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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第二章 進化
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心根

「リンジー、どないしたん? 撤収せんの?」


 アリスⅡを見詰めたまま何も言わないリンジーに、不思議そうな顔でチィコが振り返った。少し考えた様な素振りのリンジーは、チィコに微笑んだ。


「あのままじゃ、ミネルバは動けないよ。助けなきゃ」


「そうやな、敵が来たら一番の的やな」


 直ぐにチィコは微笑み返すと、アリスⅡの元に向かった。


「ワイヤーを投げて! 引っ張るから!」


 ハッチから飛び出したリンジーが叫ぶが、ミネルバは大声で叫び返す。


「早く逃げな! 敵が迫ってるんだよ!」


「言われなくても、あなたを助けたら逃げる! 早くワイヤーを!」


 真剣な顔のリンジーの叫びに、ミネルバは少し笑うと部下に指示を出した。


「ワイヤーを持って行け! 急げ!」


 部下がワイヤーも持って走って来る、リンジーは更に大声を上げた。


「今のうちに模擬弾も投棄して! 少しでも実弾補給の時間を稼ぐのよっ!」


「あんたの方は!」


 叫び返すミネルバに笑ったリンジーが大声で言った。


「最新型をナメないでよ!」


 言うが早いかサルテンバの砲塔の後ろから、機銃が空薬莢を排出するみたいに模擬弾が排出された。


「ほう、便利だな……模擬弾を捨てな! 実弾数を報告!」


「実弾は約半分、残弾三十発!」


 部下の報告が入ると同時に、アリスⅡにワイヤーが繋がれた。


「チィコ! 全力後退!」


「ほいな!」


 ギヤをバックに叩き込みアクセルを蹴飛ばすが、70t近い重駆逐戦車の牽引は簡単にはいかない。傾斜地で、しかも半分以上履帯が埋まる柔らかい土壌は更に救出を困難にした。


『早くしないと、敵に囲まれるぞ』


 ゲルンハルトの通信に振り向くと、全速で近付いて来るシュワルツティーガーが見えた。


「ゲルンハルトさん……」


 唖然とするリンジーに、ゲルンハルトは笑いながら言った。


「明らかに過不足だろ、中戦車で重駆逐戦車を牽引するなんて」


 急停車したシュワルツティーガーから、イワンがワイヤーを持って叫びながら走る。


「決闘中の敵を命懸けで助けるなんざ、大間違いだっ! でも、俺は好きだけどな!」


 重戦車シュワルツティーガーの馬力は物凄い。サルテンバと二両体制で牽引すると、あっと言う間にアリスⅡを救出来た。


「礼は言わないよ」


 薄笑みを浮かべたミネルバが全速で鉱山に戻る。見送るリンジーとチィコに、ゲルンハルトが補給を促した。


「さあ、早く実弾補給を済ませろ。直ぐに敵が来るぞ」


「了解!」


 リンジー達は急いで補給に戻った。


___________________



『前方に敵戦車部隊! 広範囲に広がりつつ侵攻中』


 ハルダウンしたモスから、ゲルンハルトに通信が入った。


「地雷原は頭に叩き込んだな! 誘導しつつ、後退しろ!」


 全車に向けてゲルンハルトは通信を送る。戦力差は倍以上、味方が不利なのは変わりないが、マリーが戦線に参加する事で数の不利は相殺出来る。だが、敵には新型の可変戦車がいる事で圧倒的有利だった。


「なあ、可変戦車の対策はどうするんだ?」


 笑いながら聞くイワンに、苦笑いでゲルンハルトが答えた。


「考える前に敵が来た……さて、どうしたもんか」


「余裕だな」


「ああ、作戦は立案済みって顔だ」


 ハンスやヨハンも笑顔を向けた。


「買い被るな……」


 笑顔を返すゲルンハルトの脳裏には、平原を疾走する赤い戦車が浮かんでいた。それは、この戦場で敵を迎え撃つ全ての味方に共通していた。


______________________



「チィコ急ぐよ!」


 砲弾補給を急ぐリンジー達だったが、重い砲弾は女の子二人で作業するのには限界があった。戦闘態勢の為に味方の男どもは出払っていて、町に降ろしていた実弾の補給は二人でやるしかないが、作業は中々進まない。


「お嬢さんも戦うの?」


 年配の婦人が、泣きそうな顔でリンジー達に近付いて来た。


「ええ、戦いますよ」


「そんな……」


 笑顔のリンジーを見て、夫人は更に悲壮な顔をした。


「おばぁちゃん、心配せんといて。ウチらは大丈夫やから」


 砲弾を担いだチィコは、真ん丸な瞳をカモメみたいにして笑う。


「これを運べばええんか?」


 老人が砲弾をヨロヨロと運ぼうとする。


「危ないよ、おじぃちゃん。それ、実弾だから」


 慌ててリンジーが止めようとするが、次々に老人達がやって来る。


「あんたらみたいな女の子だけに、戦わせて……ワシら……」


「何言ってんねん。可愛い女の子はウチらだけや、後はむさ苦しいオッサンばっかなんやで」


 チィコは笑顔を向けるが、老人達は引かなかった。


「ワシ達にも出来る事を、やらせておくれ」


「分かりました。この砲弾を運ぶのを手伝って下さい。重いし、危険ですので、二人一組でお願いします」


 笑顔のリンジーの言葉に、一斉に老人達は作業に取り掛かる。老婦人は、リンジーとチィコの手を取り、また泣きそうな顔で言った。


「危なくなったら、一番に逃げるのよ。私達の事は気にしなくていいから、自分の事を一番に考えてね」


「はい」


「ありがと」


 リンジーとチィコの胸には、暖かい気持ちが充満した。


______________________



「前方一時、敵戦車」


 帰投の途中、マリーが移動中の敵戦車を発見した。


「数は?」


 ニヤりとしたヴィットが聞き返す。


「八両、中戦車の集団よ。一列縦隊で進行中」


「道幅はあるし、ギリギリ追い越せそうだね」


 マリーの返答に、更にヴィットが微笑んだ。


「ここで立ち往生したら、後続部隊は通れないかも。迂回する事になれば時間も稼げそうね」


 他人事みたいにマリーが言うと、ヴィットはハンドルと持ち替えて指示を出す。


「追い越し様に、一撃を掛ける!」


「了解!」


 マリーの返事と同時にヴィットはアクセルを踏み込む。猛然とダッシュしたマリーは最後尾の車両に並ぶと、同軸機銃や対空機銃で履帯や転輪を破壊する。二両程追い越し様に破壊すると、次の車両が幅寄せで前進を阻もうとする。


 ヴィットは即座に反対側に回り込み、マリーの機銃掃射は続いた。追い越した時には全車両が走行不能になり、最前列の車両が怒りの砲弾を撃ち込んで来るが、マリーはサイドキックで簡単に躱した。


 そして砲塔を後ろ向きに指向すると、ロケット榴弾で敵の主砲を粉砕した。


「後ろ向き、しかも回避運動をしつつも当たるのね……」


 呆れたヴィットが冷や汗を流すが、マリーは嬉しそうに言った。


「えっへん! あんなの簡単だよ」


「さあ、急ぐよ!」


 笑顔のヴィットはアクセルを踏み込んだ。



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