の命を奪った」


「ガーデマンさん……」


 自分の手を見詰め、ガーデマンは声を震わせた。


「多くの命を救った手で……多くの人を……僕はね……君とマリーの戦いを見て……救われた気がした」


「……」


 声を震わせ続けるガーデマンに、ヴィットは声を掛けれなかった。そして、暫くの沈黙の後、ガーデマンは俯いていた顔を上げた。


「装備機のスツーカでは雷装が出来ない、敵艦の舵やスクリューをピンポイントで攻撃するには、正確無比な急降下爆撃しかないんだ。だけど、直上からとは違い後方からの攻撃は主砲や副砲から狙われ易い。だからね、その為の機動回避の訓練を始める事にした」


「えっ?」


 驚いたヴィットが、少し笑顔が戻ったガーデマンの顔を見た。


「大佐の命令さ。大佐はね、口ではああ言っているけど君やマリーの戦いに感銘を受けたんだ」


「俺、逃げてるなんて……言って……謝らなきゃ……」


 直ぐに引き返そうとするヴィットの腕を取ったガーデマンは、優しい笑顔を向けた。


「止めときなよ、大佐は照れ屋だから……」


「そうなんですか」


 ガーデマンの言葉は、ヴィットの気持ちに平穏という風を運んだ。



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