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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第三章 起源
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海上の敵

「どう思う、この艦?」


 出航してまる一日、車両の格納庫でゲルンハルトが呟いた。デアクローゼの艦内は三層構造になっており、最下層のウェルデッキは艦の半分程で、その前方が車両などの格納庫になったいた。


 二層目はギャラリーデッキなどの居住区画で、飛行甲板下の一層目は飛行機の格納庫だった。


「武装はフリゲート、いいや駆逐艦以上だ。艦橋の前後には5インチ連装砲が各一基、二層の解放部分には三連装の魚雷発射管、飛行甲板の周囲には針山みたいな対空機銃ある」


 腕組みしたイワンも、真剣に頷いた。


「探知能力も対空、水上、水中まで隙がない……能力自体は戦艦並ね」


 マリーも砲塔のランプをピカピカ点滅させた。


「解せないのは、搭載機だな。スツーカは翼端が折り畳める艦載型の様だが、爆装は出来ても、あの主脚の短さでは雷装は無理だな……魚雷の後部が甲板につっかえる」


「魚雷が積めなきゃ、艦船攻撃出来ないじゃん」


 ハンスはスツーカの事が気になっていた。詳しくはないが、ヴィットも首を捻った。


「それにな、通常型より主翼もかなり小さい……多分、急降下と加速に特化した改良だな」


 ハンスは更に機体の特徴を解説した。


「通りで、直ぐに失速する訳だ……しかも、その欠点を着艦に応用してる」


 ゲルンハルトも、着艦時の機体の挙動を思い出した。


「爆弾は小型艦艇や低深度の潜水艦には有効だが、確かに魚雷が無いとフリゲート以上の艦船は難しいな……精々上部構造物を破壊するくらいだろう……」


 普段無口なヨハンも、不審そうな口ぶりで言った。


「何~リーデルの奴がぁ~飛行隊を率いておるんじゃ~考えがあるんじゃろ~」


 前日の大嘔吐大会で、幽霊の様になったオットーの声は死霊の様だった。


「じいちゃん……怖いから」


 苦笑いのヴィットが突っ込む。


「にょほほ~失敬な、この程度のぉ~上下からのぉ~リバースなどで……は、うっげっ」


 力なく笑うが、オットーの顔は更に蒼白になってヨロヨロとトイレの方に匍匐前進して行った……口とお尻を押さえながら。


「ったく……お食事中の人もいるんだよ」


 苦笑いのヴィットが、頭を掻いた。


「やっと成仏してくれるか……」


「無理だろ」


 ニヤリと笑うイワンだったが、ハンスの向く方向ではキュルシナー達、お爺ちゃんズは、壮烈な宴会を続けていた……火気厳禁だ! ジジィ! とクルー達に怒鳴られながら。


「どうした?」


 何時もなら率先して話に加わるリンジーは、俯き加減で黙っている。ゲルンハルトは微笑みながら聞いた。


「ほんまや、どないしたん?」


 心配顔のチィコも、リンジーの顔を覗き込んだ。


「船酔いか?」


「違う……」


 ヴィットも笑顔で見るが、リンジーは顔を背けた。


「リンジー、飛行甲板直通のエレベーターは最大耐荷重は20tだ。シュワルツティーガーはおろか、サルテンバでも難しいんだ」


「分かってる……」


 ゲルンハルトは穏やかに言うが、リンジーは膝に顔を埋めた。理系のリンジーには無理な事は百も承知だった……だが、何も出来ない自分を笑ったタチアナが許せなかったのだ。


「リンジー……飛行甲板に行きたい?」


「えっ?」


 俯いたままのリンジーに、マリーの優しい声が届く。


「一度上がったら、着くまで甲板の上だよ」


「大丈夫や、保護カバーならさっき見付けたでぇ。錆の心配無しや!」


 マリーは甲板上で潮風に晒されるサルテンバの車体を気にしていた。だが、嬉しそうなチィコの声を受け、優しく続けた。


「ワタシがワイヤーで引っ張るよ、サルテンバもシュワルツティーガーも」


「おいおい、シュワルツティーガーは50tを越えてるぜ」


 飛び起きたイワンが目を丸くするが、マリーの声は笑っていた。


「私の最大ペイロードは30tなの、エレベーターの力を借りれば簡単よ」


「30t……まだまだ夢の世界だが、宇宙ロケット並だ……」


 ハンスが目を丸くする。マリーの常識を超えた性能は”神の領域”だと真剣に思った。


「マリー、そんな事したら噴射剤が……」


「いいんだよ、TD」


 止めようとTDが立ち上がるが、ヴィットは笑顔で制した。


「でも、ヴィット」


「マリーがやりたいなら、俺は止めないよ」


「全く……知らないからな」


 溜息交じりのTDも笑顔になった。


「どうする? リンジー」


「いいの?」


「勿論」


 笑顔になったリンジーは、マリーの車体に抱き付いた。


「所で、コンラートは?」


「あそこだ」


 暫くコンラートを見掛けなかったヴィットが周囲を見回し、イワンが苦笑いで指差した。コンラートの電装の腕は超有名で強面のクルー達に、この時とばかりにコキ使われていた。


