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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第一章 始動
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一息

 周囲は野外修理工場になっていた。陸戦の王者、電撃戦の立役者と言われる戦車だが、本当は繊細で脆い兵器なのである。行動=修理と整備というのが戦車の運用の全てなのだ。


 工兵部隊を随伴する軍隊でも現場での修理は苦労するが、個人商店の集合である賞金稼ぎ達では、自分で修理や整備の出来ない奴はこの世界で生きて行けないのだ。


 ハンマーに溶接機は必須アイテムなのである。飛び散る火花と鋼鉄をブッ叩く音が、青い空に響き渡る。相手は鉄の塊、生半可な力では到底修理などは不可能で、とにかく力任せ……それが基本だった。


「少年よ、見事な戦いじゃった」


 ヨタヨタと近付くマチルダのハッチから、オットーが笑顔を向けた。


「じいちゃん達も無事だったんだね」


 ヴィットは満面の笑顔で駆け寄る。


「ほう、ゲルンハルト。お主の知り合いじゃったのか」


「じいさん達、まだお迎えは来ないのか?」

 

 オットーの笑顔に、ゲルンハルトも苦笑いする。


「知り合いなんですか?」

 

 驚いた顔のヴィットは、ゲルンハルトに振り向いた。


「ああ、腐れ縁だ」


「ワシ等、ゲルンハルトの師匠みたいなもんじゃ」


 笑いながら言うオットーに、また苦笑いのゲルンハルトが溜め息を付く。


「弟子になった覚えはないぞ」


「そうじゃったかの?」


「そうじゃよ」


 頭を掻くオットーに、ベルガー達も顔を出して笑った。


「時に、少年。お前さんのクルーは?」


 オットーはマリーの方を見た。


「ああ、このマリーだよ」


「こんにちは、おじいちゃん達。最強戦車のマリーです」


 ヴィットの紹介にマリーは明るく挨拶した。オットー達の反応に期待するヴィット。


「こりゃ、たまげた。喋る戦車か、長生きはするもんじゃ」


カッカッカと笑い、オットーはツルツルの頭を掻いた。チィコと同じかと、ヴィットは少しコケた。


「声も可愛いのぉ」


「色もワシ好みじゃ」


「お前さん達、エロジジィになっとるぞ」


 ベルガーや、キュルシュナー、ポールマンも混じりマリーを取り囲んでカッカッカと笑う。


「そうや、マリーは最高なんやで」


 チィコは自分の事みたいに胸を張る。


「そうじゃな、お譲ちゃんの言う通りじゃ。マリー、お前さんは最強じゃ」


 オットー達は、また揃ってカッカッカと笑った。横で話を聞いていたTDは、さっき見たマリーの戦闘が頭の中でサンバを踊っていた。


 しかもマリーは普通に話す、夢にまで見た自律思考システムが今度は脳天でジルバを踊る。話に加わりたくて我慢は限界に達し、紅潮した顔でギクシャクと歩み寄る。


「それではマリーの点検をしよう、勿論お代は要らない」


「なんや、変態のオッサンか」


「俺はまだ三十だ!」


「十分オッサンや!」


「せめておじ様とか言えんのか!」


「鏡見てみ、上から下まで三次元の全方向オッサンや、しかも変態のな! 汚い手でマリーに触らんといてや!」


 TDとチィコが顔を押し付け合い、怒鳴り合う。ヴィットは訳が分からず目をテンにする。チィコやリンジー、他の皆もは面識があるようだった。


「まあ、まあ、チィコその位で。ああ見えてもTDは腕は確かなのよ」


「リンジーがそういうなら勘弁したる、はよあっち行き」


 リンジーに抑えられたが、チィコはまだ鼻息が荒い。でも話はコロッと音を立てて変わり、瞬時にTDは眼中から外れる。ふいに他の戦車に牽引される、ボロボロの戦車に気付いたからだ。


 置き去りのTDは、涙を浮かべ宙に視線を泳がせた。


「あの人ら、メチャメチャやられとるで」


 茫然と見詰めるチィコの真ん丸の瞳が、更に大きくなった。


「あれはバティースタ達じゃ、いつもの事じゃよ」


 その悲惨な光景にもオットーは笑っていた。


「乗員は……」


 ねじ曲がり焼け爛れる装甲、泥とオイルが混ざり元の塗装が判別出来ない姿にヴィットの胸は押し潰されそうになった。


 目前までくると”ポンっ”とマヌケな音で砲塔のハッチが開く。もうもうとした煙が立ち上ると、中から真っ黒な顔が出て来て、鼻や口から龍みたいに黒煙を噴き出す。その後からもまっ黒な男達が次々と出てきたが、皆ピンピンしていた。


「奮闘努力の甲斐も無く……」


 煙と一緒にバティースタは呟いた。


「機銃弾二百発、対戦車砲弾十発、ロケット弾五発受けて、地雷も三コ踏んだんだとさ」


 呆れた様にヨハンが呟く。


「凄い戦いをしたんだ……」


 ヴィットは手に汗を握った。


「発進してすぐガス欠で立ち往生、最初の被弾で全員気絶し、一発も撃たないうちに後はビシャ叩きじゃ」


 オットーはまた笑顔で頭を掻き、ヴィットはかなりの勢いで前向きに倒れた。


「アホや……」


 チィコは、まん丸の目を更に見開いた。


「何しに来たんだ……」


 ハンスも呆れた口が塞がらない。


「ビシャ叩きって?」

 

 ヴィットはヨロヨロと立ち上がりながら、不思議な顔をする。


「要するにタコ殴りだ」


 イワンも苦笑いで大きな溜息を付き、ゲルンハルトは呆れた様に小さく首を振った。

 

「どこでもヤラれキャラっているのね」


 リンジーまでも大きな溜息に包まれ、、ヴィットの更に大きな溜息が辺り一面に被った。


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