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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第二章 進化
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笑顔

「やったのか……」


「……ええ……やっつけた」


 ハッチから身を乗り出すヴィットの横から、無理やりに出て来たリンジーも呟いた。


「何だよ、狭いだろ、向こうから出ろよ」


「嫌だ、ここがいい」


 体を密着され赤面するヴィットに、リンジーは真剣な目を向ける。焦るヴィットは狼狽えるが、リンジーは平然として更に体を寄せた。そんなヴィットのピンチを救ったのは、オットーの嬉しそうな声だった。


「これヴィットよ、そんなトコでイチャ付いてないで、さっさと手伝わんか」


「分かった、直ぐ行く」


 リンジーを強引に押しのけ、ヴィットはケルベロスの元に走って行った。リンジーは少しオットーを睨むと、仕方なしに後を追った。そこでは、ケルベロスにワイヤーを繋ぎ、移動させようとしていた。


「どこに移動させるの?」


「誘い込みポイントじゃ」


「だって、もう倒したよ」


「こいつはまだ危険じゃ、核汚染の脅威をこのままにはしておけん」


「どうすんのさ?」


「まあ、みておれ」


 唖然とするヴィットだったが、訳も分からないうちに手伝わされた。そして、先頭でワイヤーを引くアリスⅡから、大泣きのチィコが駆け寄って来る。


「リンジー!!」


「……チィコ」


 直ぐにチィコはリンジーを抱き締めるが、リンジーはチィコの背中に腕が回せなかった。


「何も言わんでええよ……分かってるんや……リンジーの気持ち」


 優しいチィコの気持ちはリンジーの涙腺を崩壊させた。思い切り抱き締め返す感触は何故かとても懐かしく感じて二人は抱き合ったまま、泣き続けた。


「あそこ、マリーが降りて来る!」


 最初にヴィットが見付けた。マリーは車体を揺らしながら着陸したが、その場から動かない。青褪めたヴィットが駆け寄り、全員が後に続く。


「マリー大丈夫か?!」


「マリー、どうしたの?!」


「マリー返事してぇな!」


 ヴィット達は傷付いたマリー車体にすがり付くが、マリーの返事はなく車体を小刻みに震わせるだけだった。


「どうした? 何かあったのか?!」


「しっかりしろ! 俺達が付いてる!」


「大丈夫だっ! 損傷は少ない!」


「どこか、痛めたのかっ!」


 遅れて来たゲルンハルトは血相を変え、イワン達も唾を飛ばして興奮気味に叫んんでマリーを取り囲む。


「どうした、マリーちゃん? 皆心配しとるぞ……何も遠慮はいらん。皆、マリーちゃんの事が大好きじゃからな」


 オットーが優しく車体を優しく撫ぜると、マリーの中で何かが弾ける。そして、マリーは消えそうな声で呟いた。


「……ごめんなさい……皆が一生懸命直してくれたのに……ワタシ、また……」


「マリー!!」


 マリーの声は止まりそうだったヴィットの心臓を動かし、本当の意味で皆を救った。


 その場の全員が笑顔になって、ヴィットとマリーを優しく見詰めた。アリスⅡの砲塔でも、ミネルバさえ自然な笑顔になっていた。


____________________



「今度は善戦しましたね」


 副官は少し笑って指揮官を見た。


「善戦? 完全に撃破されてか? もういい、残存に撤収の指示を出せ」


 呆れた様な顔で、指揮官は髭を触る。


「それが、ケルベロスが撃破された時に、撤退命令は出しました。前線に残りるのは我々だけです」


 副官は済まなそうに報告するが、指揮官は”そうか”と一言だけ言った。


「ケルベロスの自爆はどうしますか? 奴ら移動させる様ですが」


「自爆だと? ここで自爆させたら鉱山は二度と使えなくなる……放っとけ……まあ、今度のデータは凄く気に入って貰えたみたいだからな」


 指揮官の言葉に、副官は顔を背けながら笑顔になった。少し前のクライアントからの通信を思い出した指揮官は、大きな溜息で自らの肩を揉んだ。


「了解、直ちに撤収します」


「そうだ……」


 撤収の準備を指示する副官の背中を呼び止め、指揮官は少し笑う。初めて見る指揮官の笑顔は、副官を驚かせた。


「何ですか?」


「通信傍受で分かったんだが、奴らの間ではアンタレスは”マリー”と呼ばれてるらしい」


「はぁ、その様ですね」


「我々も、赤い戦車のコードネームは”マリー”に変更する」