「もういいだろ~私はリンジーの傍に付いてなければならないのだ」


「よし、次はボイラー系の電装だ」


 暴れるコンラートに有無を言わさず、クルー達は次の場所に連れて行った。


「ご愁傷様……」


 苦笑いのヴィットだったが、その時、警戒警報が格納庫に響き渡った。


_______________________



『本艦後方よりフリゲート二隻が接近中! 各員、対水上戦用意!』


 スピーカーが怒鳴り、クルー達は弾かれた様に動き出す。


「リンジー、サルテンバをエレベーターに! ヴィット、TD! ワイヤーを用意して! 次はシュワルツティーガーだよ!」


 マリーの指示は迅速で的確だった。ヴィットは直ちに行動に移す。


「私達もか?」


 勿論、ゲルンハルトは噴射剤の事を心配するが、マリーは即答した。


「リンジー達をお願い」


「分かった……イワン! ヨハン! ワイヤーだっ! ハンス! 移動させろ!」


「了解!」


 同時に返事した三人は直ぐに迅速に行動した。


「おいおい、マジかよ……」


 驚くクルー達を尻目に、マリーは底部ロケットを噴射して大空に舞い上がる。そして、ワイヤーが張った時点で、四隅のロケット噴射して車体を安定させた。


「行くよ!」


 マリーの合図でエレベーターは上昇を始める。マリーの引っ張る力にエレベーターの上昇力が加わり、簡単にサルテンバは飛行甲板に出た。


「直ぐに移動だ!」


「はいな!」


 ヴィットの掛け声と同時に、チィコはサルテンバをエレベーターから動かした。勿論、マリーに負担を掛けない様に細心に注意を払って。


「今度は無理だろ……」


 クルー達は重戦車シュワルツティーガーが、エレベーターに乗ってる姿に息を飲んだ。


「準備はいい?」


「やってくれ」


 エレベーターの最大荷重とマリーのペイロードを合わせてもギリギリだが、ゲルンハルトの声には不安の欠片も無かった。


「そんじゃ、行くよ!」


 マリーの底面ロケットの炎の色が変わる。通常の赤みがかった色が、薄い青に変わる。


「まさか……重戦車も持ち上げるのか……」


 愕然とするクルー達を余所に、マリーはジワジワとシュワルツティーガーを持ち上げる……しかし、限界まで張ったワイヤーは嫌な金属音を発し、エレベーターの駆動モーターも煙を出す。


「マリー! 大丈夫か!」


 振動を増す車内でヴィットが叫ぶが、マリーの返答は頼もしかった。


「重いけど……大丈夫……ゲルンハルトさん達の大切な戦車だもん。絶対上げてみせる」


「そうか! がんばれ!」


「それじゃ、秘密兵器!」


 姿勢制御用の四隅のホイールロケットが、徐々に下方を向くと炎の色を薄青に変えた。


「上がるぞ……」


 驚くクルー達は、ゆっくりと上がるシュワルツティーガーに釘付けになった。


「今っ!」


「よっしゃ!」


 ハンスはマリーの声と同時にアクセルを蹴飛ばし、シュワルツティーガーは飛行甲板に出た。マリーはワイヤーを落とすと、ゆっくりと着艦した。


「ふう~」


「マリー! ありがとう!」


「凄いでっ! マリー!」


 大きく溜息を漏らすマリーに、リンジーとチイコが抱き付いた。


「焼けてるからな……変なとこ触ると、火傷するぞ……」


 ハッチから顔を出したヴィットも、大きな溜息で二人を見ていた。


「所で、マチルダはどうします?……少し、マリーを休ませたいんですが」


「心配ない……あそこを見ろ」


 ゲルンハルトが指した方向では、対空機銃座でクルー達の場所を強引に横取りしたオットー達が、OKサインを出していた。


「じぃちゃん達……」


「射撃の腕だけは本物だな」


 滅多に褒めないイワンも笑顔を見せた。


「そうだね」


 安堵感? ヴィットは何故かそんな感じに包まれた。


____________________________



「まさか、本当に上がるとは……」


「ホントに馬鹿力ね」


 艦橋の窓から見ていたハイデマンは唖然と呟き、キャプテンシートのタチアナは吐き捨てる様に言った。


「それは褒め言葉かね?」


「……そうね」


 薄笑みを浮かべたリーデルに対し、タチアナも笑みを返した。


「さて、我々も出るか……」


「了解!」


 リーデルは嬉しそうに飛行帽を被り、敬礼したガーデマンも笑顔で艦橋を飛び出して行った。


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