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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第三章 起源
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スツーカ大佐

 艦尾から真っ直ぐに侵入してきた黒い機体は、急に高度を落とした。そして、飛行甲板と平行になるほど高度を下げると、突然エンジンを切る。


 当然、重くて翼面荷重の大きな機体は失速する。だが、殆どゼロ高度であり、二三回の軽いバウンドで機体は簡単に着艦した。


「アレスティング・フックは付いてるみたいだけど、必要ねぇな」


「ああ、あれなら何処でも降りられる」


 唖然とハンスは呟き、頷くゲルンハルトも唸った。


 漆黒の機体の垂直尾翼には牡牛の髑髏が輝き、風防を開け出た来たのは精悍な顔つきの男だった。鍛えれた上半身、鋭い眼光、だが機体から降りた男の右足は義足の様だった。


「スツーカ大佐……」


「知ってるんですか?」


 顔色を変えるゲルンハルトに、ポカンとヴィットが聞いた。


「戦車乗りにとっては悪魔みたいな男だ。撃破車両は、おそらく千台を超えてる」


「ハインス・リーデル……空の魔王、世界一のタンクキラーさ」


 真剣な顔のゲルンハルトに続き、ハンスも顔を曇らせ補足する。


「牛乳好きの、体操好きだって聞いたぜ」


「その情報はいらん」


 嬉しそうに付け加えるイワンに、溜息交じりのヨハンが呟いた。


「君かな? あの赤い戦車の操縦者は」


 リーデルは真っ直ぐヴィットの方に向かった。


「あっ、はい」


「噂は聞いている……正直、複雑だよ……出来れば戦場で会いたかった……敵、としてね……そうだ、名前を聞いておこう」


 言葉の間に余韻を挟み、迫力のある声はヴィットの背筋を伸ばさせた。


「あっ、はい、ヴィットです。こっちはマリーです」


 そんなヴィットを見て、リーデルの鋭い眼光が一瞬穏やかになった。


「こんにちは、リーデルさん。最強戦車のマリーです、宜しくお願いします」


 緊張気味のヴィットとは関係なく、マリーは明るく挨拶した。


「最強戦車か……こちらこそ宜しく」


 少し微笑んだリーデルは、一礼すると艦橋の方に去っていった。


「ゴメンね、大佐は嬉しんだよ」


 眼鏡で細面、優しい表情の男が機体の後部座席から降りて来た。


「はあ、そうですか……」


 頭を掻くヴィットだった。


「私は後席のガーデマンです。一応医者です、怪我した時は言ってね。あっ、宜しくね、マリー」


 緊張するヴィットに微笑み、マリーに手を振るとガーデマンも艦橋の方に去って行った。


「エルンスト・ガーデマン……旋回機銃の神様だ」


 ハンスが解説するがヴィットは、まだリーデルの迫力に圧倒されていた。


「何、如何に空の魔王でも、天使のマリーちゃんには敵わんわい」


 そんなヴィットの背中を、オットーが叩いた。振り返るとそこには、海からの光を乱反射させた、輝くマリーの”おしゃれ迷彩”があった。


「大丈夫! ワタシは最強戦車だよ」


 マリーの嬉しそうな声は、ヴィットに勇気をもたらせる。世界一のタンクキラーが、マリーの事を知っている……そして、そのマリーと自分は一緒に戦って来たのだ。


 ”自信”は時として、自分以外から授けられる……今、ヴィットの視界は頼もしいマリーで一杯だった。


 そんなヴィットの様子を心配顔で見詰めたいたリンジーも、マリーに視線を移すと心配なんて大空に溶けた。


「さて、私の部屋は何処?」


 マリーの砲塔に仁王立ちになったタチアナが、周囲の余韻なんて関係無しに聞いた。


「はい、それでは艦長室をお使い下さい」


 いきなり高飛車のタチアナにも、ハイデマンは丁重に対応した。


「掃除は出来てるんでしょうね?」


「もちろんですよ」


 タチアナの後ろから付いてハイデマンは艦橋に向かい、慌ててセルゲイが付いて行った。そんなタチアナの背中に、チィコとリンジーが”ベー”と舌を出し、その様子はヴィットを笑顔にさせた。


