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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第三章 起源
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依頼

「何それ?……」


ハインツの工場で、もう直ぐ完成するマリーの車体を磨きながらヴィットは唖然と呟いた。


「だから、今回の修理費用は全額負担、仕事の報酬も破格、当然仕事終了後の修理費用も全負担じゃ」


 オットーはグルグル眼鏡をキラリと光らせ、大きく胸を張った。


「何だよ、怪しさ全開じゃないか」


 そう言いながらも、ヴィットは身を乗り出した。


「ヴィット……どう考えても……」


 心配そうなマリーは言い掛けるが、モニターに映るヴィットの満面の笑顔を見て途中で言葉を止めた。


「依頼メンバーは、お主とワシ等、ゲルンハルトにお嬢ちゃん達、オマケでTDじゃ」


 オットーの言葉が更にヴィットの背中を強く押した。ゲルンハルト達やリンジー達、そしてオットー達には返しきれない”借り”があり、彼らの戦車も殆ど大破状態で修理には膨大な費用が掛かっていたから。


 しかも今回の報酬ではマリーの修理費には到底足らず、それを知ったハインツが修理費を受け取ろうとしない事に悩んでいた……つまり、借金で首が回らない状態では渡りに船と言った状態だった。


「で、どうするんじゃ?」


「そりゃ、考えるけど」


「お前さんとマリーが受けないと、ワシ等だけでは契約は成立せん」


「へっ?」


 オットーは、また眼鏡をキラリと光らせた。


「何処からの話しなんだ? 明らかに目的はヴィットとマリーだぞ」


 腕組みしたゲルンハルトは、斜めからオットーを見た。


「そうね、間違いないわね」


 直ぐにリンジーも頷く。


「何や? 何で目的がヴィットとマリーなんや?」


「話しの出所を聞いてからだな」


 ポカンとするチィコを肩車したイワンも、オットーにやや強い視線を向けた。


「そう来ると思って、クライアントを呼んでおる」


 オットーに促され出て来たのは明らかに裕福そうな壮年の紳士で、身なりは執事と言う感じだった。


「ほう、どこかの貴族の執事って言う所か」


「羊?」


 ニヤリとしたイワンが呟く、その肩ではチィコが頭の上に? マークを浮かべた。


「しつじ、だよ」


 苦笑いのリンジーが突っ込んだ。


「私は、さる御屋敷に仕えます、セルゲイと申します」


「お猿のお屋敷?」


「はいはい、黙って聞こう」


 目を丸くするチィコを、ニコニコしながらイワンが宥めた。コホンと咳をして、セルゲイは続けた。


「依頼は当家に関係のある、とある方の護衛です」


「護衛?」


 ヴィットは何故か違和感を感じた。


「はい、当家のあるルーシアまで」


「ちょっと待て、ルーシア大陸は海の向こうだ」


「それって、遠いんですか?」


 セルゲイを見据えるゲルンハルトに、ヴィットは小声で聞いた。


「戦車で行くなら貨物船利用で、十日は掛かる」


「特別な船をご用意致しましたので、七日で海を渡れます」


 ゲルンハルトは妙な胸騒ぎに包まれながらも答えるが、セルゲイは大きく一礼しながら告げた。


「でもな、今はルーテシア近海は海賊が横行してるぜ。フリゲートや潜水艦を使う連中もいるそうだ」


「だから何? あなた達は有名なタンクハンターなんでしょ?」


 急に可愛らしい声が聞こえた。全員が振り返った先には、修理中のシュワルツティーガーの砲塔の上に立つ可憐な少女がいた。ウエーブをまとった美しい金髪、透ける様な白い肌、そして濃いグリーンの瞳は何故がヴィットだけを見詰めていた。


