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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第三章 起源
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デアクローゼ

『どうしてマリーに乗るのよ?!』


 凄い剣幕のリンジーが通信機の向こうで怒鳴っていた。


「仕方ないだろ……」


『何が仕方ないよ! アンタは、お抱え運転手かっ!?』


「何であんなに怒るんだ? ……」


 訳が分からず、ヴィットは頭を抱えた。


「リンジー。ワタシの装甲が一番強力なのは知ってるよね」


『知ってるけど……』


 マリーの穏やかな声で、リンジーの熱気は一気に下がった。


「お客さんだから、ねっ」


 更に優しいマリーの声、リンジーは少し照れながら呟いた。


『そうだけど……でも、執事さんはTDと一緒だよ』


「私がセルゲイと同乗出来るとでも?」


 割って入ったタチアナが鼻で笑う。


『どう言う意味?』


 無線の向こうでリンジーの鼻息が荒くなった。


「落ち着けよ、セルゲイさんは自分からTDの方に乗ったんだぜ」


 溜息交じりのヴィットは、物凄く面倒そうに言った。


『心配するな。夜、ヴィットは外で野宿、お姫さんはマリーの中だ……何だ? リンジー妬いてるのか?』


『イィ~ワァン……』


 茶化すイワンの通信に、リンジーはシュワルツティーガーの砲塔側面に主砲を照準した。


『あかんよリンジー……この距離はシャレにならんから』


 冷や汗を流すチィコの通信は、ヴィットを苦笑いさせた。


________________________



「何だ? まさか空母か?」


 港で見た船にヴィットは、あんぐり口を開けた。


「大きさは護衛空母クラスだが、少し違うな」


「喫水が浅い。多分、強襲揚陸艦だ」


 ゲルンハルトの見識を受け、直ぐにマニアのハンスが付け加えた。


「どうやってサルテンバ積み込むんやろか?」


 眉を下げたチィコが呟く。岸壁からは甲板部分は見えず、そびえ立つ舷側は巨大な壁に見えた。


「上陸用舟艇があるはずだ。あの幅なら戦車搭載可能な舟艇も入るさ」


 後部のウェルドックを確認したハンスが、チィコの頭を撫ぜた。


「揚陸舟艇は三隻だ。あの装輪装甲車と兵員輸送車はクレーンで吊る」


 甲板クルーがゲルンハルトに告げた。


「了解した」


「……しかし、ド派手な塗装だな。迷彩の概念を越えてる」


 頷きながらも、クルーはマリーの塗装に苦笑いした。


「あっ、ワタシは自分で乗るので」


「ほへっ?」


 マリーの済まなそうな声に、クルーの目がテンになった。


「最強戦車のマリーです。宜しくお願いします」


「あっ、はい、宜しく」


 目をテンにしたまま、クルーは呟いた。


____________________



「サルテンバごと乗れるんや!」


 チィコは操縦席のハッチから顔を出し、戦車揚陸用の舟艇を見て目をハート型にした。


「何だ? 操縦は子供? しかも女の子かよ……」


「乗せる以前に操縦できるのか?」


「あら、チィコの腕は一流よ」


 口々に呆れ声を出すクルー達に向かい、コマンダーハッチから身を乗り出したリンジーが笑った。その笑顔はタチアナに対抗して薄化粧している事もあり、破壊力は抜群だった。


 多くのクルーはチイコみたいに目をハートにして、リンジーに釘付けになっていた。


「リンジーどないする? バックで入れた方がいいん?」


「そうね、そうして」


「はいな!」


「無理だよ、橋を掛けてるだけだから……えっ?」


 埠頭の端の方に舟艇は停泊していた。その辺りは車両積み込みの為にスロープにはなっていたが、干潮のせいもあり舟艇のハッチでは届かずに二本の細い鉄板で橋を渡してる状態で、舟艇自身も波で揺れていた。