___________________



 ヴィット達はオペレーションルームに集められていた。何故か艦長の椅子にはタチアナが座り、気に入らないリンジーがヴィットの腰を突く。


「何だよ?」


「見てよあれ」


「仕方ないさ、依頼主様だからな」


「まぁた、仕方ない、か……」


 文字通り仕方なさそうなヴィットの態度を見て、リンジーは溜息を交え小さく呟いた。


「今回のミッションは、タチアナ嬢を無事にルーテシアに送り届ける事だ。航海は七日間を予定している。そして、艦内ではタンクハンター諸君も一応は、お客様だ。海上での戦闘は我々に任せて、よい船旅を……」


「私達も一応護衛です、何かお手伝いさせて下さい」


 艦長席で薄笑みを浮かべるタチアナに腹が立ったリンジーが、立ち上がってハイデマンに迫った……当然、頭の上からは湯気を出している。


「よせよ……」


 ヴィットが止めようとするが、イワンが青い顔で止めた。


「お前こそ、よせ……ひっ……」


 そんなイワンをリンジーが鬼の様な形相で見た。


「ほう、戦車が海上で何が出来るのかな?」


 少し笑ったハイデマンがリンジーを見た。ヴィットは前に巡洋艦と戦った事を思い出すが、同時にTDの言葉も思い出す。それは、乗艦して直ぐにTDから聞いた事だった。


(この艦には航空燃料はあるが、マリーの噴射剤は積んでない様だ。空中戦は最後の手段だよ……補給は港に着くまで出来ないからね)


「飛行甲板に固定して頂ければ砲台になります。イワンは、ああ見えても射撃は超一流ですし、私達のサルテンバの主砲も最大仰角45度で対空射撃が出来ます」


「ああ見えてもって……」


 直ぐにリンジーが答え、イワンが苦笑いする。だが、ハイデマンは笑顔のまま返答した。


「お嬢さん、海賊の場合、兵器はフリゲートや潜水艦なのです……流石に戦車砲では」


「でも……」


 本当はリンジーにだって分かっていたが、タチアナの手前黙っていられなかった。


「海賊が根城にしている島々には滑走路があり、航空機での攻撃もあると聞いてます」


「対空兵器は数が勝負じゃ。お飾りの高角砲なんて当たらんと、船乗りが一番知っておろう……戦車砲の速射能力はのぅ……ウップ……」


 俯くリンジーを見てゲルンハルトが助け舟を出し、オットーも眼鏡を光らせるが突然青褪めるとマリー並のスピードで部屋を出て行った。


「他のじいさんと同じく船酔いだとさ……殆ど揺れてないけど……」


「……さっき、格納庫で宴会してたし……」


 呆れ顔のハンスだったが、ヴィットも呆れ顔になった。


「固定砲台とは良い意見だ。せっかくの戦車を格納庫の置物にするのは勿体ない」


 腕組みしたリーデルが、リンジーの意見に賛成した。


「まあ、小型艦艇の海賊もいますし、その時はお願いします」


 リーデルに言われ、ハイデマンは愛想笑いで頭を掻いた。


「所で君は飛行機を撃墜した事はあるかね?」


 急にリーデルがヴィットに話を振るが、ヴィットは直ぐに答えた。


「はい……と言っても、俺は操縦で火器管制はマリーですけど」


 少し視線を落としたヴィットの手首には、マリーのレシーバーが赤いランプを点滅させていた。


「マリーは凄いんやでぇ! あのシュルシュル何とか言う攻撃機とかな、タココロスとかもやっつけたんや!」


 それまで黙っていたチィコが、マリーの名前を聞いたとたん、鼻息も荒く立ち上がった。


「タココロスって……何か、違うやつみたいに思える……シェトルモビクにイカロスです……」


 苦笑いのヴィットが訂正すると、リーデルの顔色が変わった。


「あのイカロスを墜したのか?」


「まあ、正確には墜したのはミリーですけど」


 照れる様にヴィットは頭を掻いた。


「ミリー……?」


『妹です。最強戦闘機なんですよ』


 今度はヴィットのレシーバーからマリーの声がした。


「まさか、赤い戦闘機か?」


『はい』


「そうだったのか……」


 納得した様に頷くリーデルは、もう一度ハイデマンに向き直った。


「艦長、面白くなってきたぞ」


「あんまり、面白くして欲しくないなぁ……」


 ハイデマンは苦笑いで頭を掻いた。その場はなんとなく和んだが、ヴィットはタチアナの視線が気になっていた。どうせ途中で口を挟むんだろうと思っていたが、何も言わずに、なんとなく穏やかな視線で、ずっと自分を見てた様な気がしたから。


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