表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第二章 進化
55/172

墓標

「奴が来る! ゲルンハルトさん、皆を後退させて!」


 通信を送ったヴィットはマリーを方向転換させた。方法など考えてもいないが、最初の予定通り地雷原に誘い込み、足回りを破壊して行動不能にするしかない。


「とにかく、地雷原に誘い込むしかないね」


「了解、それしかないよ」


 ヴィットの言葉にマリーも同意する。味方には可変戦車を撃破出来る攻撃力も、逃げ切れる機動性も無い。損害を無くす為には、マリー単機で行動するのが最善の策だった。


 ハンドルを握るヴィットの背中には、皆の思いが乗っていた。自分が必ず皆を守るなんて、大層な気持ちじゃない。もっと謙虚にヴィットは考えていた。


 誰も死なせない……味方も、そして敵さえも。それは、マリーが教えてくれた究極の強さ……マリーは何も言わないが、その気持ちは深く強くヴィットの中に芽生えていた。


________________________



「マリーとヴィットだけにやらせるの?!」


 シュワルツティーガーと並んだサルテンバの砲塔ハッチから、リンジーが叫ぶ。


「可変戦車の機動性はマリーと同等だ、我々では足手まといになるだけだ。奴の主砲直撃に耐えられる車両もない……」


 沈む声のゲルンハルト。確かに他の戦車が出て行っても、何の術も無く瞬殺されるだろう。


「せめて、援護を!」


「有効な射程に近付く事は、奴の射程圏内でもあるんだ」


 食い下がるリンジーに、ゲルンハルトは力なく言った。可変戦車が相手では、味方戦車が無力なのは分かっていたが、リンジーは悔しさで震わせた。


「サルテンバが、ごっつい装甲で、強力な砲があればいいやけど……」


 チィコも体と声を震わせた。


「そうだ! チィコ! 鉱山に行って!」


「どないするん?」


 急に思い出したリンジーが叫び、チィコが運転席から眉を下げて聞いた。


「アリスⅡ、あれな援護出来る!」


「そうか!」


 チィコはアクセル全開で鉱山に向かった。唖然と見送るゲルンハルトは、ハッチの中を覗き込んでイワンに言う。


「アリスⅡなら、確かに出来るかもな」


「ああ、砲も新型120ミリの長砲身だ、可変戦車の射程外から攻撃出来る」


 イワンも同意するが、ハンスは否定的に首を捻った。


「後は、ミネルバが承知するかどうかだな」


「ああ、今回のミネルバは様子が変だ……異常に鉱山に執着してる」


 ヨハンはミネルバの行動に疑問を抱いていた。ゲルンハルトも最初から援護ならミネルバしかいないと頼んではみたが、即答されたのだった”嫌だ”と。


__________________________



「ミネルバ! お願い! ヴィットとマリーを援護して!」


 鉱山に着くなり、リンジーな泣きそうな顔でアリスⅡのミネルバの元に掛け寄った。


「お願いや!あんたにしか出来んのや!」


 チィコも必死で頭を下げる。だが、ミネルバは首を縦には振らなかった。しかし、その表情は何時ものミネルバとは違い、悲しみが浮かんでいつ様にも見えた。


「悪いが、アタシはここを離れる訳にはいかない」


「どうして? 故郷を守りに来たんじゃないの?!」


 涙を滲ませ、リンジーがミネルバの顔を見詰めた。


「アタシにとって、故郷はただの生まれた場所。どうなろうが、関係ない……だが、この鉱山は違う……」


 声のトーンが違った。リンジーにはその先にある何かが、胸の奥に違和感を感じさせた。


「どう違うの?」


 大きく深呼吸した後、ミネルバがゆっくりと話出した。


「父は、この鉱山の最深部……そこで落盤によって命を落とした。優しい父だった……何時もアタシを抱き締めてくれた」


「お父さんが……」


 リンジーは言葉を失い、チィコも何も言えなくなった。


「崩れやすい土壌で、遺体を掘り出す事は出来ない……この鉱山は、今も父の眠る墓なんだ……誰にも荒らさせない」


「そうなんだ……」


 リンジーはそれ以上言葉が出ないが、チィコは横で体を震わせ続けていた。


「そうなんか……でもな、ヴィットやマリーは今、生きとるんや……ウチはな、ウチらはな……今、生きてる人を守りたいんや」


 真ん丸な瞳に沢山の涙を浮かべ、チィコはミネルバを見た。だが、ミネルバはその瞳から視線を逸らせた。


「……済まない」


「いこ、チィコ……」


 泣きじゃくるチィコの手を引いて、リンジーは背中を向けた。


「……どうするつもりだ?」


「私が出来るなら、どんな事をしてでもヴィットを助けたい……でも、私が出るとヴィットとマリーの邪魔になるんだ」


 ミネルバの問いに、振り返ったリンジーは誰に憚る事無く涙を流した。ミネルバはそれ以上、何も言わなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