「そうですね……その方が何だか、しっくりきます」


 敬礼した副官は、まだ笑顔を見せる指揮官に対し自らも笑顔になった。


_____________________



「この場所じゃ」


 街からかなり離れた山の麓、広い原野にケルベロスを移動するとオットーは全員を退避させた。


「なんだよ、ここに置いて行くの?」


 頭の上に? マークを団体で浮かべるヴィットに、今度は先に来ていたTDが説明した。


「核物質を安全に葬る方法は無いんだ、せめて地中深くに埋める事位しかね」


「埋めるって、地面の真ん中だよ……」


「見てな。コンラート! 導爆線を繋いで!」


 遠くで導爆線の大型リールを押しながら、ぶつぶつ文句を言うコンラートにTDが大声で叫んだ。


「よし準備が出来たようじゃな。リンジー、ボタンを押すのじゃ」


「私……?」


「そうじゃ、今回はリンジーが一番頑張ったからのぅ」


 笑顔のオットーが起爆スイッチをリンジーに手渡す。全員が耳を塞ぎ、リンジーがボタンを押すと大音響と共にケルベロスの足元が陥没を始め、ケルベロスはその蟻地獄の様な壮絶な光景のなか、地中に飲み込まれた。


「推定で100m以上埋まったよ。後は鉱山から出た余分な土砂で、このすり鉢を埋めれば完成だ」


「埋めるって、何年掛かるんだよ……」


 胸を張って説明するTDのドヤ顔をい尻目に、超巨大なクレーターを見たヴィットは大きな溜息を付いた。


「後、二日で軍が到着する。それで今回のミッションは終了じゃ」


 オットーの言葉に全員が安堵の溜息を漏らした。ヴィットはマリーに近付くと、優しく車体を撫ぜた。


「終わったよ、マリー……」


「ヴィット……ワタシ……」


「大丈夫。さっきTDも言ってたろ、足回りと装甲の補修だけで済むって。今回は軽傷だよ……それにね、俺もリンジー達も誰も怪我一つしなかった……マリーのおかげだよ」


「……ヴィット……」


 マリーは車体を震わせるが、その時腕のレシーバーにミリーの元気な声が届いた。


『マリー、また部品持って行くからね!』


「ミリー、怪我は大丈夫なのかっ?!」


 見上げたミリーの機体は、明らかに片方の主翼が破損していた。


『飛べてるから大丈夫だよ。ヴィット、マリーの事よろしくね。そんじゃ、行くね』


「ミリー! ありがとう!!」


 ヴィットは腕の通信機に思い切り大声でお礼を言った。


「マリー、よかったね」


「ほんまや……これからは、気ぃ付けてな」


 今度はリンジーとチィコがマリーの傍にやって来て、交代で車体を撫ぜた。だが、マリーはチィコの様子がおかしい事を敏感に感じた。


「チィコ……」


「ほんならな、ウチ……行くで」


「行くって、どこに?」


 リンジーは言葉の意味が分からずに、唖然とした顔で聞き返した。


「約束したんや……」


 俯いた顔を上げたチィコの瞳には、大粒の涙が光っていた。


「約束は反故だ。こんな泣き虫、アタシは使わないよ!」


 アリスⅡのハッチから、ミネルバが腕組みして言い放った。


「えっ……」


「いいから、妹と一緒に家に帰りな」


 今度は砲手の男が別のハッチから顔を出して、笑顔で言った。


「ホンマにええの?」


 体を震わせ、チィコは更に大粒の涙を流す。


「盗賊との約束なんか信じるな! じゃあな!」


 口元で笑ったミネルバは、ハッチを締めるとアリスⅡは発進した。各ハッチからは、男達が笑顔で手を振り、チィコも笑顔で大きく手を振った。


「まあ、チィコもチィコなりに頑張ったって事さ」


 リンジーも肩に手を掛け、ヴィットは優しく言った。


「そうね……」


 リンジー笑顔でチィコに駆け寄ると、思い切り抱き締めた。


「さて……もう、ひと頑張りだな」


 大きく背伸びしたヴィットの視線の先には、そして皆の視線の先には、傷付いてはいるが赤い車体を輝かせたマリーの姿が確かにあった。



      第二章 完


第二章 完結しました。


多くのご声援と、ご指導、誠にありがとうございました。正直、第二章はネット小説大賞一時通過の時点で、まだ白紙の状態でした。応援して頂いた皆様の後押しで、どうにか完結に至りました。この場をお借りして、御礼申し上げます。

第三章は現在未定ですが、構想の中ではスピンオフなども考えており、また読んで頂けましたら幸いです。


更に進化したマリーの活躍にご期待下さい。ご愛読、誠にありがとうございました。

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