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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第二章 進化
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意地

 戦いの場所は街外れの平原だった。リンジーは正直に、地雷敷設の場所をミネルバに教えた。


「どうして教えた?」


 薄笑みを浮かべたミネルバが、リンジーに強めの視線を向けた。


「ハンデなどいらない。あなたとは対等に戦いたいから」


 視線を跳ね返し、リンジーも強い口調で言った。火花が散る目線を交わすと、両者共に愛機に乗り込んだ。


「全く……この忙しい時に」


 呆れ顔のイワンが呟くが、薄笑みを浮かべたゲルンハルトはリンジーの気持ちを代弁した。


「譲れないモノは誰にでもあるさ。それには時間や場所は関係ない……他人には分からないのさ、意地ってものは……」


「あんたの口から、そんなセリフが出るなんてな」


 ハンスは大きく背伸びをしながら呟いた。


「どうでもいいけど、ヴィットからの連絡で敵が動き出したらしい。侵攻にはまだ時間があるが、どうする? ゲルンハルト」


 冷静な口調でヨハンは報告するが、焦ってる様子は窺えなかった。


「あんたら、何で止めないんだよ。敵が来てるそうじゃないか?」


 顔面蒼白のTDは、遠く平原の彼方に視線を向ける。


「そうだ、万が一リンジーが怪我でもしたらどうするんだ」


 少し論点が違うが、コンラートも事態を心配していた。


「総員戦闘配備、侵攻に備えろ」


 ゲルンハルトは指示を出すが、TDはポカンと呟いた。


「リンジー達はどうするんだ?」


「今は止められないさ。だが、リンジーもタンクハンターだ。その辺は心得てる」


 遠く離れたサルテンバを見ながら、ゲルンハルトは静かに言った。


____________________



 敵偵察を排除し、逃走を確認するとヴィットが肩をポキポキ鳴らしながら言う。


「さて、そろそろ戻るか。敵の侵攻も確認したし」


「そうね、思い切り町へのルートだね。他の道への迂回は今の所確認出来ないよ」


 もう一度索敵レーダーで敵の侵攻ルートを確認して、マリーは報告した。


「でもさ、リンジーの奴、何考えてんだろう?」


 定時連絡を入れた時の状況を思い出し、ヴィットは溜息を付いた。


「ミネルバと何かあったのかしら?」


 心配そうなマリーの声に、ヴィットは面倒そうに言った。


「一応は味方なんだし、状況を考えて欲しいよなぁ」


「リンジーは優しくて聡明な娘、きっと何か訳があるんだよ」


 マリーの声はヴィットのココロを穏やかに包み込む。心から信頼して心配している事が痛い程に伝わった。


「マリーは信じてるんだね」


「うん。リンジーもチィコも、決して間違った事はしていないよ。ヴィットも信じてるでしょ?」


「そうだね」


 脳裏に浮かぶリンジーとチィコの笑顔は、ヴィットのココロに焼き付いていた。マリーと同じ位に大切な場所に。


「じゃあ、戻るよ!」


「オッケ! 全開でね!」


 元気なマリーの言葉にヴィットも元気よく返事した。


______________________



「ごめんね、チィコ」


 位置に付いたリンジーは、運転席のチィコに視線を落として呟いた。


「もうええて……それよか、早よやっつけて、お昼ゴハンにいこ。町のハンバーガー屋さんな、メッチや美味しいってイワンが言うてたんや。唯一、食べ物に関しては、あのオッちゃんの意見は信用できるんやで」


 見上げたチィコは満面の笑顔で言った。その笑顔は、崩れそうなリンジーのココロを救った。


「うん。そうしよう」


______________________



「姉さん、どうしてですか? こんな事やってる暇はないはずです……鉱山を死守するんじゃなかったんですか?」


 髭だらけの男が砲手席からミネルバを見詰めた。


「すまないね……だが、真剣な意地には真剣に答える。それがラフレシアの魔女なんだ」


 ミネルバは真っ直ぐなリンジーの瞳を思い出し、小さく微笑んだ。アリスⅡの乗員は初めて見るミネルバの穏やかな笑顔に、何故かココロの安らぎを感じた。


______________________



 先手はサルテンバが取る。俊足を生かし一気に距離を詰めた。


「正面から行きやがった!」


 双眼鏡を覗き込んだイワンが叫んだ瞬間、アリスⅡの88ミリ対戦車砲が火を噴いた。


「チィコ! 右!」


「おりゃ!」


 正に阿吽の呼吸、リンジーの指示と同時にチィコはハンドル切る。至近で砲弾が炸裂し、車内は大揺れするがリンジーの胸は高鳴っていた。


「初弾! 躱しました!」


「次弾装填! 速さを見せておやり!」


 砲手からの報告にミネルバは装填手の肩を蹴った。


「今度は死角に回り込むよ!」


「何や?! 旋回めっちゃ速いで!」


 指示を出すリンジーの声に呼応して、チィコはアリスⅡの旋回速度の速さに驚きの声を上げた。


「今っ! 停止!」


 リンジーの掛け声でチィコはブレーキを蹴飛ばし、サルテンバは急停車してノーズが思い切りダイブする! リンジーは走行中から狙いを定めていたトリガーをダイブが収まると同時に引いた!。


「右旋回!」


 ミネルバの叫びと同時にアリスⅡは超速旋回! 被弾面積を下げるが、リンジー渾身の一撃が砲塔防盾に命中した。


 伊達に二本の砲身じゃない。次弾は間髪入れず発射され砲塔前部に命中した。高速の自動装填は瞬時に次弾を装填し、リンジーは次を狙うがアリスⅡの真骨頂、大出力エンジンが唸りを上げると、中戦車並の加速で場所を移動した。


「やるね、被弾なんか久しぶりだ」


 口元で笑うミネルバが呟くと、砲手の男も照準眼鏡を覗きながら叫んだ。


「完璧はヒット&ウェイ! 基本は出来てます」


 サルテンバは二射した後、直ぐに高速で移動する。二発の命中を確認すれば、三射を狙うのも戦法だが、リンジーはアリスⅡの性能を侮らない。決して無理はせず、次のチャンスに賭けた。


「よし、移動を始めた。チィコ誘うよ! 左の窪みを通って!」


「ほい来た!」


 リンジーの指示でチィコは左方の窪みに飛び込む、そこはかなり深くてサルテンバの車体の半分ほどが隠れた。


「窪みの反対側に出ろ!」


 叫んだミネルバの中では、作戦は決まった。窪みに入ると言う事は、回避出来る方向が前後しかないと言う事。正面に回り込めば逃げ道はない、一気に勝負を賭けるには最適の場所だった。


 だが、回り込むには小高い丘を乗り越える必要があったが、ミネルバの計算では簡単に乗り越えられるはずだった。


「履帯が空転します!!」


 運転手が悲鳴に近い報告を叫ぶ、ミネルバの叫びが重なった。


「何っ!」


「掛かった! あそこは地盤が軟らかい、アリスⅡの自重を支えられない! チィコ!」


 リンジーの叫びと同時に、チィコはサルテンバを全力後退させ横腹を狙える位置に高速移動する。だが、その瞬間! ゲルンハルトの叫びが通信機に炸裂した。


『敵前衛を確認した! 直ちに撤収しろっ!』



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