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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第二章 進化
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ココロの定義

 マリーは自らケルベロスの主砲の軸線に入る。ヴィットやリンジー、ミリーやミネルバの声が輪唱の様に通信機から響き渡るが、マリーの精神は穏やかだった。


「ありがと、皆……」


 呟いたマリーは照準計算に全神経を集中する。火花を散らす足回りも、激痛が更に増す側面装甲も全て無視し、マリーは一点だけを見詰めた。近接目標に対しマリーの主砲ロケット榴弾は不利になる、発射されてから加速する特性は普通の砲弾とは決定的に違った。


 初速の速い重い砲弾故に、目標が近い程その威力を発揮する長砲身の大口径砲に対抗するには”発射タイミング”それしかなかった。マリーの意図は、ケルベロスが砲弾を発射した瞬間に、砲口を飛び出す砲弾を狙い撃つと言う神業だった。


 マリーは命中精度を上げる為に、ケルベロスの真正面で急停車! 車体のブレを最小限で押さえ、そのタイミングを待つ!。


 そして、その瞬間が訪れる。ヴィットやリンジー、チィコの血が凍り、ミリーやミネルバ、ゲルンハルト達やオットー達の叫びが大空に響き渡った瞬間! マリーの全てを賭けた、オンリーワンショットが炸裂した。


 爆音と爆炎、そして残り香の爆煙が去ると……そこには砲身を破壊されたケルベロスの姿が退廃的な彫刻の様に平原に佇んでいた。


「マリー……やったのか……」


 唖然と呟くヴィットの手を、そっとリンジーが握る。


「すごいよねマリー……本当にすごいよね」


 溢れる涙を拭おうともせず、リンジーも呟く。だが、まだ終わった訳ではない、ケルベロスは満身創痍になりながらも、怒り狂った様にマリーを目指す。残る腕の機関砲を撃ちまくり、マリーの周辺を弾幕で覆った。


 至近距離の37ミリ対戦車砲弾は、電磁装甲さえものともせずにマリーのセラミック装甲を撃ち砕く。


『逃げろっ!!』


 ほぼ全員が叫ぶが、マリーの噴射剤の残りは少なくサイドキックシステムは最後の決戦に備え温存を選択する。壊れる寸前の足回りでは、回避運動もままならない。


 だが、マリーは更に加速する、自らの命の炎を燃やして……。


______________________



「マリーの傍に行くんやっ!!」


 暴れるチィコを、砲手の男は無言で押さえる。ミネルバはさっきのマリーの砲撃の衝撃からやっと解放されると、チィコに言葉を掛けた。


「あの戦車は、ただの兵器じゃないのか?」


「何言うとんのや! マリーは兵器なんかやないっ!」


 泣き叫ぶチィコが凄い目でミネルバを睨んだ。


「武装を持ち、装甲を施した戦車は兵器だろ? 人を殺す……」


 ミネルバは自分の意志とは違う言葉を漏らす。


「絶対にちゃう! マリーは皆を守る為に戦ってるんやっ! あんたも見たやろっ!」


「ただの……話せる機械だ」


 ミネルバの中で、マリーの意味があやふやに揺れた。


「マリーは機械なんかやないっ! マリーはマリーやっ!」


 チィコの涙を直視出来ないミネルバは、視線を車内の計器に向ける。


「……だがな……」


「姉さん、もういいでしょう。自分達も、このアリスⅡを兵器として扱って来ました……こいつはね、そこのチャンバーに砲弾を込め、人に向けて撃てば簡単に人殺しが出来るんです……でも、トリガーを引くのは俺達なんですよ……」


「だから何だ!」


 砲手の男はミネルバを制すると、諭す様に呟いた。ミネルバは、心の奥底を覗かれた様な気がして、思わず怒鳴る。


「あの戦車……マリーは今、戦っています。それは兵器だからですか? 違います、お嬢ちゃんの言う通り、仲間を皆を守る為に戦ってるんです……どこが違うんですか? 我々と……」


「姉さん、行きましょう」


 それまで黙っていた装填手の男が、真剣な顔でミネルバを見た。


「自分だけが安全な場所にいて、それが援護なんですかねぇ」


 操縦手の男も下からミネルバを見上げる。


「俺もあの戦車、機械だとは思えませんねぇ……」


 通信士の男も振り返り、真剣な視線を送った。ミネルバは、暫く考える……そして、言葉を絞り出した。


「お前ら、正気か? 機械の為に命の危険を犯すのか?」


「はい、本気です」


「俺も」


「俺もです」


「勿論です」


 全員が肯定し、チィコもミネルバを真っ直ぐな瞳で見つめた。ミネルバはハッチから身を乗り出すと、たった一人で怪物に挑むマリーを遠く見詰めた。


「全車両に伝達! これよりマリーの援護に向かう! アリスⅡの履帯の後に続け!」


 ミネルバの凛とした指示に、全員が元気よく返事した。


____________________



 飛び出そうとするヴィットの腕を、必死の形相のリンジーが押さえる。


「行かせてくれっ! このままじゃマリーがっ!」


「マリーの気持ちを分かってあげて! 生身の私達に出来る事なんてないっ!」


 必死で止めるリンジーの腕を振り払い、ヴィットは大声で怒鳴る。その目には溢れる涙が滲んでいた。


「生身じゃなきゃ、いいんだなっ!」


 ヴィットはサルテンバに向けて走り出した。慌ててリンジーも後を追うが、横転したサルテンバで何が出来るって、ココロの中で叫んだ。ヴィットは直ぐにウィンチを確認すると、フックを外し近くの岩に走る。


「無理よ! 起こせっこない!」


「何もしないなんて嫌なんだっ!」


 ヴィットは岩にワイヤーを回すと、フックを掛ける。急いで戻ると、ウィンチのレバーを押した。ワイヤーが巻き取られ、少しづつワルテンバの車体が傾く。


「危ないから離れてっ!」


 リンジーの叫びも、今のヴィットには聞こえない。微妙な加減でサルテンバの傾きを調整すると、寸前でワイヤーが切れる。揺れるサルテンバが、ヴィットに倒れ掛かろうとした瞬間、突然現れたマチルダが車体を押した。


 寸前でサルテンバの車体は復元した。


「じぃちゃん! 恩に着るっ!」


「マリーちゃんが奴に取り付く! ポイントに誘導じゃ!」


 先にマリーの元に向かうオットーが叫び、ポールマンもハッチから顔を出して手を振った。


「マリーを助けに行くぞっ! 乗れっ!」


 先に飛び乗ったヴィットの叫びに、リンジーは涙を拭って大きく頷いた。


「うん……行く」


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