 だが、チィコは信地旋回で向きを変えると、簡単にバックで舟艇に入る。そして、シュワルツティーガーも簡単にバックで舟艇に収まった。


「後ろに目があるのか……でも、今度は無理だろ、なんせ爺さんだから……」


 クルーは手足の様に戦車を扱う姿に唖然とするが、マチルダのオットー達を見て何故が安堵感みたいな感じに包まれる。


「ベルガー、バックじゃと」


「面倒じゃな」


 コマンダーハッチで頬杖を付くオットーは平然と言い、ベルガーはモジャモジャの髭を触りながら、簡単にマチルダを舟艇に入れた。葉巻の煙を燻らせながら、平然とハッチから顔を出すキュルシュナー、ポールマンも大欠伸をしていた。


「何だ? こいつ等……あっ、じいさん! 格納庫は火気厳禁だからなっ!」


 唖然とするクルーだったが、舟艇が出発するのを見送ると大声で怒鳴った。


「さて、兵員輸送車は積み込んだが……」


 各車両の積み込みが終わり、残されたマリーをクルー達が息を飲んで見守っていた。


「何か皆見てるぞ……」


「ほんと、何だか照れるね」


 ハッチから顔を出したヴィットは、周囲の視線が集まってるのを見て少し気分が良くて、思わず顔を綻ばせた。マリーも嬉しそうに、エンジンを始動する。


「どうやって乗るのよ?」


「シートベルト。舌咬むなよ」


 憮然とするタチアナを操縦席に座らせ、ヴィットは溜息交じりに言った。


「じゃ、乗るよ」


 タチアナがシートベルトを締めたのを確認すると、マリーは底面ロケットを噴射! ヒョイと飛行甲板に乗った。


「お見事……」


「すんげぇな……」


 見ていたクルー達から、一斉に拍手が起こった。


「ようこそデアクローゼへ。艦長のハイデマンだ」


 壮年で小太り、無精髭だらけだが、どこか憎めない顔立ちのハイデマンがヴィットに握手を求めた。


「宜しくお願いします。ヴィットです、そして相棒のマリーです」


「最強戦車のマリーです。艦長さん、よろしくお願いします」


「はは、あんな乗り方出来るなら舟艇もクレーンも必要ないな」


 マリーの挨拶を受け、ハアイデマンは豪快に笑った。そこに、ゲルンハルトやリンジー、オットー達も甲板に上がって来て、次々に握手した。タチアナはマリーの中で、何があったのか分からずに、茫然としていた。


「おっきいなぁ……」


「ダメよ、あんまりキョロキョロしたら」


 ポカンと口を開けるチィコを照れ笑いのリンジーが注意するが、またまた甲板クルー達は皆が目をハート型にしてリンジーを見ていた。当然、コンラートがその視線を遮る様に凄い形相で立ちはだかっていた、が……勿論、リンジーは完全無視。


「ゲルンハルト、あそこ……」


 ハンスは遠くに機影を見付けた。


「あれは我が艦の艦載機だ。直ぐに着艦する」


「無理だ、止まってる艦に着艦なんて。正規空母でも飛行甲板の長さが足りない、ましてやこの艦では……」


 平然とハイデマンは言うが、ハンスは顔を曇らせた。


「大丈夫、見ていなさい」


 自信満々に微笑むハイデマンの後方から、逆ガル翼で固定脚の飛行機が爆音と共に迫って来た。慌ててヴィット達は退避しようと右往左往するが、マリーは平然とハイデマンに聞いた。


「飛行機の性能かな? それとも腕ですか?」


「勿論、腕だよ」


 ハイデマンの笑顔は自信に満ちていた。


「爆装したままだし、落下タンクも付いてるぞ……」


 後ろ向きに逃げながら、TDは真っ青になっていた。当然コンラートはリンジーの手を取り逃げようとしたが、豪快に甲板に投げ飛ばされていた。


「ほう、スツーカか? ありゃ艦上機じゃないじゃろ」


「折り畳み翼のC型かの? じゃが、ガンポットもあるしG型かのぉ~」


 ポールマンは平然と言い、オットーも平然と答えた。


「そんなのどうでもいいから! 逃げろよじぃちゃん!」


 涙目のヴィットの叫びが大空に木霊した。



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