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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第二章 進化
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終焉

 シュワルツティーガーも動かない車体で奮戦していた。ハンスは片方の履帯だけを動かし、信地旋回で側面からの被弾を避け装甲の厚い正面で敵弾を受けていた。


「丈夫な車体に感謝するぜ!」


「当てられる前に当てろよな!」


 イワンの叫びに、ハンスは必死にハンドルを操作しながら叫び返す。


「右前方!! マリーが突っ込む!」


「何っ!!」


 ヨハンが装填の隙にケルベロスに突っ込む姿を見付け、ゲルンハルトの胸を一瞬で凍らせた。


「何考えてるっ! 正面から行くぞっ! 何だぁ?! 止まりやがった!」


 慌ててハッチから顔を出したイワンの目には、遠く爆煙の中に小さな赤い戦車が映った。


「まさかっ!」


 ゲルンハルトが叫んだ瞬間、ケルベロスの砲身が破裂した。


「やりやがった! 主砲を破壊した!」


 大喜びのイワンの声に、ハンスもヨハンもハッチから身を乗り出す。


「まだだっ! 腕の機関砲は生きてるっ!」


「また正面から行く気だっ!」


 双眼鏡で確認したゲルンハルトの声に、さっきよりも大声でイワンが被せた。その刹那、マリーに気を取られてる間に接近した敵戦車が爆発炎上した。


『戦闘中に、よそ見するなっ!!』


 シュワルツティーガーの通信機にミネルバの怒号が飛び、物凄い速度で至近を通り抜けて行った。


「あいつ……援護に向かうのか? マリーの……」


 唖然と呟くイワンがアリスⅡの後姿に呟き、その後に続く突撃砲を見送りながらゲルンハルトも頷いた。そして、ゲルンハルトは双眼鏡の先に無事なヴィットとリンジーを見付けると、口元を綻ばせ大きく掛け声を上げる。


「さあ、敵の残りも少ない! 気を抜くなっ!」


 全員が一斉に持ち場に戻ると、敵戦車の索敵を開始した。


______________________



 致命傷に成りかねない至近距離、37ミリ機関砲弾が降り注ぐ。だが、そんなマリーを救ったのは、ミネルバの怒号だった。


『まんまる!! 死にたいのかっ!! 撃つから避けろっ!!』


 足回りの激痛を耐え、マリーは咄嗟に進路を変える。そこにアリスⅡの主砲弾が、マリーの間際を通過してケルベロスの足元に着弾した。


 ケルベロスはアリスⅡの強力な主砲弾の着弾で、足元が揺れバランスを崩す。それはマリーの待っていたチャンスだった。一気に底面ロケットを噴射して、ケルベロスに取り付いた。


 飛び散る火花と金属が擦れる轟音! マリーは無事なアームと、壊れ掛けのアームを駆使してなんとかケルベロスにしがみ付いた。だが、ケルベロスにの抵抗は凄まじく猛烈な勢いで車体を揺さぶる。


 マリーの不完全なアームは関節部から火花を散らし、激痛が全身を駆け抜けるが、必死でマリーは耐えた。今度振り落とされたら、取り付く為の噴射剤がない。残り僅かな噴射剤は脱出の為に必要なのだ。


 決してマリーは”死”覚悟している訳ではなかった。その先の”生”こそがマリーの目指すゴールであり、ヴィットやリンジー達と一緒に生き抜く事こそがマリーの目的だったから。


______________________



 だが、マリーのアームは関節部分から破断する。特殊合金とは言え、破損した状態では、マリーの自重と衝撃には耐えられなかった。


 マリーの車体が宙に浮く。最後のチャンスを失う瀬戸際、コンマ数秒の世界でマリーは最後の噴射の選択を迫られた。


 ヴィットの笑顔やリンジー達の声が全ての回路を駆け抜け、噴射を行おうとした瞬間! ケルベロスの車体が猛烈な振動に見舞われた。そには両側から突進して来たサルテンバと、マチルダの姿があった。


 それだけではない。前方からはアリスⅡ、後方からミネルバ配下の突撃砲が続いてケルベロスの車体を押さえ付ける。物凄い轟音と火花が四方から飛び交い、甲鉄の怪物の動きを封じる。


 特に突撃砲は低い車体を利用し、ケルベロスの足回りの中まで砲身を突っ込み発砲する。


 飛び散る火花と破片! それはケルベロスの悲鳴にも似た大音響で周囲に響き、自身の砲も破壊されるが、捨て身の戦法は足回りの破壊を成し遂げた。


『マリー!! 今だっ!』


 ヴィットの叫びがマリーの通信機で炸裂すると、マリーはEMP爆弾のスイッチを押して、ケルベロスの点検用ハッチに放り込んだ。


『あと10秒!! 皆逃げてっ』


 マリーの叫びと同時に、全車が全力後退する。マリーもロケット噴射で離脱しようとするが、瞬間! ケルベロスは腕をマリーのアームに絡ませた。


「えっ!!」


 マリーはそれしか言えない。全力噴射のロケットでもケルベロスの太く強力腕からは逃れられない!。


「マリーが捕まった!! リンジー撃てっ!!」


「無理よっ! マリーに当たるっ!!」


 ヴィットとリンジーの叫びが交差する。激しく動くマリーとケルベロスに対し、腕の部分だけに命中させるなんて絶対に無理であり、リンジーにはマリーを撃つなんて出来なかった。


「奴の腕を狙えっ!!」


「無理です、近過ぎます!!」


 ミネルバも怒鳴るが、アリスⅡの強力な主砲が仇となった。撃てば必ずマリーを巻き込む、悔しさで唇を咬んだミネルバはだた、見ている事しか出来ない自分を呪った。非情なカウントダウンは続く、マリーの命を終わらせる為の……。


『皆、早く後退して!! マリーは任せてっ!!』


 だが、全員のココロが折れそうになったその瞬間! ミリーの声が全車の無線機に炸裂すると、一斉に全車が全速後退する。ミリーは直上に回り込みながら急降下! ケルベルスの腕に全ての意識を集中すると必殺のモターキャノンを叩き込んだ。


 30ミリ機関砲の集中弾着は見事にケルベロスの腕に命中し、マリーを掴む腕が緩む。その瞬間、残る噴射剤を全力噴射! マリーは大空に舞い上がった。


 その数秒後! ケルベロスのの車体が一瞬煌めき、遅れて爆音が訪れる。ケルベロスは車体こそ撃破された様子は窺わせないが、二度と動く事はなかった。


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