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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第三章 起源
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後悔

 シュワルツティーガーは艦橋前部に固定され、サルテンバも後部に固定された。


「君達はどの辺に固定する?」


 甲板のクルーがヴィットに聞くが、ヴィットは苦笑いで答えた。


「あっ、俺達は大丈夫です」


「戦闘中は大揺れするぞ、万が一海に落ちたら……」


 心配顔のクルーは手にしたワイヤーを握り締めた。


「心配してくれて、ありがとう。でも、海に落ちても泳げるので」


「はっ?」


 目をテンしたクルーだったが、マリーの優しい声は大丈夫なんだなと納得して思わず笑顔になった。


「やはり爆装だな」


 呟いたハンスの言葉でヴィットが振り向くと、飛行甲板に出て来た機体には胴体に大型の爆弾、両翼には小型爆弾が装備してあった。


「目的は敵艦の戦闘力を削ぐ事かな?」


 ヴィットの脳裏には、マリーが巡洋艦の主砲を撃破した時の事が思い出される。だが、攻撃機隊を見てもマリーは何も言わなかった。


「マリー……」


 微かに震える車体。ヴィットはハッとした……。


 次々に発艦する攻撃隊を見送り、ヴィットがマリーの中に戻った。


「ねぇ、マリー……行く?」


「えっ?」


「行きたいんだろ?」


「でも……」


「マリー、俺さ……マリーが悩むとこなんて、見たくない」


「いいの?」


「勿論、俺は何時でもマリーの味方さ」


「ありがと、ヴィット」


 少し震える声……マリーの中に勇気と元気が溢れ来た。


________________________



「発艦許可を求めています」


「誰が?」


 通信員の報告を受けたハイデマンは、ポカンと聞いた。


「その、マリーって言ってますけど」


「代われ」


 マイクを握ったハイデマンは、マリーと交信した。


「発艦って、飛べるのか?」


『はい、空中戦は得意です』


「まあ、行きたいなら仕方ないな」


決断は即決、ハイデマンはマリーを戦力として評価していた。


『ありがとう艦長さん!』


 マリーは嬉しそうに返答すると、底面ロケットを噴射して大空に舞い上がった。そして、ホイールロケットを点火! 徐々に回転を上げると攻撃隊を追った。


「何て飛び方だ……まるで、流れ星だ……」


 ハイデマンは唖然と呟くが、タチアナは黙ったままマリーの飛び去った方向をじっと見続けていた。


 当然、少しは慣れたとは言え、ヴィットは悲鳴を上げるしか出来なかった。唖然と見上げるクルー達、常識を遥かに超えるマリーの飛行は感動さえ遥か彼方に投げ飛ばす!何時しか、甲板上は大喚声に包まれた。


「マリー……あなた……」


 リンジーには思い当たる節があったが、静かにTDは呟いた。


「飛行は最後の手段だって、マリーが一番知ってるさ。何せ、補充の宛てはないんだからね……でも、最初からマリーは飛んだ……きっと、何かあるんだよ」


「きっと、そうね……」


 小さく頷いた後、リンジーは眉を下げて心配するチィコに笑顔を向けた。


「大丈夫よ、マリーは誰にも負けないから」


「うん、そうやな……頑張ってやぁ! マリー!!」


 笑顔を取り戻したチィコは、マリーが飛び去った方向に思い切り叫んだ。


__________________________



「大佐、何かが物凄いスピードで追って行きます!」


 後席のガーデマンが後方から迫る謎の物体を視認した。


「何だ? あれは」


 直ぐに火の玉の様な物体が攻撃隊を追い越した。


『リーデルさん、私も手伝います』


「ほう、マリーか……まあ、我々の攻撃を見ていなさい」


 リーデルはマリーの通信に、笑みを浮かべ返答した。直ぐに二隻のフリゲートが視界に入り、リーデルは攻撃を指示した。


「先頭は私がやる。三番機は後ろだ」


 攻撃隊は二機一組のフォーメーションで、四機が戦闘に参加していた。リーデルは敵艦の遥か手前で急上昇、猛烈に撃ち上げてくる対空砲火を高度と角度で躱す。


 そして、高高度から急降下! 直上の死角を利用しながら狙いを定める。狙いは当然、艦橋だった。完璧な投弾! 寸分の狂いもない軸線から、一直線に爆弾は艦橋を目指す! だが、命中の寸前に爆弾は空間で爆発した。


「何だと?!」


 機体を引き起こしながらリーデルは叫んだ。そして、三番機からの通信がレシーバーに炸裂した。


『命中する寸前に爆発しました!! 何が起こったのか分かりません!!』


「見たか?」


 機体を水平にすると、リーデルは後席のガーデマンに聞いた。


「爆発の瞬間、マリーが軸線に割り込んで……」


「今、何と?」


『ごめんなさい、リーデルさん。艦橋に当たれば、大勢の人が死んじゃうから』


「何をバカな? 敵艦を行動不能にするのは艦橋の破壊が一番なんだぞ!!」


 マリーの声はとても悲しそうだった。だが、怒りのリーデルが怒鳴る。


『行動不能だとっ!! 見てろっ!!』


 ヴィットが通信機で怒鳴り返し、マリーに指示を出した。


「マリー! 艦尾に向かえ!! 至近距離から舵にロケット榴弾だっ!」


「了解!!」


 大空にシュプールを描き、マリーは急降下! 海面スレスレから艦尾に急接近! 軸線に乗ったと同時にロケット榴弾を連射した! 一発は舵を直撃、もう一発は二軸の内の片側スクリューを撃破した。当然フリゲートは操舵不能、一軸では追撃も無理だった。


 そのまま先頭のフリゲートを追い越し、マリーは次の標的に向かう。その数十秒後には、残る一艦も海面に浮ぶ浮遊物と化した。当然、死傷者はゼロ、ヴィットは通信機に思い切り怒鳴った。


『見たかっ!! これがマリーの戦いだっ!!』


「全機帰投……」


 鋭い視線でマリーの戦闘を見ていたリーデルは、一呼吸置いて通信した。


「ヴィット……大丈夫」


 回転を落とし、スピードを緩めたマリーが呟いた。慣れて来たとは言え、戦闘後の猛烈な眩暈と吐き気に襲われながらも、ヴィットは優しく言った。


「マリー……気にしてたの?」


 ヴィットも鮮明に思い出した。主砲をマリーに破壊され、烈火の如く煙を吐きながら猛追して来る巡洋艦の艦橋に、デア・ケーニッヒスの放った主砲弾が命中して爆発飛散する場面を……。


「ワタシは初戦闘で我を忘れてた……リンジーやチィコ、ゲルンハルトさんや、お爺ちゃん達が戦艦の主砲に狙われ……攻撃機も迫ってた……余裕なんてなかった……デア・ケーニッヒスの主砲が当たれば、艦橋の人達がどうなるか……ちょっと考えれば分かるのに……ワタシは愚かで、思慮なんて何もなくて……」


 泣き声に聞こえた。マリーが泣いてる様に聞こえて、ヴィットの胸は痛かった。


「俺も同じだよ……今、マリーに言われるまで気付きもしなかった……ごめんね、マリー……ずっと、一人で抱えてたんだね」


「ヴィット……」


 マリーは、それ以上声が出なかった。


「俺も一緒に背負うよ……だからマリー、元気を出して……二度と繰り返さない様に、一緒にがんばろ」


「うわぁ~ん!!」


 マリーは大声で泣いた。ヴィットも泣きそうになるが、歯を食い縛って耐えた。泣かない事で、マリーを支えられると思ったから。

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