「誰?」


「護衛して頂く、タチアナ・ニコラ・ロマノヴィ様です」


 唖然とするヴィットに、最敬礼のセルゲイが紹介した。


____________________________



「ロマノヴィって、ルーテシア王族の親戚か何かだよな」


「ああ、正当な貴族だ」


 イワンが茫然と呟き、ヨハンも頷いた。


「なるほど、海賊にとっては身代金取り放題って訳ね」


 頷くリンジーだったが、タチアナの視線が気になった。


「ルーテシア自体も治安は悪い。盗賊の数は、この辺りとは比べ物にならない」


「ああ、お国柄戦車は強力な重戦車が多い、火力だけでなく機動力も超一流だぜ」


 腕組みしたゲルンハルトに続き、ハンスも情報を入れた。


「構造はシンプルだが、大量生産を念頭においた設計が多い。だが、鋳造一発抜きの砲塔は複合素材を凌ぐ強度が出る場合もあるし、何より人命を度外視した設計には批判もあるが、戦車戦では高性能より数だと、歴史は証明していて……」


「もういいよ」


 ツバを飛ばして説明するTDの顔を押さえ、イワンは大きな溜息を付いた。


「ふぅん、怖いんだ……」


「何だと!」


「止めなよ」


 腰に手を当てたタチアナは、ヴィットを方を見て薄笑みを浮かべた。瞬時に沸騰するヴィットをリンジーが押さえる。


「誰? あなた?」


「私はリンジー、サルテンバのクルーよ」


 視線をゆっくりリンジー向けると、タチアナは少し視線を強めた。負けじとリンジーも睨み返し、火花散る視線同士に思わずヴィットは後退った。


「賢明だ……なんせ、リンジーの奴は狂暴……ぐわっ!」


 眉を顰めて耳打ちするイワンの顔面に、巨大なスパナが命中する。肩のチィコは慣れた動きで、命中する前には距離を取っていた。


「あなたは、多くの盗賊に狙われているの?」


「えっ?」


 急にマリーが話し掛けた。その声はとても優しく、タチアナを気遣っている様で、思わずタチアナもマリーの方を見た。


「私はマリー、最強戦車です」


「ふーん、あなたがマリー……噂には聞いてたげど……ホントに、まんまるなんだ」


「……まんまる」


 マリーがカタカタと車体を揺らす。


「マリーさん、その、今は商談中でして……」


 血相を変えたヴィットが宥めようとするが、マリーはアームを伸ばすと超合金の棒を掴む。そして、車体を揺らしながら棒を捻じ曲げた。


「ほんで、どうすんじゃ?」


「別にいいよ、自信が無いなら他を探すから」


 オットーの問いに、先にタチアナが答えた……見下す様な笑みを浮かべて。


「自信が無いだと……」


 幾度かの戦いを乗り越え、それなりに自信は付いた。だが、今回もゲルンハルトやオットー、リンジー達が一緒だと聞いて、安堵している自分が確かに存在していた。


「ヴィットなら出来るよ。ワタシが保障する」


 優しくマリーが背中を押す。全てのネガティブな思考は、空間に解放された。マリーがいる……それだけで、強くなれた気がした。そして、それは依存ではなくて信頼だと前向きに思えた。


「引き受ける……ゲルンハルトさん……」


 強く返事した後、ヴィットはゆっくりとゲルンハルトを見た。無言で頷くその姿は肯定を意味し、イワン達もグーサインと笑顔を向けた。


「私も行くよ、ねっチィコ」


「当然や。マリーとヴィットはウチらが守るんや」


「まあ、仕方ない。マリーの整備には私は重要だからな」


 リンジーとチィコもウィンクし、TDもハニカンダ笑顔で汚れた白衣の襟を正した。


「リンジーを守るのは、私の務めだ……うごっ!」


 急に現れたコンラートがリンジーの手を取りキスしようとするが、反対側の腕によるラリアットで床に沈んだ……顔は当然、笑いながら。


「そう、行く手は困難よ」


 ニヤリと笑うタチアナに向かい、ヴィットは大きな声で言い返した。


「望むところだ!」


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